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第三回ジェイダス杯

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第三回ジェイダス杯

リアクション

 皆が必死で目的の果物を回収しようと躍起になっていた頃、柿の枝の前に陣取った小林 翔太(こばやし・しょうた)は、ただひたすら食べ続けていた。
 その隣では呆れ顔の佐々木 小次郎(ささき・こじろう)が「せめてこれくらいは…」と翔太が捨てた柿の種を木の洞に植えている。土の中に埋めるならともかく、木の洞では種が育つとも思えないが、何もしないよりはマシだろう。
「うわぁ、ヤバイっスよ!」
 やってきたのは、波羅実きっての美少女ヒロイン「ラブ・ピース」ことサレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)だ。
 御凪 真人(みなぎ・まこと)が仕掛けた油の罠に引っかかったものの、最初の栗は難なくゲット。「さて、お次は柿ッスね」と勇んでやってきたのだが…。
 食欲大魔神・小林翔太の手にかかり、柿はもう粗方食べ尽くされている。
「こちらを持っていってください」
 すると、翔太のパートナーである佐々木 小次郎(ささき・こじろう)が柿を配っているのが見えた。どうやら小次郎、後続の者のために柿を少しキープしておいたようだ。
「ありがとうございます!」
 蒼空学園のアンドリュー・カー(あんどりゅー・かー)葛城 沙耶(かつらぎ・さや)は、小次郎に渡された柿を胸に押し抱く。
 ジェイダス杯初参加である二人は、優勝は狙ってはいない。楽しい時間を過ごせればそれでいいと思っていたが、やはりできることなら完走したい。
 小次郎の気遣いに感謝しながら先を急ごうとするアンドリュー達に負けじと、サレンも小次郎の元へと急ぐ。
「私にもくださいッス!」
「はい、どうぞ」
 サレンが小次郎から柿を受け取ったそのとき、食欲大魔神が立ち上がった。
「ご馳走様〜。そろそろ次に行こうっと!」
 満足顔でその場を後にする翔太の背中を見つめながら、サレンは呟く。
「…この後の人、どうするんでスっかねぇ…」と。
 小次郎が置いていった柿は、残り3つである。


「…ふぅ、後はあそこにあるプラムを手に入れるだけですわね」
 反射板付きのヘルメットを被った荒巻 さけ(あらまき・さけ)は、目的のプラムがなった枝を眺めながら汗を拭いた。
 前日までにドMの人間を大量に募り、全員に肩車の要領でつながってもらた上を渡り歩き、枝から枝へと移動してきた荒巻だったが、残念なことにルート選びに失敗したようで。思うようにちょうど良く熟れた果物にあたることができなかったのだ。
 荒巻は奴隷達に向かって、高飛車に言い放つ。
「さぁ、これが最後の快楽ですわよ。思う存分、その身に感じなさい!」
 奴隷達は素早く互いの身体を絡ませ、荒巻のための道を作り上げる。
「さぁ、行きましょう。これぞ栄光のビクトリーロードよ!」
 意気揚々と奴隷達の身体の上を通学用の自転車で走り去っていく荒巻は未だ知らない。彼女の行く先には、食欲大魔神小林 翔太(こばやし・しょうた)が待ちかまえているという恐るべき事態に。


「うわぁ、こっちもすっごく美味しそう!」
 その頃、荒巻よりも一足早くプラムがなった枝に到着した小林 翔太(こばやし・しょうた)は、またしても歓喜の声を上げていた。
 蹴り捨てるようにして自転車から降りた翔太は、素早くプラムの元へと駆け寄ろうとして足を滑らせる。
「うわっ?! 何だこれ!」
 見れば、足下が油で濡れている。
「もう…誰だよ、こんな質の悪い悪戯するのは」
 打ち付けたお尻をさすりながら立ち上がった翔太の前に飛び出したのは、メスを煌めかせたマッドサイエンティスト島村 幸(しまむら・さち)である。
「…患者患者…患者患者患者…」
 目を爛々と輝かせゆっくりと獲物に近づいていく幸の姿は、今大会最大のトラップとも言える食欲大魔神を退治する勇者と見るべきか否か迷うところだ。
 普段の翔太ならば、化け物じみた妖気を発する幸を目にした瞬間、一目散に逃げる所だが。留まるところを知らない食欲に支配されている翔太に「恐れ」など微塵もない。
「僕のつまみ食いを邪魔する気?!」
 つまみ食いのレベルを完全に逸脱しているが…。
「翔太さん、相手が悪すぎます!」
 小次郎が慌てて諫めるが、翔太はあっさりと聞き流し、幸に向かって機関銃を構えた。
「…患者患者…患者患者患者…」
 幸も纏っていた白衣を翻し、翔太へと飛びかかる。瞬間、幸の白い太股が露わになるが、翔太には食べ物以外のものなど目に入らない。
 狂気のマッドサイエンティストvs食欲大魔神による決戦が繰り広げられる中、そそくさとプラムの回収をしていたのは、翔太と同じく薔薇の学舎に在籍するエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)である。
「プラム♪ プ〜ラム♪」
 エースに肩車をしてもらったクマラは、鼻歌交じりでプラムをもぎ取る。ついでにこっそり味見しようと、自分が食べる分のプラムをポケットに忍ばせることも忘れない。
「レースじゃなかったら、ゆっくりタップリ収穫して、後でジャムにしてもらうんだけどな〜」
 そう呟きながら立ち去っていくクマラ達を見送りながら、小次郎は密かに思った。
「翔太さんも、あのくらいの食いしん坊ならばカワイイで済むものを…」と。
 しかし、このまま怪人大決戦を放置しておくわけにもいかない。どうしたものか、と考え込む小次郎のすぐ横を、鋭い光の矢が飛んでいった。
 二人の怪人めがけて雷術を放ったのは、見るも儚げな和風美少女東條 かがみ(とうじょう・かがみ)だった。
 睨み合っていた翔太と幸も、突然飛んできた雷に呆然と動きを止める。
「暴れるなら、他の場所でなさってください!」
 かがみの指摘は尤もだろう。翔太達が邪魔で目的のプラムをとることができない。
「オーかがみ、命中率100パーセントネー!」
 パートナーであるウィリアム・吉田(うぃりあむ・よしだ)が歓声を上げているが、かがみは取り合わない。
「さっさとプラムをとって、ゴールに急ぐわよ」
 素っ気なく言い放ったかがみは、何食わぬ顔で翔太と幸の間を早足で通り抜け、プラムを回収する。そしてまたしても足早にウィリアムが待つ自転車へと戻ると、クッションを括り付けた荷台に横座りに座り込んだ。
「ほら、早く漕いで、ウィリアム!」
 肝が据わった乙女にとっては、最強怪人対決もただの茶番に過ぎないようだ。