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第三回ジェイダス杯

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第三回ジェイダス杯

リアクション

「かつては、タシガン家の暴れん坊と呼ばれたこの俺の実力を思い知るが良い!」
 そう嘯いたのは、ラフィタ・ルーナ・リューユ(らふぃた・るーなりゅーゆ)である。
 タシガン領主一族に連なる高貴なる血に相応しい美貌を誇るラフィタだが、全身汗にまみれになりながらも必死でママチャリを漕ぐ姿は、滑稽ですらあった。
 ラフィタに漕がせたママチャリの後ろに乗った白菊 珂慧(しらぎく・かけい)は、欠伸を噛み殺しながら呟いた。
「のんびりとした走りだね。景色を楽しめるからいいけど」
 秋の装いを身にまとったイルミンスールは、絵をこよなく愛する白菊の琴線に触れる美しさだ。どうせならば絵筆とスケッチブックをを持ってくれば良かった…と思っていた白菊だったが、突然、その表情が険しくなる。
「ラフィタはここで待っていて!」
 白菊は、いきなりラフィタを自転車から蹴り落とした。すかさずハンドルを握ると全力で自転車をこぎ始める。
 目的の枝には、すでに柿がないことに気がついたのだ。
 枝の下に参加者が数人群がっていることから、何個か下に落ちているのかもしれないが。こうなったら、日頃運動不足のラフィタなんかに、のんびりと自転車を漕がせている場合ではない。



 その頃、翔太によって食い荒らされた柿の枝では、ロザリィヌ・フォン・メルローゼ(ろざりぃぬ・ふぉんめるろーぜ)クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)が残された柿の実を挟んで睨み合っていた。
「この柿の実は渡しませんですことよ!」
「それはこちらも同じだ!」
 戦闘の口火を切ったのは、ロザリィヌの方だ。
「私のママチャリを見てごらんなさい。まずは大きなカゴ! これは果物を運ぶ時に大きな助けとなってくれますわね! オバサマ達がスーパーで特売品を詰め込む収納力は伊達ではなくってよ!」
 ロザリィヌは、残った柿を運ぶのは、自分のママチャリこそ相応しいとばかりに胸を張る。しかし、クロセルも大人しく言い負かされたりはしなかった。
「俺のママチャリーヌ2世だって負けてないぜ。フルステンレス仕様のママチャリは、真っ向からド突きあったって負けない頑丈さだ!」
「だったら、ベルはどうです? チリーンチリーンという耳障りな音は、他の選手達にプレッシャーを与えることができますよ。街中でもベルによるオバサマ方の無言の圧力は恐ろしいものがありますわよ! それにスタンドも。ママチャリ特有の大き目のスタンドの保持力も馬鹿にはできませんわ! 強固なものなら、果物を取るための台として自転車を使用できるかもしれません!」
「安定力ならこっちの勝ちだ!」
 勝ち誇ったような表情を浮かべたクロセルは、サイドカーのように連結されたもう一台の自転車を指し示す。そこにはパートナーのマナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)が居たたまれなさそうな表情で、ちょこんと乗り込んでいた。
 その瞳は、ジャンケンか何かで、さっさとどちらが柿をとるか決めた方が良いのに…と伝えていたが。ヒートアップする二人に、マナの想いは届かない。
 二人の横から柿の実をかっさらっていったのは、パートナーのラフィタを捨て置き、急いでこの場にやってきた白菊である。
 目的の柿を素早く回収した白菊は、ぼそりと呟いた。
「…後まだ二つ残っているけど」
 白菊の一言で、無駄な喧嘩を繰り広げていたロザリィヌとクロセルが、ムンクの叫びのような状態に陥ったことはいうまでもない。