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リアクション
「一緒に行ったショッピングセンターも楽しかったが……、やっぱり自然の中でのんびりするのが一番落ち着くな」
姫北 星次郎(ひめきた・せいじろう)はシャンテ・セレナード(しゃんて・せれなーど)と紅茶を飲みつつ、紅葉を楽しんだ。
2人の力作お弁当はお互いにとって楽しく、「お弁当交換と言うのもいいものだ」と2人で楽しみ合って食べた。
シャンテが作ったお弁当が、アルザス地方の郷土料理『ベッコフ』だったのを皮切りに、料理や郷土の話になり、二人はゆったりとした時間を共に過ごしながら、お互いのことを話した。
「おにぎりを作るのは、大変じゃなかったか?」
星次郎の言葉に、シャンテはちょっと照れた笑いをする。
「本当に経験がないものだったので……上手く出来たかばかり気になりました」
「おいしかったし、うれしかったよ。家庭科は得意じゃないと言ってたのに。がんばってくれて。ブイヤベースも寒い外では温かくて」
「僕も美味しかったです。こういう場でのサンドイッチは格別ですね」
2人で笑い合い、シャンテの持ってきたクグロフと星次郎の持ってきたスコーンとイチゴジャムを食べながら、一緒に紅茶とロシアンティーを楽しんだ。
星次郎はこうしているのが好きだった。
親友というほどざっくばらんな間柄ではないが、一緒にいるとほっと出来るというか、とてもリラックス出来るので、そう言う意味では、シャンテは特別な存在だと思っていた。
だから……。
「次もまた会えるかな?」
星次郎の口から出た言葉に、シャンテはキレイな瞳を少し丸くする。
「え、また、ですか……?」
「ああ」
シャンテの確認に、星次郎は少し困った顔をする。
迷惑だったかなと思ったからだ。
だが、そうではなかった。
シャンテも同じ思いだったのだ。
「僕も帰る時にまた会えたらいいなと言おうと思ったんです」
「シャンテ……」
「気が合いますね」
2人はまた微笑みあい、次の約束を交わすのだった。
パートナーのチェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)に見送られ、白波 理沙(しらなみ・りさ)はリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)と共に紅葉を見にきた。
リュースもグロリア・リヒト(ぐろりあ・りひと)に見送られ、一人で来ている。
(今の自分の気持ちを伝えたい)
理沙はそう決めて、リュースと紅葉の山に入った。
薔薇の蕾にサファイアブルーのリボンを結んで渡してくれた時のことを思い出す。
誕生石と同じ色のリボンのついた、棘のない蕾の白薔薇。
あれが「踏み出すのは怖いけれど、あなたを純粋に愛しています」という意味ならば
、その告白の返事をしたい。
今までのように友達として接してくれる状態は居心地がいいし、安心できるけど、自分がラクだから相手がそうなわけじゃない。
だからちゃんとしたいと思っていた。
しかし、リュースはせっかくの紅葉でも、あまりウキウキとしていなかった。
パートナーを傷つけられた怒りで冷静さを欠き、制止しようとした親友の椎名真を殺そうとしたり、霊的障害が原因とは言え、仲間を害そうとしたり……。
最近の自分の行いにリュースは落ち込んでいたのだ。
「どうかした?」
あまりしゃべらないリュースを見て、理沙が言葉を掛ける。
「あ、ううん。なんでもないですよ、理沙ちゃん」
出来るだけ表情に出さないように気を付けていたが、出ていたらしいとリュースは思った。
そんなリュースを気にしつつ、理沙はずっと友達としての態度を崩さないリュースに問いかけてみた。
「ね、私たち友達だよね」
「え、うん」
「ずっと変わらず、前と変わらず……」
理沙が、じっとリュースを見る。
「この関係は心地いいけれど……本当に今のままでいいの? 私に何かを求めたりしないの?」
思い切って理沙は聞いてみた。
何か求めたりしないの、という問いに、リュースは率直な気持ちを答えた。
「答えが欲しくて告げた訳ではないから。ただ、後悔したくなかった。今、ここにいるのも同じ気持だと思う」
リュースは想いを伝えようと言葉を続けた。
「後悔したくなかったんです。初めて好きになった人には、何も言えなかった。言えないまま、彼女は遠い所に行ってしまったから」
「……」
答えが欲しくて告げたわけじゃないのなら、今、自分が返事をするのは不必要なことなのだろうか。
彼の言葉には、初めて好きになった人のことがあって、そのときの後悔を払拭したいために言ったのかなと。
理沙の心にそんな思いが過ぎる。
もう自分に興味が無くて、聞いてこないだけなら、そのまま話を終わらせようと思った。
でも、そうではない。
答えが欲しいわけではないが、ここにいるならば興味がないわけでもない。
だから……。
「先の事は分からないけど……あなたと一緒ならずっと笑っていられると信じてる」
理沙は今の気持ちをリュースに伝えた。
告白された時はビックリしたのと照れちゃったのとで、思わず誤魔化しちゃったけど本当はすごく嬉しかった。
自分に自信なんてないから、本当は気持ちを伝えるのは怖い。
でも、ひとつだけ自信があるとするなら……
『彼の事を想う気持ちは絶対に誰にも負けてない』
誰よりも幸せになってほしいし、私がしてあげたい。
……それだけじゃダメ、かな?
そう言う想いを込めながら、じっと理沙はリュースを見つめた。
これまで恋愛感情なんて抱いたことがなくて、たぶんこれが初恋。
ううん、恋なのかすらも分からずにいる。
でも……。
(私にとって彼が一番大切な人です。ずっと傍に居たいし、居て欲しい)
告白してから、もう彼の方からの動きはなくて、友達として接してくるのは、もう自分の事はどうでもいいからかもしれない。
でも、私には彼が必要で。
こうやって自分の気持ちまで、相手に負担させてしまうのは心苦しいけれど。
「これ以上……近づく気はない……?」
理沙が問いかける。
その問いかけと共に、目が熱くなった。
泣いては駄目と思って唇を噛む。
「今、ね……」
しばらくしてリュースが口を開いた。
「心が折れそうなので、友達でもいい、傍にいさせて、と思って、今日は来たんです」
「え……」
そこでやっと理沙はリュースの変化に気づいた。
リュースは何かを心の中に抱えていた。
理沙が告白の答えを考えている間、ずっと。
(私はリュースを見ていた……?)
悩む彼を見ていただろうか。
そのために何かしたいと思っただろうか。
(誰よりも幸せになってほしいし、私がしてあげたい……そう思ったのに、私はリュースの変化に気づいていた?)
自分に問いかける理沙に、リュースは笑顔を向けた。
「言ってくれてありがとうございます」
感謝の言葉。
それはイエスでもノーでもなく。
理沙は戸惑いの表情を浮かべる。
リュースは進展や返答は望んでない。
同時にそんな自分を変えたいと思いながら、変わってないと自嘲気味に思っている。
「あなたを信じてます」
リュースの告げたそれは白紙の委任状。
答えはこれからの2人で、きっと見つけられる。