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リアクション
第三章 カゲの牙に剥き動かされて
「ですから、ダメなんですよ」
「そこを何とかならないかぃ? 中に用があるんだ」
「ダメです、困ります、ダメなんです」
言いながら瞳を潤ませるサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)を見て、蒼空学園のソルジャーである閃崎 静麻(せんざき・しずま)は頭をかいた。
「まいったな」
「どうした? サクラコ」
空から舞ってきた声は、ナイトの白砂 司(しらすな・つかさ)の声であった。サクラコは空飛ぶ箒から下りた司の背に回り、隠れながらに静麻を見上げた。
静麻は司に、校内へ通行をサクラコに拒否された事を伝えた。
「あぁ、すまない。学校を全面封鎖、および警備をしているんだが、何せ人手が足らなくてな、来訪者は手当たり次第に止めてるのさ」
「全面封鎖とはね…… そんなに深刻なのかぃ?」
「いや、某研究室で事故が発生したため、内部の人間の数を把握する必要がある、それだけだ」
何を聞いていようとも、何を知っていようとも、外部の人間に情報をわざわざ明かす必要はない。そう考えた司は咄嗟にそう言ったのだが。
「………… なるほど、やっぱりノーム先生が絡んでるってわけか」
「ノーム教諭を知っているのか?」
「あぁ、先日のヴァジュアラ湾騒動で一緒になってね。めちゃくちゃな人だったよ」
「蒼空学園にまで広まっているのか…… 恥ずかしい」
「この事件、彼も関係しているんだろ?」
「…………」
「某研究室と例えたのは教諭が関係している事が意識の中にあったから。また、某研究室で事故が発生したため、という事態も実際に起きても何も不思議じゃない、普段の彼を知っているならね。だからそんな例えになった、違うかい」
「ふっ、大筋は正解だ、まいったな…… 来校理由は? 一応聞いておこう」
「ヴァジュアラ湾の騒動で「女王器」の封印が解かれる所も、「女王器」が具現化した姿も見てるんでね、その力が今回の事件を引き起こしてるんじゃないかって思ったのさ。こんなんじゃダメかぃ?」
「いいや、その推測が正しいかどうかは別の話だが、それだけの体験をしているなら十分戦力として期待できる。通ってくれ」
「ありがとう、助かるよ」
静麻はアサルトカービンを背負い直しながらイルミンスール魔法学校への一歩を踏んだ。
サクラコは今も警戒しながら静麻を見上げていた。
「彼女、獣人かぃ……」
「あぁ、サクラコは地雷探知や怪しげな罠まで見抜ける」
「そいつは心強い。この近辺の警備は安心だな」
静麻の視線を感じて、サクラコは司の背に隠れた。
頬に熱を帯びていくのを感じながら、サクラコは見えなくなるまで静麻の背を見つめ見ていた。
携帯電話からの言葉は、あれ以降には聞こえてこなかった。
クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)は肩で息をしながらに歩いていた。通常の半分しか吸えない事が、体も頭も重くしていた。パートナーのユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)も、声を奪われたままにクルードの後ろを歩んでいた。
そんな2人の前からは「純白のドレス」を着た葉月 アクア(はづき・あくあ)が歩んできた。アクアはクルードとユニの様子に違和感を覚えたが、自身の役割を考え、足を止める事はしなかった。
クルードはアクアの先に葉月 ショウ(はづき・しょう)とレーヴェ・アストレイ(れーう゛ぇ・あすとれい)の姿を見つけた為にアクアには声をかけずに、ショウに声をかける事にした。携帯電話を耳から離し、通話口を手で塞いでから声をかけた瞬間の出来事だった。
「脅されている。「女王器」を狙っている者が…… ぐっ」
「おい! おい!!」
「きゃあっ」
目の前でクルードが倒れるのを見た瞬間、隣を歩いていたユニも次いで倒れ込んだ。
ショウがクルードに寄った時、クルードの手から零れ落ちていた携帯電話が大声で鳴き始めた。
「誰だ」
「…… 切ったら死ぬ」
「ふざけるな! 2人をどうした、なにをした!」
「アクアっ!」
「!! アクっ!!!」
先で立ち止まっていたアクアが突如に倒れた。
「アクっ! アクっ!!」
「ショウ、これっ!!」
レーヴェがアクアのドレスの裾をめくると、アクアの右足太ももが水晶化していた。
ショウは唇を噛み切りながらに声を抑えて言った。
「何が目的だ」
「…… 「女王器」 …… 案内しろ」
「アクと、この2人はどうなる」
「…… 水晶化 …… と全身麻痺 …… いつか回復する …… かも」
「貴様」
「…… あなたの居場所は分かる …… 案内しないなら今 …… 殺す」
ショウもレーヴェも回復魔法は使えない。ここは従うしかない。
「行くぞ、レーヴェ、案内してくれ」
「えぇ。わかったわ」
「頼んだぞ………… 玲奈」
レーヴェが先に、そしてショウは携帯を耳に当てながら歩み始めた。この時、ショウが自分の上着のポケットに手を入れた事は指摘されなかった。通話中であるショウの携帯電話のディスプレイには如月 玲奈(きさらぎ・れいな)の名が表示されていた。
スライド式の携帯を閉じると、玲奈は勢い良く駆け出した。
「ちょっ、ちょっと待つネ」
「ダメです! 胸が大きくても、ダメなものはダメなんです!」
学校の南門を警備しているエフェメラ・フィロソフィア(えふぇめら・ふぃろそふぃあ)は、波羅蜜多実業高等学校のソルジャーであるレベッカ・ウォレス(れべっか・うぉれす)の胸を鷲掴みにしたまま門外へと押し出していった。
「怪しい者じゃないネ、ワタシたち、ちゃんと用があるネ」
「だから何度も言わせんな! 今は緊急事態なんだ! 中の奴は外に出せねぇし、外の奴は中に入れねぇ、これ当り前だろう!!」
「お願いします、早くしないと事態が悪化する恐れがあります」
エフェメラのパートナーであるフォルトゥナ・フィオール(ふぉるとぅな・ふぃおーる)の怒声に、アリシア・スウィーニー(ありしあ・すうぃーにー)は頭を下げて懇願したが、フォルトゥナの声色は一切に変わらなかった。
「駄目だ駄目だ! あんたたちが行こうが行くまいが、状況は悪化するんだよ!」
「そんな……」
「アリシア、怯む事は無いわ」
威圧して追い払おうとするフォルトゥナの前に、明智 ミツ子(あけち・みつこ)が立ちはだかり、真っ直ぐに睨み見上げていた。
「大きな声で論点をすり替えているだけだわ、状況が悪化する事が決定事項の様に言っていましたが、それこそが愚の骨頂」
「なんだと!!」
「フォル君、今の発言には私も反対です」
「なっ、主…… どうして……」
「いいですか? あなた方も良く聞きなさい! イルミンスールの問題はイルミンスールが解決します、その為に生徒および教師が一丸となって立ち向かっているのです。外部の方の協力など必要ありません。それとも、イルミンスールは自校のトラブルも解決できない無能揃いだと仰るおつもりですか?」
「そんな事は……」
「にゃははん♪ 空から入ろうとしても駄目だよん」
「あら、大したジャンプ力ですね」
守護天使のオーコ・スパンク(おーこ・すぱんく)は目の前までジャンプして現れた獣人のリンクス・フェルナード(りんくす・ふぇるなーど)に遮られて、宙で留まった。
「もっと高く飛ばなくてはダメですね」
「ふふーん、残念ながらその選択はゲームオーバーなんだよねん」
オーコが界下に瞳を向ければ、エフェメラが「火術」を放とうとしているのが見えたので、地上へと高度を下げた。
「強攻策は用いませんわ。お願いします、私たちを、いえ、レベッカだけでも通して下さい、レベッカの体験が事件解決の鍵になるかもしれないのです」
「どういう事ですか?」
「ワタシは「水晶化した街」での体験があるネ。あの街では水晶が襲ってきた、今回の事件も原因が同じなら、きっとどこかに「黒いヴァルキリーの壁画」のようなものがあるはずネ」
「………………」
「おうおう、適当なこと言って騙そうったってそうはいかねぇぜ」
「大きな声を出しても怯みませんし、そんな幼稚な事はしません」
「またお前か」
「フォル君、やめなさい」
エフェメラはレベッカの前に立ち、真っ直ぐにじっと見つめた。
「お通り下さい」
「主っ?!」
「良いのですか?」
「事件解決に一役買うと判断します。お通り下さい」
「ありがとう!! ミツ子、準備するネ」
「了解」
レベッカとミツ子は振り向いてから、森の茂みに入っていった。
茂みから出てきた時は爆音と共に。レベッカはスパイクバイクに、ミツ子は白馬に乗って現れた。
アリシアはレベッカはスパイクバイク、オーコはミツ子の白馬に乗り込んだ。
「ありがとうっ! 行ってくるネ!!」
瞬きをしてる間に、スパイクバイクは地面にしっかりとタイヤ痕を刻んで南門を駆け抜けていった。
「トラブルの種を侵入させてしまったかもしれませんね」
去りゆくスパイクバイクの轟音が、エフェメラに大きな不安を抱かせたのだった。
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