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リアクション
・探索班、行動開始
「むー。参りましたね。いきなり道が出来たり無くなったり……何人かは壁の向こうに取り残されてしまいましたし」
厄介な状況に嘆息するのは藤原 すいか(ふじわら・すいか)だ。ここの仕掛けが作動した以上、他も同様かもしれないからだ。
「せっかくここまでマッピングしてきたのに……それに遺跡の守護者らしき存在、ですか」
手にしていたトランシーバー、それに加えて先程聞こえてきた声からするに、今図書館では戦いが起こっていることは予期出来る。
「どうします、これから?」
問うたのは同じようにマッピングをしていた今井 卓也(いまい・たくや)だ。
「私はまだ遺跡を回りますが。何やらおかしな状況になっている様子ですし。とりあえず開いたこっちの道を行く事にします。イーヴィちゃん、この無線と地図お願いしますね」
すいかはそう答え、パートナーのイーヴィ・ブラウン(いーびー・ぶらうん)に手書きで作成した地図とトランシーバーを渡す。
「分かったわ。私は連絡役としてこの場で待ってるわ」
この遺跡内では連絡手段はトランシーバーしかない。しかし、パートナー同士なら別行動していても連絡に差し支えはない。それを生かして行動する事にした。
「僕は上を目指します。入口のあった階にはさらに上に行けそうな場所もありましたし。ルーメイ、地図いいかな?」
卓也とパートナーのフェリックス・ルーメイ(ふぇりっくす・るーめい)は上を目指すようである。
「ただ、来た時と同じとは限りません。まずはそれを調べながら僕も行く事にします」
目的は違えど、二人は遺跡を回る事にした。
「いきなり困ったわね。せっかく地図を書いたのに、こんな風に形変えられちゃ書き直しじゃない。とりあえずチェック、と」
一ノ瀬 月実(いちのせ・つぐみ)は口で言うほどは動揺しておらず、地図を書き直そうとしている。
「そうだよね、困ったよねー。ってそっち!? 地図の心配!? 出口がなくなっちゃ方が問題だよ!」
パートナーのリズリット・モルゲンシュタイン(りずりっと・もるげんしゅたいん)はそんな月実の様子にツッコミを入れずにはいられなかった。
「そうね。確かに困ったわ。お腹空くものね。これもあと1ダースくらいしかもうないわ。もぐもぐ……」
「ってそばからおなかすかない! カロメ食べるな! むしろ寄越せー!」
「痛い痛い、首しめないで、チョークチョーク!」
「……この状況で何をしてるんだ?」
呆れた調子で後藤 日和(ごとう・ひより)が口を開く。彼のパートナーのゆる族マール・ダンウッディ(まーる・だんうっでぃ)もまた、傍らで様子を見ていた。
「後ろは壁、どうやったって戻ることはできないってのに。やはり、さっきの先へ進むってのが一番良いんだろうな」
と、日和は月白 悠姫(つきしろ・ゆき)を見遣る。
「先に行った者達がいるかもしれない。よく見ると、壁や床を誰かが調べた形跡がある。合流するのが無難だろう」
悠姫が静かに声を発する。冷静に分析しているようだ。
「そうね。退路を確保するにもこれじゃあね。誰か先にいるなら合流したいわ、不安だし」
月実もまた、同意した。悠姫はさらに続けて言う。
「今の声……それに道が閉ざされたこと。おそらくここから先に行けば動き出した『何か』の正体は分かるだろう」
そう推測すると、彼女は周囲の魔法陣を見渡した。
「攻撃の気配はない。ただ、この様子だと先程の声の主はここにいる私達の存在にも気付いてるのだろうな。この魔法陣も下手に触れば何が起こるか分からない。何せ排除すると言ってるのだからな」
悠姫が注意を促す。
「その前にこれが気になる。見つけた時は傷んでいたが……見ての通りだ」
第二層の小部屋で見つけた手帳のようなものを取り出した。ボロボロだったはずのそれは字が分かる程度までに復元されていた。
「なんだそれは?」
日和が問う。それが発見された時、彼は別の場所にいたため何か分からなかったのだ。
「上で見つけたものだ。あの時は読めなかったが、読めるようになっている」
答えつつ悠姫はそれを開く。
「何やら数字のようなものが羅列されている。何かのデータのようだ」
中身自体は読めるようにはなっているが、古代シャンバラ語の心得が無かったために、詳しい事は分からない。
「データのよう、ね。それにさっきの声の限りじゃ何か上では出たみたいだし。ほんと、何なのかしらこの建物」
月実もまた考える。不可解な部分が多いこの遺跡の正体を。
「残念ながらこれだけでは検討がつかんな。何か重要なものだとは思ったんだが……」
悠姫が僅かに表情を曇らせた。
「魔法陣、何かのデータ、モンスター……そうだわ! きっとここは魔法を使った兵器研究所なのよ! 魔導書と連結した、新しいモンスターの開発をね。どう?」
閃いた、という様子で月実は顔を上げる。
「どうって……真面目に考える振りして実は考えてないでしょ。そんな兵器なんてそうそう作れるわけないじゃない!」
リズリットが否定する。あまりにも突拍子もない考えであり、古代のシャンバラにおいてもそんな事が出来るとは思えなかったからであるようだ。
「だよね……ごめん、そんなわけないわね」
月実は自分の考えをあっさりと投げてみせた。
「ただ、この遺跡は何かを研究していた施設の可能性はあるな」
手帳のような本に書かれたデータと睨みあいながら、悠姫は『研究所』としての可能性はあると感じているようだった。
「なるほど、研究所か。ならこの先にはそれに関する設備があるかもな」
日和がそっと呟く。
「でも、仮に研究所の類だとしたら内部に運搬施設があるはず。こんな通路をいちいち通ったりなんかしてらんないだろうし。それに……」
次の仮説について月実は考える。
「お腹がすいたらご飯を運ばなくちゃいけないじゃない。そのための運搬エレベーターとかは必要よ! それを利用すればきっと出られるに違いないわ!」
と彼女は確信したような顔つきになったが、すぐにリズリットからのツッコミが入る。
「なわけないでしょ! でも、言いたい事はちょっと分かったわ。『研究所なら、その機密性から入り口は少なくしたり隠したりするけど、それとは別に、研究結果を外へと持ち出すために運搬設備が必要だ』ってことね。もしそうなら、地下から最上階まで行けるけど、さすがにそこまで都合のいい設備はあるわけないでしょ……ってなんで私がツーカーなのよ!」
彼女の意見は的を射ているようであった。何かしらの設備はあるだろうけど、ここまで遺跡を調べた感じでは期待出来ない、というところだ。
「エレベーターか、でもないわけじゃなさそうだよな。こんなデカイ遺跡なんだ。昔ここを出入りしたた人だって、毎度毎度階段を上り下りするような面倒な事はしたくないって思ってただろうからな」
日和が言う。かく言う当人が面倒な事を避けたがる性質だから、そう考えたのかもしれない。
「とりあえず、ここで立ち往生していても仕方がない。行こう」
何が起こっても対処出来るように、悠姫が剣を抜いた。
「だな。おっと、万が一ってことがあったら面倒だ。マール、光学迷彩を頼む」
「分かりました。ただ姿が見えないからって無理はしないで下さいね」
マールと日和の姿が消える。覆えるのは自分の身だけのため、他の者は見えたままの状態だ。
周囲を警戒しつつ、一行は通路の先を目指した。
・隠し小部屋にて
「今の気配に、この遺跡を守っている者らしき声。何かが起こっているようだな」
わずかに顔をしかめたのは藤原 和人(ふじわら・かずと)である。図書館内部の外周通路にある隠し小部屋にいた彼も、遺跡の変化を感じていた。
「そうですね。遺跡が動き出した、ということでしょう。どうします?」
彼の言葉を受けたのは、エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)である。
「この部屋は粗方調べたからな。俺は外の状況を把握しようと思う。それに、図書館の方も気になるしな」
この時、まさに図書館では守護者との戦闘が始まっていたのだが、彼がそれを知る由はなかった。
「そうですか。私と蒼はここの情報を持っていこうと思います。ただ、その前にもう少しだけ調べていきます。もしかしたら、ということもあるかもしれません」
彼とは遺跡が動き出した事によって、何かが変化したのではと考えているようだ。パートナーの片倉 蒼(かたくら・そう)はそれが決していいものではないと感じてか、緊張の色が顔に表れている。
「わかった。じゃ、俺は行くぜ。この部屋の事は任せた」
「あ、その前に……」
エメは和人に禁猟区を施す。別行動になるため、効果は長くは続かないだろうが、それでも気休め程度にはなるだろう。
彼らは別れ、各々の行動に移った。
***
「さて、持っていけそうなのは、このスクラップブックのようなものくらいでしょうか。こっちの設計図は難しいですね」
光術で部屋を照らしつつ、エメは再度調べながら部屋の状況を記録していく。携帯電話のカメラで部屋の写真を撮ったりもしている。
「エメ様、この部屋にはやはり、特に仕掛けはないようです」
「みたいですね。蒼、これを持ってもらっても構いませんか?」
エメはスクラップブックを蒼に手渡した。
「さっきの兵器に関する本ですね。しかし、こんなものが本当に存在するのでしょうか?」
少し前は数人でいたため、蒼はそれをじっくりと見る事が出来なかったが、今はそうではない。写真もしくは絵の中にある姿は古代兵器のようではあるが、どこか現実的でないように感じられたのだ。
「確かに、剣や槍みたいなものは分かりますけど、その人のようなシルエットや巨大な獣の絵はピンとは来ませんね。他の調査団の方が何らかの情報を持っていれば、それと照らし合わせることも出来るのでしょうが……ひとまずこれをベースキャンプまで報告しに行きましょうか」
エメはひとまず情報共有のために戻ることを提案した。
「そうですね。ただ、罠が作動しないとも限りません。慎重に行きましょう」
***
部屋を飛び出した和人は、通路を見渡しながら図書館の中へと足を踏み入れようとしていた。
(さっきの兵器に関する本、それに光ってる壁の魔方陣……何か関係があるのか?)
通路には一時感じた気配は既になかった。しかし、明らかに遺跡が変化しているのには気づいた。
(魔方陣が光っている? やっぱり動きだしていたのか。それに、何だこの強大な魔力は?)
図書館の内部に近づくほどに強くなっていく魔力の反応。
そして内部に入った瞬間、その異常性を彼は感じ取った。
(一部の本が光っている? それに、あれがさっきの声の主か!?)
彼がいるのは一階ではないため、吹き抜けを覗くことで守護者の存在を確認することが出来た。だが、それが出来たのは他の理由もある――宙に浮く無数の光の矢。その光によって内部全体が目視出来るまでになっていたのだ。
(……ッ! 洒落になんねーぜ。ん、この光る本はもしや……)
手近なところにあった光っている本を何冊か手に取り、それが何かを推測する。
(なるほど、魔道書か。これが使える者がいればあるいは)
彼は意を決し、魔道書を確保し始めた。下で戦う者達をサポートするために。
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