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【十二の星の華】剣の花嫁・抹殺計画!(第1回/全3回)

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【十二の星の華】剣の花嫁・抹殺計画!(第1回/全3回)

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 学校内西側実技室に設置された「救護所」には多くの生徒たちで溢れかえっていた。
 自室待機の令が出ていても、「ヒール」が使えぬ者は誰かに頼るしかない。しかし保健室は既に容量を超えてしまっているため、治療を希望する生徒への対応が出来ない状況であるのだ。
 そんな中、イルミンスール魔法学校のプリースト、四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)を中心に「救護所」が設置されたのである。発症者はもちろんの事、回復魔法を使える生徒がボランティアで協力しているため、治療を受けることも、SPを回復することも可能としていた。
 そんな「救護所」をシャンバラ教導団のセイバー、神代 正義(かみしろ・まさよし)はヒーローお面越しに見渡していた。
「ぬぅ、これはヒドイ……」
 救護所にはテントや寝所が設置されていたが、次から次へと発症した生徒が集まってきており、「救護所」も許容数を越えようとしていたのだ。じっと観察していた正義には、ここ一時間ほどで発症者の数が一気に増えたようにも思えた。
「悪が…… 悪が躍動している、おのれぇぇぇ」
「おのれぇ、じゃないです。今までじっとしていた人が何を言うんです」
「じっとしていたのではないぞ、じっと観察していたのだ、敵の動向をな」
「同じ事でしょう?」
「何を言うか!!」
 正義は、顔を背けた大神 愛(おおかみ・あい)の正面に立つと、腕を大きく動かしながらに声を張り上げた。
「犯人とは、現場に戻ってくる習性がある!! 水晶化という特殊なテロを仕掛けるような奴らだ、苦しむ様を見に来る事だって考えられるのだ、故にこうして俺が……」
「遊んでいるなら手伝ってください!!!」
 正義の背後を通り過ぎながら、「救護所」の設置者である四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)が瞳を吊り上げて言い過ぎて行った。その後を追う魔女のエラノール・シュレイク(えらのーる・しゅれいく)が2人に頭を下げた。
「あの、スミマセン、その、悪気はないですし、その……」
「ううん、気にしないで。正義が悪くて、彼女が10割越えで正しいから」
「ぬあっ、何て事を」
「あの、あなたたちも、その…… 治療に来られたのですか?」
「どう見ても元気有り余ってるでしょ!!エルっ、こっちも手伝って!!」
「あ、はいぃ! スミマセン、失礼します」
 再び頭を下げて去るエラノールの背を、機晶姫のフィア・ケレブノア(ふぃあ・けれぶのあ)が追っていたが、フィアは、ふぃと振り返ると、
「回復魔法が使えるなら手伝う事、回復を希望するなら早めに言う事、私のSPが尽きる前に、情報収集は構わないけれど発症者とパートナーの精神状態を考えて行うこと。以上」
 ゆっくりと幼く言うと、フィアはテクテクと駆けて行った。
 その背を見送ってから、正義は拳を震わせた。
「許せん、許せんぞ、鏖殺寺院め、一体何が目的だと言うのだ」
「ちょっとあんた!」
 振り回す正義の手を避けながら、ソルジャーの瓜生 コウ(うりゅう・こう)が正義の懐に入りて問いた。
「あんた、何か知っているのか? 鏖殺寺院がどう関係していると言うのだ!」
「あ、あのっ、正義はすぐに鏖殺寺院のせいにする癖があるので、真面目に聞かないほうが……」
「いいや!! これ程の規模の事件を引き起こしているのだ、悪意、そして人員まで考えれば、自ずと答えはっ!」
「………… 鏖殺寺院という事に…………」
「その通り」
「いや、あの、だから……」
「気に入ったぞ娘!! 名を何と言う」
瓜生 コウ(うりゅう・こう)だ」
「コウか…… よし、臨時ヒーローとして「三日月奏者ビューティーコウ」と命名しよう」
「はっ?」
「正義…… それは……」
「行くぞっ! 我に続けっ! シャンバランの戦士達よ!!」
 2人の顔色などお構いなしに。居るかどうかも、判別の仕方も曖昧ではあるが、パラミタ刑事の捜査が今ここから始まったのであった。


「それじゃあ、自分は剣の花嫁だって言って回ったって事?」
 プリーストの関谷 未憂(せきや・みゆう)は、「剣の花嫁」の神代 夕菜(かみしろ・ゆうな)「ヒール」をかけていた。
 夕菜は未憂に笑み応えた。
「えぇ、発症した方に話を聞きたいと思いまして、出会った方には「剣の花嫁」です、と名乗りましたの」
「こんな状況なのに。礼儀正しいのね」
「いぇ、そんな…… 」
 夕菜が顔を俯けた時、ティーカップが2人の前に差し出された。
「どうぞですぅ」
「ありがとうございます、明日香さん」
「いいえ、少し休憩なさって下さい」
「それでは、「ヒール」をしながら頂きますわ」
「んぐっ、もぐぅ、じゃぁ何か聞いたぁとかぁ、何か感じたぁ、むぐぅ、とかも無かったの?」
「リン、行儀が悪いわよ」
「んでもぉ、明日香ちゃんがくれたケーキ、とぉっても美味しいんだもぉん」
 ケーキを口に頬張っているリン・リーファ(りん・りーふぁ)に、メイドの神代 明日香(かみしろ・あすか)はナプキンを差し出した。
「アップルティーもどうぞぉ」
「ありがとう〜 明日香ちゃん大好き〜」
 明日香は腰を下ろす事なく、ティーセットやケーキの用意を続けた。
 未憂は夕菜の右ふくらはぎに「ヒール」をかけていた。
「本当に、何も感じなかったの。だから接触の類が原因じゃ無いと思うわ」
「そう、それじゃあ、やっぱり病気や呪いが原因なのかなぁ」
「病気の類でないと、説明がつかない事もあるですぅ」
 明日香はモンブランを乗せた皿をゆっくりと差し出した。
「服の下が水晶化した場合もあるですぅ」
「服の下?」
「誰とも何とも一切接触は無かったのに、気付いたら脇腹が動かなくなっていて、その時初めて水晶化した事に気付いたって子がいたんですぅ」
「なるほど、水晶化させるのに接触する事が必要なのだとしたら、服の下を水晶化することは不可能だわ」
 深刻で真面目な話をしているはずに、4人の中央はティータイムなので、見開いた瞳もすぐに和らぐ。
 フォークに伸びる手の数は、意図する事ないうちに、いつの間にかに増えていくのだった。