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リアクション
メープル☆シュガー
「こうしてみんなで集まって遊びに出かけるのは修学旅行以来だな。あのときも楽しかったぜ」
緋桜 ケイ(ひおう・けい)の言葉に、腕にぺったりくっつきながら、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)がうんうんと楽しそうに笑った。
「うん、夜の街に出て、ちょっとドキドキでした」
ヴァーナーが屈託のない笑顔をケイに向ける。
「学校がちがいますから、こうやってケイに会えるのが、とってもうれしいのです」
「あ、ああ……」
ドキッとしたケイがヴァーナーを見つめ、口を開こうとしたとき、ひょいっとヴァーナーがケイの向こうにいるソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)にも笑顔を向けた。
「ソアちゃんともいっしょで、とってもうれしいよ!」
「あ、う、うん」
(あ、あれ? いつの間に呼び捨てに……?)
とか思っていたソアは、ヴァーナーに笑みを向けられ、困ったように曖昧な笑みを返す。
ソアとしてはみんなで紅葉狩りに来られたのが楽しい反面、お兄ちゃん的存在であるケイに恋人ができてしまい、心中複雑という感じなのだ。
もっとも、そう思われているケイ自身も複雑だ。
まだ11歳のヴァーナーは、本当の恋を知るような年齢ではない。
だからその可愛い笑顔でうれしそうに、大好きな人たちに「好き」と言って、いちゃいちゃしてハグして、チューしてしまう。
(俺も多くの『恋人』の中の一人というところなんだろうな……)
大切な人がヴァーナー1人のケイと違い、ヴァーナーには片思いの相手も気になる相手もたくさんいる。
それはヴァーナーが不実とかではなく、単純に素直にヴァーナーは『大好き☆』と思っているだけなのだ。
(ヴァーナーにとって、好きって気持ちは、親しい友人みんなに向けている感情なんだよな……)
それでも、ケイはヴァーナーのそばにいられればいいと思っていた。
楽しんでいるヴァーナーの姿が見られれば満足できる、と。
ケイはこうやって側にいて、本当の恋人同士になれるそのときをゆっくり待つつもりだった。
「どうしたの、ケイ?」
「あ、そろそろここら辺で弁当もいいかなと思ってな」
「うん、そうですね、それじゃ、お弁当にしましょう」
ヴァーナーの用意したお弁当は母国のデンマーク料理。
「これは中身は何が……?」
「サーモンマリネとサムソー・チーズ、ポークランチョンミートです」
鬼一 法眼(きいち・ほうげん)の質問に、ヴァーナーが丁寧に指をさして答える。
「サンドイッチってピクニックって気がするよな」
「ケイがよろこんでくれたなら、うれしいのです」
おいしそうにサンドイッチを食べるケイを見て、ヴァーナーがにっこりと笑う。
「ケイ、あ〜ん」
「あ、あ……あーん……」
ヴァーナーに促されて、ケイが照れくさそうに口を開ける。
「おいしいですか?」
「う、うん、すごく」
「わあい!」
ヴァーナーがニコニコ笑って、ぎゅーっとケイに抱きつく。
「ありがとうなのです、ケイ」
「こ、こちらこそ、弁当作って来てくれてありがとうな」
「あのあのっ、だからそーいうことは、もっと大人になってからですね!」
ソアが慌てて止めに入ると、ヴァーナーがくるっと、ソアの方を向いた。
「ソアちゃんも、はい、あーん」
「あ、あーん?」
何事かと思いながら、つられてソアが口を開ける。
すると、ケイにやったのと同じように、ヴァーナーはソアの口に食べ物を入れてあげて、にっこりと微笑んだ。
「ソアちゃんともこうしてできてうれしいのです」
「あわわわ……っ!?」
ぎゅうっと抱きしめられて、ソアは真っ赤になっておろおろする。
「ソアちゃん、かわいくて大好きなのです!」
「あ、ありがとうございます」
ヴァーナーの屈託のない愛情を受け、ソアは赤面する。
「もちろん、ケイも大好きですよ」
くるっと体を反転させて、今度はヴァーナーはケイに笑顔を向けた。
(……やっぱり呼び捨てになってる)
ソアは落ち着かなげに、2人の様子を見ていた。
2人が呼び捨てになったのは、薔薇の学舎に行った時に、ケイが「俺が1番好きなら、今日からおにいちゃん禁止な」といったのがキッカケでそうなった。
ヴァーナーの左手の薬指と、ケイの左手の小指には、その時に贈りあったニーベルングリングが光り輝いている。
「…………」
ソアも幼い頃、ケイに「呼び捨てで良い」と言われ、ケイと呼んでいる。
(ヴァーナーさんは私と同じか、それ以上にケイに近い存在になっちゃったんですねえ……)
そう思うと、ちょっとしんみりしてくる。
雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)はそんなソアを見て、ヴァーナーのお弁当を食べながら、ニコニコして言った。
「焼きイモ作ろうぜ!」
「焼きイモ?」
「ああ、道具持って来たんだ!」
ジンギス・カーン(じんぎす・かーん)が用意してくれた焼き芋用道具一式をベアは皆にちらっと見せる。
「よいのう、ジャパニーズ焼き芋!」
悠久ノ カナタ(とわの・かなた)がものすごく乗り気だ。
「秋となったら、しないわけにはいかぬであろう」
「うんうん、やっぱり焼きイモだ」
2人が頷き合い、ご飯の後は焼きイモとなった。
やる気満々のカナタとベアは2人で落ち葉を集めて回った。
「こんな山の中でマジかよ……」
ケイは何か言いたげだったが、セツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)も特に反対せず、クレシダ・ビトツェフ(くれしだ・びとつぇふ)は興味深げに何をしてるのかを見つめている。
「なにができるのかなぁ」
じーっとクレシダが見つめるのを、お姉ちゃんとして、ヴァーナーが見守っている。
しかし、その様子に気づき、セツカがヴァーナーを促した。
「わいがクレシダが危ないことしないように見ておきますわ。おぬしは好きに出かけていらっしゃいませ」
「好きにおでかけですか?」
ヴァーナーは意味が分からずきょとんとする。
セツカはヴァーナーを待っているケイに気づいていて、ケイを手招きし、小さな声で呟いた。
「ヴァーナー泣かせたらヒドイですわよ」
「な、泣かせねえよ!」
反射的にケイが応え、その様子を見て、ヴァーナーがきょとんとする。
そんなヴァーナーに見つめられ、ケイはヴァーナーの方に行った。
「あ、あのさ、せっかくだし、焼きイモ焼けるまで紅葉見に行かないか?」
「焼けるまでですか?」
「さっさと連れていっておくれ。焼きイモ反対派がいると、せっかくの焼きイモが上手く焼けない」
「別に俺は反対まではしてないぞ!?」
追い払おうとするカナタにケイは抗議したが、カナタは手をひらひらさせて、追い払った。
「良いからさっさと行ってくるといい。帰るころには焼けておるから」
カナタに追い出されるようにして、ケイとヴァーナーはみんなから離れていく。
(がんばってくると良いぞ、ケイ)
暖かい目でその背中を見送り、カナタは火術を使って、焼きイモ作りに集中する。
「…………」
ソアはそんな2人をちょっと寂しそうに送った。
「ご主人、ご主人。今日のご主人みたいなのも『やきいも』って言うんだぜ」
「やきいも……?」
「妬いている妹分だから、『妬き妹』ってなー」
「や、妬いてなんていません!」
ソアは顔を赤くして否定する。
でも、その直後に少し俯いてぽつんと言った。
「ヴァーナーさんの事だって、お友達として好きですもの……ちょっと羨ましいだけで……」
「ふむ、羨ましいか……」
耳聡ソアの言葉を拾い、カナタがソアを見る。
「ソアも恋に憧れる年なのかのう」
「恋ですか……」
自分の恋なんて思ってもいなかったソアが、ちょっと考え込む。
「ウェンボリスさんはかわいい娘だから、きっとそんな日が訪れますよ」
セツカは悩むソアにそう声をかけるのだった。
「紅葉ってふしぎです、ちる前にきれいになるってどういうきもちなのかなぁ」
「散る前に綺麗にかあ……」
ヴァーナーが何気なく言った言葉だが、ケイには何か感慨深いものがあった。
「あ、見てください。このもみじとってもきれいです」
落ちていた紅葉を拾い、ニコニコとヴァーナーが笑顔を見せる。
「きねんにしおりにしましょう」
「ああ、いいな、それ」
「ソアちゃんのぶんもさがしましょうね」
2人は綺麗な落ち葉を探し、紅葉と銀杏の綺麗なのを拾った。
「これであいあいがさが、ケイのぶんもソアちゃんのぶんもかけますね」
とてもうれしそうなヴァーナーを見て、ケイは微笑み、ヴァーナーを手招きする。
「ヴァーナー」
「はい?」
ちょこちょこっと寄って来た彼女の肩にぎこちなく手を置き、ケイがその額にキスをした。
「ありがとう、ヴァーナー。今日は本当に楽しくて、うれしかった……」
大好きだよという気持ちをいっぱいに込めてした口付け。
ヴァーナーはそんなケイを見て、今日一番の笑顔を向けた。
「はい、焼きイモ出来上がり〜」
ベアがみんなに配るのを見て、犬のバフバフに乗ったクレシダが手を伸ばそうとする。「クレシダ、危ないですわ」
まだ熱い焼きイモにすぐに手を伸ばさないように、セツカが制する。
「ふーふーしてあげるね」
ヴァーナーがお姉ちゃんらしく、焼きイモを冷ましてあげる。
猫舌のクレシダのために、よーく冷ましてから、渡してあげた。
全員で焼きイモを食べながら、今日の事を語り合い、日が暮れて行くのだった。