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【十二の星の華】剣の花嫁・抹殺計画!(第1回/全3回)

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【十二の星の華】剣の花嫁・抹殺計画!(第1回/全3回)

リアクション

「検体保管室、校内培養栽培庭園への入り口、擬態生物飼育室」
「ちょっちょっちょっと待て、もう少し易しく言ってくれ」
 息もつかずに言う魔女のレーヴェ・アストレイ(れーう゛ぇ・あすとれい)に、蒼空学園のフェルブレイドである葉月 ショウ(はづき・しょう)は足を止めて言った。
「何が不満なのですか?」
「部屋とか場所の名前だけ言われても分からないっての。案内するなら「場所」と「名前」を一緒に教えてくれ」
「………… 細かいことを言う男は嫌われますよ」
「なっ! くぅぅっ」
 ショウは反論を抑えた。これ以上に言い返せば声を荒げてしまう、それでは本来の目的の妨げになる。
 ショウとレーヴェの歩く先には、ショウのパートナーで「剣の花嫁」の葉月 アクア(はづき・あくあ)が歩いていた。アクアは「剣の花嫁専用装備」の「純白のドレス」を身に纏い歩いている。
「私が囮になる」
 水晶化の現象が、自然発生とは思えない。どこかに犯人が居て「剣の花嫁」たちを狙っている。その推測を聞いたアクアは、自分自身を囮にして犯人を誘き出そうと言い出したのだ。
「これ以上、水晶化で苦しむ人を増やしたくないから」
 そう言ったアクアの瞳に圧され、ショウは渋々、了承した。だから全力で必ず守らねばならない。
 2人の後方、殿を務めるのはメイドの如月 玲奈(きさらぎ・れいな)である。レーヴェがショウを校内案内している、という設定を中心に配置していた。
 レーヴェが案内を再開した。ショウは、レーヴェの言葉を耳に通しながらも、何時でも飛び出せるように足で床を掴み踏みながらに歩んでいった。


「ティア!!」
 駆け寄る風森 巽(かぜもり・たつみ)は、廊下で倒れていたティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)を抱えて名を呼び続けた。
 先に調査に向かっていた巽と愛沢 ミサ(あいざわ・みさ)に、何れ 水海(いずれ・みずうみ)が合流したのだが、ティアの悲鳴を聞いて駆けつけた時にはティアは倒れこんだ後だった。
 息はある、脈も正常。ティアの手首を持ったミサは、視線を送った先でそれを見つけた。
「風森っ!!」
 ミサの言葉に巽と水海が視線を送る。ミサの視線の先にはティアの右足首が。
「急に動かなくなったから、転んで、脳震盪を起こしたってわけね」
 水晶化していた。
 悲鳴が聞こえたのは今し方。発症も直前という事に。転んだ拍子に飛んだティアの携帯電話が、周辺のどこにも落ちていない事に気付くことが出来ない程に、巽は動揺し、ティアの名を呼び続けるのだった。


「人の流れ?」
 手すりに寄りかかりながら中央エントランスを見下ろしているリーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)が、ローグである緋山 政敏(ひやま・まさとし)に聞き返した。政敏は手の平で頬を潰しながらに応えた。
「あぁ、人が動けば流れが出来る。その中心に居る奴や、あえて流れに逆らう奴は何かを秘めているって事だから、そいつらを見張れば良い」
「なるほど、一理あるわね」
「あんなに集まった所に居たんじゃあ、流れも何も見えないだろ?」
「それで離れたって訳…… 教諭が気を悪くしてなければ良いけど」
「そんな事…… 知ったことか」
「はぁ…… あのねぇ政敏、」
「あ〜〜!! ねぇ君っ!! どこで水晶化したの?!」
 勢いよく駆け寄ってきたカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)はリーンの左手を手に取った。
「えっ? 私?」
「何の事だ」
「だってほら、この手っ!!」
「手?」
 政敏とリーンは目を見開いた。リーンの左手の甲が水晶化していた、それもリーンに全くの自覚がないままに。
「気付かなかったのか?」 
 カレンのパートナーであるジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)はリーンの手をじっと見つめて言った。
「痛みは?」
「ないわ、でも…… 一体いつ?」
「最後に確認したのは、いつだ?」
「最後…… いつだったかな」
「ダメだよ〜「剣の花嫁」の人はいつ発症してもおかしくないんだから、体のチェックはしてないと〜」
「ねぇ政敏、覚えてる? ………… 政敏?」
 政敏は目を皿にしてエントランスを凝視していた。次に同階の周囲へと目を向けていく、その様子に余裕は一切感じられず、何かに脅えているようにも見えた。
「どうしたですか〜?」
「俺は覚えてる。リーンの左手なら、ついさっき見た、その時は何ともなかった、つまりアンタが駆け寄ってくるまでの間にリーンの左手は水晶化したんだ」
「そんな……」
「言っておきますが、我らが原因ではありません」
「わかってる! でも、誰かが意図して水晶化したんだとしたら、犯人は、この近くに居る」
 カレンとジュレールの瞳にも緊張の色が走った。リーンはその身を政敏に寄せた。
「くそっ」
 警戒と共に疑問符が。一体いつ、誰が、どうやって。
 政敏は顔を歪めて手すりを殴りつけた。


 ルルルルルルルルルル。
 携帯電話が鳴いていた。
 蒼空学園のフェルブレイドであるクルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)は足を止めて、窓の桟に置かれた携帯電話を手に取った。辺りを見回し、パートナーのユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)と顔を見合わせてから、クルードは通話ボタンを押した。
「はい…… この携帯を拾った者だが……」
「…… 電話が切れたら …… 殺す」
 クルードが眉をひそめた時、ユニの喉元が光を放ったのが見えた。瞬間に光が消えると、喉元は水晶化していた。
「なっ! ユニっ!!」
「…… 切ったら殺す」
 クルードは携帯を耳に当てながら、ユニの喉元を覗き込んだ。首から顎の下までが水晶になっている、その所為か、ユニは必死に口を開こうとしていたが、口を開く事も声を出す事も出来ないようだった。
「何をした! 今すぐ戻せ!!」
「…… 「女王器」は …… どこにある?」
「女王器」? そんなもの」
 クルードは辺りを見回した。それでもどこにも人影すら見つける事ができなかった。一体どこから。
「…… その女の頭ぜんぶを水晶にすることも出来る」
「待て! 待ってくれ」
 音の無い時間のやり取りが、いっそう不気味に思わせた。
「女王器」は、ノーム教諭が保管していると聞いている………… うっ」
 クルードは思わず片膝をついた。突然胸を締め付けられた、そんな痛みを感じたのだ。
「…… 案内して …… 断れば女を水晶に」
「待て! …… 分かった、案内しよう」
「…… 切ったら殺す」
「くっ」
 肺の動きを制限されている、呼吸は通常の半分の量しか吸って吐けない、そんな気がした。
 手作りの熊のぬいぐるみが付いたストラップが揺れる携帯電話を、クルードは耳に当てながら歩き始めた。