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リアクション
第4章 白き翼の真実
フリューネと生徒たちは休息を取っていた。
エル・ウィンドは、甘いコーヒーとチョコを配り、一同の疲労を癒すべく尽力していた。甘いものが苦手な人には、ここまで大荷物を運んで来た風祭優斗が、水や食料を手渡している。
「これで良し、応急処置はしておいたけど、あとで医者に見せるんだよ」
治療用救急セットの箱を閉じ、エース・ラグランツはフリューネの治療を終えた。
「肩のほうは結構強く打ってるみたいだから、あんまり派手に暴れちゃいけないよ」
「ごめん、ありがとう……」
礼を言って立ち上がると、彼女は周囲を見回した。
先ほどペガサスを庇って負傷したという、鬼院尋人とララ サーズデイに会いにいった。
「エネフを守ってくれたんだってね、ありがとう……」
「礼など不要だよ。美しきものを守るのは当然の務めだからね」
「オレも別に礼なんて……、まあ、してくれる分には構わないけど……」
と言いつつも、二人は少し嬉しそうである。
共に守ってくれた琳鳳明にも礼を言うと、彼女は照れた仕草で手を振った。
「いいえ……、そんな。私なんて全然……、でも、エネフが無事で良かったです」
と、そこに小鳥遊美羽(たかなし・みわ)がドタバタと駆け寄って来た。
「フリューネ〜! 怪我したって聞いたけど、大丈夫なの〜!?」
彼女は昨晩、ヨサークの船を出て、フリューネの所を目指して来たようだ。曰く、フリューネは友達だけどヨサークはムカつく。昨晩も、夜間警戒用の罠を仕掛けてる生徒相手に、暴れてきたのだった。
「警備用の罠を壊したから、今頃きっと空賊狩りに襲われてるよっ! 褒めて褒めてっ!」
えっへんと、彼女は胸をはる。フリューネは少し戸惑いながらも、頭を撫でてあげた。
「え、ええと……、うん、ありがとう」
「さっきは捜しに来てくれて、ありがとう。それと、ごめん、迷惑かけて」
生徒たちの前に立つと、フリューネはあらためて礼を述べた。
「……しょうがないだろ。フリューネにとってはそれだけ、大事なことだったんだよな?」
武神牙竜が言うと、それに続き白砂司が口を開いた。
「そんなことで、いちいち謝るな。お前から目を離したのは、こちらの落ち度だ」
「そうです。師匠のピンチに駆けつけられなくて、ごめんなさい」
「まあ……、今後は気をつけてください」
と、クリス・ローゼンと九条風天がそれに続く。
「皆、お前のために集まり、好きでやってる事だ……、それを気にする必要はない……」
グレン・アディールはぼそりと呟いた。
「ごめん。そうよね……、みんな、私のためにここまで来てくれたのよね……」
反芻するように、彼女はその言葉を飲み込んだ。
素性も良く知らない自分のところに、彼らは集まってくれたのだ。
真実を語らない自分なのに、彼らは信じてくれたのだ。
ならば、今度は自分が彼らの想いに応える番だろう。
「さあ、とっとと先へ進もうぜ。まだ、ユーフォリアの手がかりも掴んでないんだからな」
「日が暮れる前に何かわかるといいんですけど……」
生徒たちが立ち上がり行こうとすると、フリューネは呼び止めるように言った。
「……ユーフォリアは、ロスヴァイセ家の祖先、伝説のヴァルキリーと呼ばれた英雄よ」
その言葉に、生徒たちは驚きの表情で振り返った。
生徒たちを見るフリューネの目にもう迷いはない。
駆けつけてくれた仲間を信じられなかったら、他に信じられるものなどこの世にないのだ。
◇◇◇
ユーフォリア・ロスヴァイセ。
彼女は5000年前の戦いで、鏖殺寺院に封印されてしまった、とロスヴァイセ家の伝承に残っている。
「子供の頃はよく祖母から聞かされたものよ、タシガン空峡が平和なのは、この雲のどこかでユーフォリアが見守っているおかげだって……、たわいもない話だけど信じていたわ」
懐かしそうに語るが、フリューネはすぐに目を伏せた。
数年前から状況が変化した。ユーフォリアを求めて空賊が集まり、空峡は群雄割拠の時代を迎えたのだ。
「彼女は一族の英雄だけど、私にとっても小さい頃からのヒーローだったわ。だから、私利私欲のためにユーフォリアを狙う空賊たちから、私は彼女を守りたいと思ってる。ロスヴァイセ家の誇りにかけてね」
「……だが、何故、空賊なんだ? ユーフォリアを捜すだけなら、空賊行為など必要ないはずだ」
司は前々からの疑問を口にした。
「私をどう呼ぼうと勝手だけど、空賊になったつもりはないわ」
ユーフォリアはタシガン空峡を愛したと伝えられる。
だが、空峡はかつての平穏を失った。空賊たちが空を乱せば、そこに悪徳商人や犯罪組織が横行闊歩する。
「私はただユーフォリアの意志を継いだだけ」
ユーフォリアに憧れるフリューネは平和な空を取り戻すため、義賊としての道を選んだ。空賊や悪徳商人を討つ彼女の行為は、市民からは賞賛されている。だがしかし、法の前では空賊と呼ばれる行為なのだ。
まだ納得出来ない様子で、司はさらに質問を重ねる。
「……しかし、平和のために法を犯しては無意味だ。他の手段を取ろうとは思わなかったのか?」
「わかってないわね。本当の悪党は、法の力でも裁けない所にいるものなのよ」
「だから、おまえは空賊と呼ばれようとも、悪と戦っているのか?」
牙竜は真剣な眼差し向ける、己の正義を貫く彼には共感する箇所もあるのだ。
「褒められない行為だとしても、その方法でしか討てない敵、救えない人がいるなら……、迷いはないわ」
「それがおまえの信念か……」
彼女の想いを胸に留めていると、相棒の重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)が口を開く。
「大変ご立派なお考えです。どこかのヴァルキリーにも聞かせてやりたいものです」
「……って、聞いてるわよっ!」
牙竜のもう一人の相棒、リリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)はすかさず突っ込んだ。
本日の衣装は牙竜敵対用グロロリ『暗黒卿リリィ』だそうだ。島に来る前、牙竜と戦っていたため、着替えを用意せずにここに来てしまったようだ。なんか血とかついてて不気味だ。
「どこかのヴァルキリーで、ご自分の事と理解されるとは、素晴らしい洞察力です」
「ば、馬鹿にしてくれちゃって〜!」
二人がどたばたやっていると、神和綺人がおずおずと手を挙げた。
「あの、最後にもう一つ聞いてもいいかな……?」
仲間の注目を集めながら、この真実が明らかにした謎を尋ねた。
「ユーフォリアは手にした人間に誰よりも速く天を駆ける力を授ける……空賊の噂によるとこうなってる。フリューネさんの話だと、ユーフォリアは人間だ。この噂の意味する所がよくわからないんだけど……?」
「……それは彼女を見つければわかるハズよ」
フリューネは窓の前に立ち、屹立する遺跡群を見つめた。
◇◇◇
午後三時を回った頃だろうか、遺跡群を独り進む影があった。
彼女は八ッ橋優子。ペットボトルの水を飲み干すと、鞄から出したメンソール煙草に火を着けた。フリューネの弟子を自称する彼女は、空賊狩りに接触するため単独行動を取っている。噂に聞いた獣のような傷跡を探して歩いてはいるものの、未だ収穫はゼロなのだった。
「……どこにもいないじゃない」
苛立ちながら、彼女は壁に塗料スプレーで目印を付けた。
「あのあの、それ、なんのしるしですか?」
振り返れば、シオ・オーフェリン(しお・おーふぇりん)が不思議そうに見ている。
「イモね、渋谷で流行ってるマークじゃない。そんなことも知らないの?」
「シオちゃん、イモだったのですか。新発見なのです。みんなに自慢しようと思うのですよ」
この子はアホなのかもしれない、と優子は思った。
シオの背後には崩れた壁があり、その奥にそこそこの大きさのテントが見える。
「あのテント、あんたの?」
「あのですね、内緒ですよ。シオちゃん、アホのような気がするから、そういうのわかんないのです」
優子は目を細め、このアホの子をどうしようか考えた。
そうこうしてると、奥のテントから向山綾乃(むこうやま・あやの)出て来て、帰還した佐野亮司とジュバル・シックルズを迎えた。二人は亮司のパートナーなのである。
「お帰りなさい、亮司さん。作戦のほうはどうでしたか?」
「うーん、余計な邪魔が入った。もう少しだったんだけどなぁ……」
「まだ次がありますよ。ところで……、あちらの人はお知り合いですか?」
振り返ると、遺跡の二階にある朽ちたベランダに、少女が座っていた。
黄金の髪を二つ括りにした少女だ。黄色と黒を基調とした軽装の衣服に身を包んでいる。気の強そうな瞳は、どこか山猫を彷彿とさせる。彼女はこちらを見下ろして、値踏みしているようだった。
「ねぇ、ユーフォリアについて何か見つかった?」
涼司とジュバルは身構え、優子と女性陣は後ろに下がった。
「あんた達といい空賊といい、空峡にいる奴らは、なんでこう血の気が多いんだろ」
せせら笑い、両腕を胸の前でクロスさせると、その手に紺碧に光る爪が出現した。
「光条兵器の爪……、もしかして、あんたが空賊狩りなの?」
優子は緊張の面持ちで尋ねた。
「なんかそんな名前で呼ばれてるみたいね。ま、そんなのどうでもいいんだけど」
「敵対する気はないわ。役に立つ情報持ってきたから、良かったら使って」
集めたヨサークに関する資料を空賊狩りに放り投げると、優子は両手を挙げた。
ヨサークに空賊狩りをぶつけて、彼女は漁父の利を得ようと企んでいる。
「……なあ、なんで空賊を狙ってんだ?」
涼司の質問に、空賊狩りは目を細めた。
「空賊ならユーフォリアのこと知ってると思ってね。でも、人の話なんて聞かないで襲ってくるから、雲海に沈めてあげたわ。話の出来るやつもいると思ったんだけど、嘘つきだったし……」
「ユーフォリアを狙ってんなら、俺の話に一口乗らないか?」
「ふぅん……、面白い話なら、聞いてあげてもいいけど?」
「フリューネって空賊がユーフォリアを狙ってる。俺と協力して倒さないか?」
「それより、ヨサークって空賊のほうが危険よ」
亮司と優子は、むっとして顔を見合わせる。
「おい、ヨサークなんざ、今はどうだっていいだろ」
「フリューネは放って置けばいいでしょ。ヨサークのほうが数が多いんだから」
「話は聞かせてもらいました。あなたが空賊狩りなんですね……」
三機の小型飛空艇が上階から降下して来た。
六本木優希とアレクセイ・ヴァングライドが、空賊狩りの左右を挟んだ。正面、少し距離を取った所で、ミラベル・オブライエンがスナイパーライフルの照準を、空賊狩りの胸に定めていた。
この三人は本日、本隊を離れ単独行動を取っていたのだ。
「あなたに恨みがあるわけじゃありません。でも、あなたの行為を見逃す事はできません……!」
「ちょっと、私たちが先に話してたでしょ?」
優子が抗議の声をあげるも、優希たちには届かなかった。
「アレクさん、いつものように……、あ、待ってください!」
「……うるせぇな! わかってんだから、いちいち指図すんじゃねぇーよ!」
アレクセイは片手で操縦しつつ、ヘキサハンマーを振り上げて殴り掛かる。
まだ、ケンカの仲直りをしていないようだ。息のあったいつもの連携とはほど遠い。呼吸が大きくずれた連携に戸惑いつつ、優希はハルバードを前方に向けて突進、ミラベルは逃げ道を防ぐように射撃する。
そのバラバラな動きは大きな隙を生んだ。
「……可哀想に。だーれもおしえてくれなかったのね、命はひとつしかないってことを」
空賊狩りはひらりとその場で回った。目で追えるほどのゆっくりとした動作だ。ただ、まるで無駄のない動きだった。三方からの攻撃を紙一重でかわし、右の爪でアレクセイの肩を深々と引き裂き、左の爪で優希の脇腹を切り裂いた。スコープ越しに見ていたミラベルは、一瞬の出来事に表情が凍り付く。
その瞬間はゆっくりと流れ、ややあって鮮血が青空に飛び散った。
「そ、そんな……、ゆ、優希様!」
二人の飛空艇はふらふらと別方向へ墜落していく。ミラベルは優希を追って、船を全速で走らせた。
壁面に飛び散った血に顔をしかめ、亮司は空賊狩りとの協力を撤回した。彼女は躊躇なく優希たちを切り裂いた。フリューネの前に連れて行けば、護衛の生徒たちを危機にさらす事になる。
空賊狩りは跳躍すると、隣りの建物の上階に移った。
「待って、私も一緒にいく。あんたに協力するつもりで来たの」
優子が追いかけようとすると、空賊狩りは冷たい目で見下ろした。
「はぁ? あんたはもう用済みよ。じゃあね、お人好しさん」
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