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リアクション
第二章 ヒトが動けば、カゲもまた動く
豊富で多量の書物が保管されているイルミンスール魔法学校の図書館には、多くの生徒が集まっていた。原因を解明しようとする者、過去の文献を探そうとする者など、調べる対象はそれぞれに違うものの、集まった誰もが「水晶化」の謎を解こうと、活字の羅列に挑んでいた。
イルミンスール魔法学校のミンストレル、ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)は本棚に伸ばした手を止めると、頬をヒクつかせて、声を荒げた。
「クレア! クレアぁ! どこだぁ!!」
バラバラと本が床に落ちる音がする。ウィルネストが歩み寄ると、ウィザードのクレア・シュルツ(くれあ・しゅるつ)が、隣の本棚の前に座り込んでいた。クレアはウィルネストに気づいて立ちあがったが、その勢いで持っていた本がバラバラと再びに落ちた。
「あっ、あっあわっ」
「ったく、何やってんだ」
ウィルネストは乱暴に本を集めると、素早く本棚に戻していった。
「いいか、本は揃えて戻せ、こうやってな」
「えぇっ、ちゃんと戻したよぅ」
「ちゃんとしてねぇ! 上下逆だったんだよ、全部!!」
「逆? そんなぁ?」
クレアが持っていた本を床に置くと、首を傾げて本棚へと歩んでいった。
「おぃ、こら、戻してから行け!」
「ウィルネスト」
ウィザードの城定 英希(じょうじょう・えいき)の声がウィルネストは振り向かせた。
英希が上げた右手にはナイトである晃月 蒼(あきつき・あお)の手が握られていた。蒼はよろけながらに、英希の影から姿を見せた。
「あっちの居たよ、泣きそうになりながらね」
「ったく、どうして図書館で迷子になるんだ」
「迷子じゃないもん! 泣いてないもん!」
「確かに泣いてはなかったよ、泣きそうになってただけで」
「もうっ、イジワル……」
英希は、涙を滲ませている蒼の顔を覗き込んだ。
「それで、何か分かったの?」
「おぃおぃ、今聞くのかよ」
「大丈夫だよぅ、泣いてないんだもん」
蒼は大きく息を吐いてから呼吸を整えると、真っ直ぐと英希に向き直った。
「それがよく分からないの、調べても、水晶化なんて事例は医療の専門書にも載ってなかったし」
「こちらもだ、人種学を調べたが、こちらも先例が無いみたいだな」
「文献に頼るのが間違いなのかしら」
「まぁ、歴史は繰り返されると言っても、過去にも解明出来なかったのなら、著者も書きにくいだろうしな」
「そんな…… さすがにそこまでは……」
「いいや、それ位にプライドの高かった奴ばっかりだった可能性だってあるだろ? 無いとは言い切れない」
照れながら戻ってきたクレア、頭を抱えているウィルネスト、面白くなさそうな英希に、上目遣いの蒼。
「もう少し調べましょう」
「あぁ、歴史に正直な奴が居た事を祈るばかりだな」
「テンション下がるような事、言うんじゃねぇよ」
「あ、あのっ、よく分からないのですが……」
顔を見合わせた4人はそれぞれに、四方へと散って行った。
ベッドに横たわるティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)の胸が上下するのを見て、何れ 水海(いずれ・みずうみ)はゆっくりと立ち上がった。
パートナーの愛沢 ミサ(あいざわ・みさ)と風森 巽(かぜもり・たつみ)が部屋を後にしてから、しばらくの時が経っていた。
行動的で活発なティアが大人しくしている、それも瞳を閉じて寝ている。この状況を、水海は理解していた。
ティアは剣の花嫁ではあるが、発症はしていない。つまり体に異変があるわけでも体力が低下しているわけでもないはずなのだ、それなのに。
水海は、足音をたてるようにして窓際まで歩んだ、そして窓の外へと瞳を向ける。閉じた窓のガラスには部屋の様子が映っている、そしてそこには水海の目を盗むようにしてベッドを抜け出すティアの姿が映っていた。
裾を握って、音をたてないように。サッと部屋を出るティアを確認してから、水海は振り向いた。
「僕も、ミサの力になりたいのだよ」
ベッドと布団を整えてから、水海は静かに部屋を出て行った。
「赤鼻発光ホ樽」が光っている。
ノーム教諭と共に部屋に入った高月 芳樹(たかつき・よしき)が、手元の資料に目を落とした。
「この子は…… 昨日の入浴中に気付いたとの事で、発症部位は、」
「ちょっと芳樹」
パートナーのアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)が、芳樹の資料に手を乗せた。
「『この子』ってどういう事?」
「ん?」
「年齢は…… 芳樹と同じよね、それなのに『子』って言い方をするのは…… 女性を馬鹿にした発言よ」
「そんな事にはならないだろぅ、そんなつもりもないし」
「いいえ、馬鹿にしてるわ、だったらどうして名前で呼ばないのよ、書いてあるでしょ、ここに」
「あ、いや、そうだけど、でも『この子』って言いながら手を添えた方が『発症したのは、この子なんだな』って分かりやすいだろうと思って」
「手なんて添えてなかったでしょう! どうしてそう嘘を言うわけ?」
「嘘じゃなくて、そうするつもりだったけど、できなかったんだ」
「どうして出来ないのよ、手を添えるだけでしょう! 大体、人を名前を呼ばないのは芳樹の悪い癖なんだから、」
「おぃおぃ、喧嘩なら外でやれよ、みっともない」
プリーストの和原 樹(なぎはら・いつき)は芳樹の手から資料を取ると、パートナーでウィザードのフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)と共に二人を引き離して、教諭を誘った。
「見せてごらん」
上体だけを起こしたまま、水晶化した生徒はパジャマのボタンを外し始めた。それを見た樹は顔を赤らめて部屋を飛び出した。
「一体どうしたんだ?」
遅れて部屋を出たフォルクスが問いた時、樹は廊下の壁にもたれて大きく息をしていた。
「はぁはぁ、よく考えれば、剣の花嫁って女性が多いんだから…… 問診には同行できないだろ」
「? なぜだ?」
「発症した所を見るって事は体を見るって事に……」
言った樹は余計に赤の濃度を増していった。
「その純情な所も、お前の魅力の一つだぞ」
「うるさい、抱きつくなっ!」
「私たちが教諭に同行しますわ」
フォルクスを引き離そうとする樹の手から資料を奪ったナナ・ノルデン(なな・のるでん)はパートナーのズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)と共に部屋の中へと入って行った。二人が入るのと入れ替わりに、高月 芳樹(たかつき・よしき)が部屋から摘み出されていた。
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