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第三回ジェイダス杯

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第三回ジェイダス杯

リアクション

「梨や葡萄なんてどうでもいいんだよ!
 エリザベートはどこだぁ〜〜〜!!!!!!」
 レースと秋の果物狩りを同時にやってしまおうという目論見を見事に忘れ、一人エリザベート祭りを開催していたのは、ロリコン波羅実生南 鮪(みなみ・まぐろ)だ。
 特注の大型スパイク自転車にまたがった鮪は、レースそっちのけでイルミンスール校長エリザベートを探し、枝から枝へと走り回っていた。
 呆れ顔を浮かべながらも鮪の後に続くのは、バイク型機晶姫ハーリー・デビットソン(はーりー・でびっとそん)と、深紅のビロードマントと南蛮鎧を身にまとい彼にまたがった織田 信長(おだ・のぶなが)だ。
 本当ならばハーリーは、暴走する鮪のことなど放っておいて、第一回優勝者の名に相応しい堂々たる王者の走りを観衆に見せつけたかった。しかし、今回のジェイダス杯は自転車レースである。
 しかし、バイク型機晶姫故にハーリーは自転車にまたがれない。そこで自分の分と信長の分、2台の自転車を機体を挟み込むように括り付けることにした。
 これぞ「スーパー戦国・世紀末・大合体!」である。
「バルン、バルルン!!!」
 エンジン音で嘯いてみたものの…要は2台の自転車を引き摺りながら走っているようなものだ。早いわけがない。闇雲に枝から枝へと飛び回る鮪に着いていくのが精一杯だ。
「先頭を突っ走るだけが王者の貫禄ではないぞ」
 信長はそう言ってハーリーを励ますが、風を切って走ることこそバイク型機晶姫の本領である。不満は隠しきれないようで、ハーリーが奏でるエンジン音も今ひとつ覇気に欠けていた。
 いつの間にか、暴走した鮪の姿も見えなくなっている。
 しかし、まさに年の功というべきか、信長は焦りの欠片も見せない。見事に剃り上げられた月代をツルリと撫でると、ハーリーに声をかけた。
「まぁ、ゆるゆると行こうではないか。最後に勝者となるのが我らであれば問題はない」
 プラムがなった枝の先端辺りで鮪の鋭い叫びが響いたのは、そのときだった。
「うっぎゃぁ〜〜〜!!!」
 それまで鷹揚に構えていた信長の表情が険しくなる。
「あの虚け者め、罠にでもかかったか?」
 鮪の元へと急行した信長達の目に映ったものは…憐れ真っ裸で気絶した鮪の姿であった。
 鮪が引っかかった罠は、実行委員である佐野 亮司(さの・りょうじ)が仕掛けたもので、木の洞に隠された魔法スライムであった。イルミンスールの名物でもある魔法スライムには、まとわりついた者の服を溶かしてしまう力がある。
 鮪はスライムの存在に気がつかないまま、木の洞に突っ込んでしまったようだ。
「…スタートダッシュをかけなくて正解だったわ」
 同情の意を示したつもりなのか。気絶した鮪を片手で拝みながら、すり抜けて行ったのは薔薇学生のミゲル・アルバレス(みげる・あるばれす)である。
 ミゲルは背負っていたロングスピアを構えると、できるだけプラムを傷つけないように気をつかいながら、先端でソッと突き刺す。下手にスライムがいる木の洞に近づいて、裸にされたらたまったものではない。
「闇商人の手下め、姑息なまねを」
 教導団の林田 樹(はやしだ・いつき)もミゲルと同様の考えのようだ。舌打ちをした林田は、バックパックに入れてきたカエルのゆる族林田 コタロー(はやしだ・こたろう)を取り出した。枝に投げつけプラムをとってもらう作戦だ。
 投球の要領でコタローを構えた林田にミゲルは声をかける。
「…ここはハズレやで」
 そう言ってミゲルが林田に見せたプラムは、すでに熟れきっていた。
 残念ながら二人は、次の枝に向かうしかないようだ。



 さてさて、今大会最大の疫病神…もとい不運の少年、梶原大河はと言うと…。
「お前らも出場するんだな!」
 レース参加者の中に、親しい者の顔を見つけた大河は、喜び勇んで愛車の通学用自転車を漕いで近づいていった。
「早川達は何をとってくるんだ?」
 マウンテンバイクにまたがった早川 呼雪(はやかわ・こゆき)は、大河から視線を外しながら答えた。
「…お前に同行するつもりだ」
 呼雪の態度も言葉も至って素っ気ない。
 しかし内心、呼雪は契約者でない大河のことを心配していた。襲いかかるモンスターから大河のことを守ってやりたかったし、できることならば優勝できるよう「手助けしてやりたい」とも思っていた。
 呼雪の優しさを知ってか知らずか、大河は嬉しそうに笑った。
「早川が一緒なら頼もしいぜ!
 …てか、ファル。お前なんで補助輪付きなんだよ?」
 呼雪のパートナーであるチビドラゴニュートのファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)が乗っていたのは、補助輪付きの子供用自転車だった。
 大河に突っ込まれた瞬間、それまでニコニコと笑っていたファルの表情が歪む。
「ほらぁ〜だから嫌だって言ったのにぃ!」
 プウッと頬を膨らませたファルは、補助輪付きを推薦した張本人である呼雪を睨み付けた。
 しかし、呼雪は取り合わない。淡々とした口調でファルを諭すだけだった。
「お前、自分で自転車を漕いだこともないだろう? それに木の上ではこっちの方が安定している」
「う〜ん、そういうものなのかなぁ…」
 まだ身長が120cmしかないファルには、大人用自転車では大きすぎる。せめて呼雪達のように補助輪など付けない自転車で格好良く走りたかったのだけれど…。
「あっちにファルの仲間がいるぜ!」
 大河が指さした先にいたのは、必死の形相で補助輪付き自転車を漕いでいる蒼空学園の浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)だった。
 視線に気がついた翡翠は、振り返るなり大河をキッと睨み付けた。
「補助輪で何が悪い!」
 中学生くらいに見える翡翠だが、実年齢は12才。レースの途中で力尽き、木の上で転倒でもしたら危ないと考え、敢えて補助輪付きを選んだ。翡翠は、見栄えよりも実を取る、将来有望な賢い小学生なのである。
 潔いとも言える翡翠の決断は、大いなる気迫となって、その小さな背中から醸し出されていた。
「あの人…なんかカッコイイなぁ…」
 翡翠の気迫に圧倒されたように呟くファルに、呼雪がすかさず声をかける。
「アイツも誘ってみるか? 他に同じようなのに乗っているのがいたらファルも嫌じゃないだろ?」
 呼雪の提案にファルが大喜びで頷いたのは言うまでもない。