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リアクション
「今度こそ優勝を頂くのじゃ!」
第一回ジェイダス杯で準優勝を飾ったツインターボの魔女上連雀 香(かみれんじゃく・かおり)は、やる気満々だった。
この日のために、イギリスの競馬界における伝説の競走馬エクリプス・ポテイトーズ(えくりぷす・ぽていとーず)の英霊も呼び出しておいた。
今回のジェイダス杯が自転車レースであったことは誤算だったが。とりあえずポテイトーズの腰には下手くそな字で大きく「自転車」と書いておいた。
競走馬としてのポテイトーズのプライドはズタズタだろうが、優勝しか考えていない香は全く気にもならない。
当然のことながら、ポテイトーズのやる気は皆無である。時折、足を止めては、近くになっている果物を食べている有様だ。
「ヒャッーハー! さぁ、コーメイ。かっとばすぜ!」
普段は温厚な為人だが、乗り物にまたがった瞬間、人が変わってしまう織機 誠(おりはた・まこと)と、その自転車の後ろに乗った黄 明(うぉん・みん)を見送りながら、ポテイトーズは、のんびりと口にした果物の味を吟味する。
「うむ、これは美味いな。どうせならこの果物を採っていきたいものだが」
「それは目的の果物ではないのじゃ!」
「だが…香達が採りに行った果物は、熟れすぎだぞ。俺はグルメなんでね。熟れすぎの果物くらい鼻でかぎ分けることができるんだ」
ポテイトーズは鼻を鳴らしながら得意気に答える。しかし、当然のことながら猪突猛進に走り去っていった誠と香の耳に、その言葉は届いていない。
彼らの代わりにポテイトーズの忠告に耳を傾けたのは、たまたまその場を通りかかった薔薇学生鬼院 尋人(きいん・ひろと)だ。
尋人もまたポテイトーズ同様、スタート前から優勝を諦めていた一人だった。
否、彼は最初から諦めていたわけではない。今日のために貯めていたお小遣いをはたいてツーリング専用の自転車を購入しておいた。
フランス発祥のサイクリング車は、軽量且つタイヤは太めであり、悪路に強いことで知られている。木の上で繰り広げられるレースにもってこいの自転車だ。
これで「優勝はいただきだ」と意気込んでいた尋人だったが、何と配送先を間違えてしまい、運営委員から借りた普通のママチャリでの参加となってしまったのだ。
敵前逃亡は騎士の恥だと考え、棄権だけは止めておいたが、これではテンションも上がらない。
「あっちに行くのは無駄…ということか」
ポテイトーズの言葉に従い、尋人は予定とは別の方向に進路を変えることにした。動物の勘とは得てして侮れないものなのだ。
「妨害…来てないよね…?大丈夫…だよ…ね?」
初参加となるイルミンスール生の愛沢 ミサ(あいざわ・みさ)は、これまで伝え聞いたジェイダス杯の様子から、妨害行為に対して必要以上に警戒をしていた。
ビクビクと首をすくめながら、懐から使い魔のネズミを取り出した。
「あそこになっている梨をとってきてね」
使い魔はミサに応えるように短く鳴くと、素早く木の枝を上っていく。
と、そのとき。
ミサは自分に近づいてくる人の気配を感じた。
「もしかしてここは当たりか?!」
「きゃぁぁああああ!! 変態ッ?!」
ミサは咄嗟にドラゴンアーツを発動させると、相手の確認もせずにビンタを放った。一般の女性が放つビンタでも不意打ちの一発は、けっこう痛いものである。さらにドラゴンアーツで強化されているのだから、殴られた相手はたまったものではない。
突然横合いから殴られた葉月 ショウ(はづき・しょう)は、まともに吹っ飛んだ。パートナーであるガッシュ・エルフィード(がっしゅ・えるふぃーど)が咄嗟に服をつかんでくれたから、枝から転落することは避けられたが。
「…ぃてぇ…」
「お兄ちゃんに何するんだよっ!」
頭がガンガンと痛み、まともに抗議の声も上げられないショウに変わって、ハンドガンを構えたガッシュが怒鳴る。
ガッシュは見るからに大人しそうな少年である。そんな彼が今にも発砲しそうな勢いで抗議してきているのだ。ミサも自分が間違えたことに気がついた。
「…あ…あの…妨害…の人…じゃないのです…か?」
「…そんな…こと、するわけない…だろ」
殴られた頬を抑えながら、ショウはゆっくりと立ち上がった。
「俺は梨を採りにきただけだ」
「…ごっごめんなさい!」
慌てて頭を下げるミサに、ショウは苦笑を隠せない。罠を警戒してトップ集団の後を走ろうと思ったのが仇になった。
妨害を警戒していたのはミサも一緒なのだろうが。
「まぁ、いいよ。詫びと言ったら何だけど。ついでに俺の分も採ってもらっていいかな?」
ミサの使い魔が枝の上にいることに気がついたショウが提案する。
梨はかなり高いところになっている。ガッシュを肩車すれば届くだろうが、ミサの痛恨の一撃のお陰で今はまだ身体に力が入らない。
「あ、はい。もちろんです!」
大量の虫が近づいてくるような羽音が聞こえてきたのは、ミサがペコリと頭を下げたそのときだった。
何やら嫌な予感がした三人は、恐る恐る音のする方に視線を向けてみた。
すると、人間ほどの大きさがあるカブトムシ…否、巨大ゴキブリの大集団が、こちらに向かって近づいてくるではないか?!
「いやぁ〜〜〜!!!!!!」
「うわぁ〜〜〜!!!!!!」
一見、何の罠も仕掛けられていないように見えた採取ポイントであったが。実行委員の一人東條 カガチ(とうじょう・かがち)によって、虫が好んで近寄ってくる特製の蜜が塗りたくられていたのだった。
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