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第三回ジェイダス杯

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第三回ジェイダス杯

リアクション

「…うわぁ、あれ…気持ち悪いよ…」
 目的の梨がなった枝を目前に、ファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)は自転車を漕ぐ足を止めた。
「………」
 同じく自転車を止めた早川 呼雪(はやかわ・こゆき)浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)は、無言で目をそらす。呼雪はパートナー契約を結んでいない大河と同行した時点で、大いなる災難に巻き込まれることは覚悟していたが。これはあまりにも酷い…否、醜悪すぎる。
 一行の目の前に「いた」もの。
 それは、巨大ゴキブリの軍団…であった…。
 通常サイズのものでも気持ちが悪いというのに、それらは何と人間ほどの大きさがあるのだ。テカテカと脂ぎった甲冑を身にまとったGの集団が群がっている中をかき分けて、林檎をとれというのか。できることなら見なかったことにして、次の目的地に向かいたい…。それが呼雪達の本音だ。
「…どうする、大河? ここは避けた方が良さそうだが…」
「…なんかその方が良さそう…だけど…」
 呼雪の提案に頷きかけたそのとき、小刻みに震えた翡翠が大河の小さく服を引っ張った。
「…あれ、こっちに近づいて…きて、ないですか?」
「………」
 恐る恐る枝の方に視線を向ければ、その瞳にに怪しい光を宿したGの集団がいつの間にかすぐ近くに迫ってきていた。
 否、それどころではない。
 どこからともなくやってきたGの援軍によって、数はどんどん増えていくばかりだ。
 振り返れば、すでに退路までふさがれている状態である。
「…ど、どうしよう…」
 脅えたような声をあげるファルを励ましたのは、いつの間にか彼らに同行していた五条 武(ごじょう・たける)だ。
「心配するな。君たちは強運に守られている!」
 握りしめた拳を天高く突き上げ、武は主張するが、どう考えても「不運に見舞われている」としか言えない状況である。
 しかし、武は動じない。
「何故なら君たちとともにいるのは、正義のヒーローなんだからな!」
 そう叫ぶや否や、武は腕を横に大きく振りかざし、変身のポーズを決めた。
 一瞬、眩い光が辺りを照らしたかと思うと、そこには、人型のゴキブリ…否、黒い昆虫のような仮面と赤いマフラーを身につけた武の姿があった。
「改造人間パラミアントだ!!!」
 ヒーローモノが大好きなファルと大河は目を輝かせる。
「正義のヒーローはパラミアントだけじゃないぜ!」
 雄々しい声とともにその場に乱入してきたのは神代 正義(かみしろ・まさよし)だ。
「瞬着! パラミタ刑事シャンバラン!」
 「シャンバリアン乙」と名付けたママチャリに乗った正義は、一行とGの集団の前に飛び出すなり、懐から出したシャンバランのお面を顔に装着する。
 どうやらこちらは本物のヒーローではなくただの特撮ヒーローオタクのようだ。
 しかし、お子様には関係ないらしい。
「やた〜! ヒーロー大集合だ!」
 ピョンピョンと跳び上がって喜ぶファルに、保護者である呼雪は苦笑いを隠せない。本物であろうとなかろうと、彼らがこの場を何とかしてくれるのなら、大歓迎なのは間違いないが。
「…とりあえずアイツらを追っ払ってくれるかい?」
「俺達に任せろ!」
 パラミアントとシャンバランは、特撮ヒーローにありがちな大げさな素振りで頷くと、マフラーをはためかせGの集団へと突進していく。
「シャンバランチョォ〜〜ップ!!」
「パラミアントヴィーイイイム!!!」
 手刀を閃かせるシャンバランの横では、パラミアントが目から胡散臭い光線を飛ばしている。本人達はか弱き市民を守ろうと必死だが、お面を被った特撮オタクと、見た目がGモドキでは、どう贔屓目に見てもコントである。
 と、ここで木を振るわせるほどの怒声が響いた。
「こぉらぁああああああああ!!!!!!!」
 枝と枝の間に何かが通り過ぎたような残像を残し、彼らの目の前に姿を現したのは、白い褌姿に黒い覆面で顔を隠した老人水洛 邪堂(すいらく・じゃどう)である。
「イルミンスールの森を荒らす馬鹿者は、どこの何奴だ?! 森の番人水洛 邪堂(すいらく・じゃどう)が成敗してくれよう!」
 鋭い眼光で一同を睨め付けるや否や、バーストダッシュを発動させた邪堂はパラミアントに飛びかかる。
「か弱き虫達を扇動する卑怯者はお主か?!」
 邪堂は異様なまでに筋肉が発達した腕を振り上げると、問答無用でパラミアントにラリアットを噛ました。
「へぶし!」
 不意を突かれたパラミアントは、呆気なくも空の彼方へと吹っ飛ばされる。
 と、ここでさらなる勇者様がその場に現れた。
「僕は薔薇学の騎士クライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)。恐れない者からかかってこぉ〜いい!!」
 紋章を貼り付けた自転車にまたがったクライスは、ランスを閃かせシャンバランへと全力で走り寄っていく。
「僕はGの集団なんかに負けないっ。騎士の突撃を止められるのなら止めてみせろ!」
「うわぁっ、悪の帝王なんかに負けないでシャンバラン!」
 思わず声援をかけたファルを、邪堂とクライスは動きを止めた。
「僕は悪の帝王なんかじゃない!」
「誰が悪の帝王だ? か弱き少年よ」
「おじちゃん達のことだよ! パラミアントは僕達を守ろうとしてくれていたのに…」
 ファルの抗議に、森の番人を自称する邪堂も、高潔の騎士クライスも大いに傷ついたようだった。しかし、武人の心を持った二人は潔く自らの非を認めた。
「…先ほどのアレは味方であったか…すまぬな、少年…」
「ごめんなさい。僕も間違えちゃった…」
 どうやらパラミアント達は、そのGモドキな外見が災いして、虫達を扇動する悪の親玉に間違えられたらしい。
「お詫びに虫達は儂が宥めておく故、少年達は先を急ぐがいい」
 そう言って邪道は大河達に梨を渡した。
 大河が手にした梨は、熟れすぎで使い物にはならなかったが。
 またしても新たな果物を採りに行かなくてはならないのか…とうなだれる一行の横をロードレーサーにまたがり颯爽と通り過ぎていったのは、イルミンスールの森に熟知した本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)だ。
 常に前方に注意し、クレアとともに隊列を組んで走っていた涼介は、二大ヒーローとGの集団、それから間違えて乱入してきた邪道とクライスの乱闘を難なく避けることができたのだった。
 ちなみにその頃、パラミタヒーロー大集合に出遅れた仮面ツァンダーことツァンダー風森 巽(かぜもり・たつみ)は、というと…。
「あ〜い、きゃぁあああん、ふらぁああああああいっ!!!」
 素っ頓狂な叫び声を上げながら、パートナーであるティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)とともに枝から枝へと飛び回っているところだった。