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空賊よ、風と踊れ−フリューネサイド−(第2回/全3回)

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空賊よ、風と踊れ−フリューネサイド−(第2回/全3回)

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終章 空の彼方にあるもの


 中央遺跡内部。
 ヨサークとフリューネは、我先にと足を踏み入れ、辺りを見回していた。
 高い天井のせいか、それとも壁に大きく開けられた穴のせいか、部屋は外観以上に開放感を感じさせ、その中央には先ほどの石像が置いてあったと思われる台座が見えた。その奥にある壁には何かの文様が装飾されていて、目を凝らすと、それがおぼつかない形状をした黒と赤の円を並べた文様だということが分かる。
「あ? この円の配置って……タシガン空峡に浮かんでる雲じゃねえのか!? なんでここにそんなもんが……」
 ヨサークが壁画を見つめているその後方では、フリューネが頭上を見上げていた。天井にもうっすらと何かが書かれているのが見え、彼女はそれを確認するために立ち位置をずらす。壁の穴から差し込む夕日を光源に、やがて彼女はそれを視認した。そこに描かれていたのは、円を描くように並んでいる図形だった。その中で、丸型の図形だけが微かに色濃く描かれていた。
「これは……おそらく、月の満ち欠けを表したものね」
 部屋を一通りチェックしたフリューネとヨサークは、この部屋に描かれた壁画の謎を懸命に解こうとしていた。
 壁に描かれた文様、これを仮にタシガン空峡の雲を配したものだとしたならば。さしずめこれは地図でいう陸地の高低を表した、雲の等高線といったところになるのだろうか。
 そして天井に描かれた図形を月の満ち欠けを並べたものだとしたならば。あの円形が満月となる。他より色濃く描かれているのは、それが強調されるべきものだからではないだろうか。
 ここまでは、ヨサーク、フリューネ互いに洞察出来ていた。さらに情報を集めるべく、ヨサーク、そしてフリューネは雲の等高線に目を向け凝らした。と、よく見ると並んでいる円に紛れ、細い線で何かが描かれていた。
「これは……気流か?」
 思わず考えが口から漏れるヨサーク。そう、彼の言葉通り、これは気流の流れを示したものであった。さらに、何本も描かれている線のうち、一本だけが他の線より太く描かれていることに二人は気付いた。おそらく一般人が見ても理解出来ないであろうこの円と線の組み合わせ、そして太い線が指し示すものが何か、二人は同時に気付いた。

 もしかして、これがユーフォリアを示す地図なのでは?
 それは、空賊という立場で、普段からタシガン空峡を飛んでいる二人だからこそ判別することが出来た、言わば「風の地図」なのであった。
 等高線が指し示す雲の中で、ある特定の方向に流れている気流。そして一本だけ描かれている太い線。
「ようやく、会えるのね……」
 それは、小さく小さく呟いたフリューネの歓喜の声。彼女はもう、全てを理解し終えていた。この太い線は、言うなればユーフォリアに辿り着くまでの、気流の道。この気流以外では、他の気流に阻まれてユーフォリアの場所まで辿り着けない仕組みになっている。これが、ずっとユーフォリアが見つからなかった理由であった。
「おいおめえ、何ひとりで全部分かった気になってんだこら」
 ヨサークが、風の地図に目を向けたままのフリューネに言葉を投げる。
「あら、あんたは分からなかったの? まあ当然よね。大した知識もなさそうな、頭の軽そうな男だものね」
 ヨサークは挑発されついカッとなり、自らの推測を自信満々に披露した。
「黙れ女、俺が何も分かってねえとでも思ってんのか? あぁ? これはアレだろ、タシガン空峡の雲と気流を表した図なんだろ? で、この太い線がおそらく唯一ユーフォリアに行き着くことが出来る気流ルートだ。天井にある絵は月の満ち欠けの絵だろうから、あの絵からするに満月の周期でこの気流が生まれる、ってとこだろ? どうだこら、全問正解だろうが!」
「……さあ、それを私が肯定したり否定したりする必要はないわよ」
「女、いつまでも上から目線で見てんじゃねえぞこら。刈るぞこら」
「あんたが? 私を? やれるものならやってみなさいよ」
 ヨサークとフリューネはほぼ同時にハルバードと鉈を構え、距離を取った。が、その切っ先が交わる前に、ふたりの横から声が聞こえた。
「へえ、そういうことなの。色々教えてくれてありがと」
 ばっ、と声の方を振り向くふたり。そこに立っていたのは、空賊狩りである青い爪と黄金色の髪の持ち主だった。部屋に注ぐ赤い夕日の中、不気味に浮かび上がったその青い爪を見てふたりは同時に悟った。
「まさか……空賊狩り!?」
「そう、けど、それも今日でおしまい。だって、今ユーフォリアの場所が分かっちゃったからね」
 彼女のその言葉で、ふたりの空賊は危機的状況であることに気付かされた。
 今ここでこの空賊狩りを逃がしたら、間違いなくユーフォリアを奪われる。
 確信にも似た気持ちを抱いた二人は示し合わせたわけでもないが一斉に駆け出した。
「ユーフォリアに手を出すなら、このまま返すわけにはいかないわ。ロスヴァイセ家の名にかけて!」
 フリューネは滑り込むように間合いをつめると、空賊狩りを切り上げるように下から上へ薙ぎ払う。
「どいてろ、クソアマ! 俺の畑に土足で入ってくんじゃねえ!!」
 ヨサークは姿勢を低く構え、空賊狩りの足下を刈り取るよう音もなく潜り込んだ。
 まるで連携は取れていなかったが、どちらも名高い実力者、それぞれの攻撃は確実に空賊狩りを捉えていた。
「なんだ、この程度なの?」
 ポツリと空賊狩りは呟いた。 
 彼女はおもむろに身体を捻り、双方の攻撃の軌道から外れる。フリューネの白い腹部に爪を差し込み、その柔らかな肌を切り裂き、同時にヨサークの肩に爪を突き刺すと、均整の取れた筋肉を無理矢理に引き裂いた。
 二人の真っ赤な飛沫が、遺跡の床をしとどに濡らす。
 フリューネは苦痛を顔に浮かべ、倒れ込むように床に手をついた。ヨサークは険しいシワを顔に刻み、無惨に裂かれた肩を押さえ、その場に座り込んだ。
「……じゃあね、お二人さん」
 苦しむ二人の姿に、空賊狩りは何の感慨も示さず、踵を返した。
 フリューネはとめどなく血の溢れる腹部を押さえ、ハルバードを杖に立ち上がった。
「ま……、待ちなさい。キミは……何者なの?」
「あれ、十二星華って知らない? 空賊狩りよりこっちで呼ばれる方が好きなんだけど」
「え……?」


「あたしは十二星華のひとり、【獅子座(アルギエバ)のセイニィ】よ」


 

「ま……、待ちなさいっ!」
 傷つきながらも追おうとするフリューネだったが、やはり身体は言う事を聞かない。
 そんな彼女の前に、高濃度のアシッドミストが噴出した。フリューネとセイニィの前を遮るように、この霧は溢れ出してきた。
 霧の向こうに、セイニィともう二人の影が見える。
「誰、あんた達?」
「お初にお目にかかる、シャノン・マレフィキウムだ」
「マッシュ・ザ・ペトリファイアーです、よろしく」
 二人はフリューネとともに行動していた生徒である。
 彼らはずっと機会を窺っていたのだ、理想の背徳者セイニィに会う機会を。
 普通からはいささか外れた二人に、セイニィは少しだけ興味を持った。フリューネはもうこれ以上追う力は、残っていなかった。セイニィは振り替えると、大きな目で彼女を見据えた


「……じゃあね」




つづく

担当マスターより

▼担当マスター

梅村象山

▼マスターコメント

マスターの梅村です。
本シナリオに参加して下さった皆さま、公開が遅れてしまいまことに申し訳ありません。
そして、本シナリオに参加して下さった皆さま、ありがとうございました。

今回、個人的に印象深かったのは、
フリューネサイドとヨサークサイドに影響を及ぼす罠の掛け合いが、
第二回連動シナリオの醍醐味になるかと思ったのですが、
フリューネサイドで誰も罠を仕掛けないと言う珍事に恵まれた事です。
マスターの想定を越えていくのが、やはりこのゲームの面白さだな、と思った次第です。

十二星華のセイニィが本格的に姿を現しました。
扉絵の時点で空賊狩りの正体がバレバレという、お茶目な事態が起こってしまいましたが、
空賊狩りに対するアクションをかけてくれた方もいましたので、結果的に良かったと思います。
今回のリアクションで示した通り、セイニィはかなりの実力者です。
ですが、フリューネサイド、ヨサークサイドで実は対処法が示されております。
次回、戦闘を挑まれる方は、そちらを参考にして頂ければ活躍できるのでは、と思います。


第三回のシナリオガイドは今月中に後悔したいと思っております。
次回もご参加頂けたら幸いです。