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謎の古代遺跡と封印されしもの(第2回/全3回)

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謎の古代遺跡と封印されしもの(第2回/全3回)

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第十章 ――第三層――

・明かされていく謎

「すごい爆発音だったねぇ。でも、下にいる守護者とやらは消えたみたいで何よりだよ」
 三階の解読班である縁は安堵していた。
「よく切り抜けられたなって感じだよ佐々良さん。まさかこっちにまで流れてくるとは思わなかった」
 真も一息ついていた。護衛に徹していた二人は終始休む暇などなかったのだ。
「まったく、矢の雨に剣の雨に槍やらメイスやら斧やらの雨。降ってくるんなら食べ物とかお金の方がよっぽどありがたいよぉ〜」
 座り込んで冗談めいた風に言ってみせる。
「ってだーかーらーさぁ? 皐月さーんそっちじゃないでしょうにぃ? 離れない、離れない」
 ふらっといなくなりそうな皐月を引きとめる。
「ほとんどこっちに流れてこなかったのが救いだよ。もしあの数の大半が向かって来てたらって考えるとぞっとするよ」
「そんな事言って、わざわざ吹き抜けまで出てって『左之助兄さん直伝、気合の……一撃っ!』なんて頑張っちゃってたくせにぃ〜?」
「佐々良さんだって切羽詰まって『来るなら来やがれ、全部打ち落としてやる!』って男前なことになってたじゃないか」
 二人とも、相当必死だったようである。
「さて、周りも落ち着いたようだし、オレらも解読するとしようか」
 陣は当てをつけた本を何冊か足元に置いていた。
「ご主人様、これをどうぞ。こんな事もあろうかと、翻訳書を用意しておきました」
 真奈が翻訳書を数冊取り出す。
「サンキュー、真奈。えっと……」
 上に積んであるものから順に取って、翻訳書と照らし合わせながら解読を進めていく。
「何々? はじめてのまじゅつ。『まじゅつをつかうほうほうそのいち ふしぎなことをしんじろ』? ワーイ為になる〜」
 笑顔を作るが、言葉は棒読みだ。
「ってアフォか!!」
 バシーン、と本を床に叩きつける。
「気を取り直して今度はこっちや」
 次の本を手に取り、また読み解いていく。
「えっと……はじめてのがんかた。『がんかたをやるには まずさいしょに にちょうもちできりっとかっこつけることを おぼえよう』? ……うん、確かにそうだよね〜それが基本だよね」
 またしても棒読みである。
「テンドンかい!!」
 またしても同様に叩きつける。
「アレだよね、オレこの図書室におちょくられてるよね?」
「あ、あはは……。そんな事は無いと、思うのですが……多分」
 これには真奈も苦笑するしかなかった。
「さ、さぁ次の解読に掛かりましょう。解読が必要な書物はまだまだ沢山あるのですから。ね?」
 ひとまずは解読を優先させようとする。
「そうだな、じゃあこれっと。えー、『だいまほうにゅうもん』ってもうええわ!」
 今度は書物を本棚に向かって投げつける。
「おかしい、何かがおかしい」
 頭を抱える陣。
「何をしてるんですか。貴重な知識が書かれているかもしれないものをそんなに粗末に扱ってはいけませんよ」
 幸が注意しにやってくる。
「当たりをつけた本が全部ハズレだったもんだからよ、つい」
「ならばそうそうおかしなものを引き当てるとは思えませんが」
 その時、真奈が何かに気付いたようだ。
「あの、ご主人様。その翻訳書、間違っていたようです」
「そっちかーい!!」
 さすがにこれは予測出来なかった。
「それよりも間違った翻訳書でよく解読出来ましたね」
「半分は勘、かな?」
 これには呆れざるを得なかった。
「ま、気を取り直してっと」
 陣は改めて解読に戻った。
「ピオス先生、解読はどんな感じですか?」
 幸がアスクレピオスに現状を尋ねる。
「こりゃあほんとにどんでもねーよ。今までの魔法だとか科学の理論を覆してる。キメラと同じ発想で魔獣と魔法を合成させてキメラ以上の生物兵器を作るなんて、どうかしてるとしか思えないって」
 書いてあったのは、合成獣生成を応用したものであるらしい。
「合成魔獣、ですか。しかし無理やり魔力の媒体なんかにしたら拒絶反応を起こすんじゃないでしょうか?」
「それがまさにその通りだ。これに関する本が他にもあったけど、それを克服して形を留めたのはわずか四体。しかも制御出来ないからって封印したんだとよ。それが今目覚めたりしたらたまったもんじゃねーな」
 彼が見つけた記述を要約すると、そういうことであるらしかった。
 それを聞いて幸は考える素振りを見せ、すぐに探索に戻った。
「そういえばまだ上の本棚は調べてませんでしたね。地球の図書館ではこういう手の届きにくい所に人気の本が沢山隠してありましたね」
 本棚の上段をまじまじと見つめる。
「何か棒になるものはと、ピオス先生、それ貸してください」
 幸はアスクレピオスから杖を受け取り、物色する。
「あとは……そうだ、小人達あの隙間を見に行ってくれませんか」
 光精の指輪も合わせて使うことで、本と棚のスペースに何か隠されていないか調べる。
「おっと、一冊出てきましたね。ピオス先生、お願いします」
 見つけた本をアスクレピオスに手渡した。
『こちら三階。守護者は消えて、今各々探索に戻ってるところです。こちらでは兵器実験に関する情報が見つかってます。えー、全部話すと長くなるんですけど』
 カガチは解読して分かった事実を無線で伝えていく。
「でもおねえちゃん、それは本当かい?」
 彼は信じ難いといった様子です。
「一万人を犠牲にしてまで行った、人型兵器の開発。それのレポートです。詳しくは書かれていませんでしたが、経過は……」
 エヴァの弁によれば、魔力を人工的に高めるだけでなく、身体の一部を機械化することによって強い『戦士』を作るための計画だとのことだ。
「結果人の形を保ったのは十体、しかもそのうち五体は不安定過ぎて危険なため封印された、という事になっているようです」
 非人道的な兵器実験。古代シャンバラにおいてそれが行われていたこと、その内容によるショックが大きかったため、当初彼女は落ち着いてはいられなかったのである。
「レポートの最後には名前がありました。おそらくこれらの実験を手掛けた人物でしょう。ジェネシス・ワーズワースと。これまでの文献でも見た事のない名前です」
 エヴァからの報告をトランシーバーで伝えるカガチ。
「これはひょっとして俺が想像している以上にヤバい場所かもなぁ」
 ぼそっと彼は呟く。その時、
「ん、これ引っかかってるのかな、取れないやー」
 なぎこが何か本を引っ張り出そうとしていた。デジャブである。
「なぎさん、引っ張ってダメだからって押すなよ、絶対押すなよ!」
「そうだ、引っかかってるのなら一度押して取ればいいんです!」
「だからそうじゃないってばー!!」
 本を押し込むと、それがぱたんと倒れた。ただ単に角が本棚と壁の間に引っかかってただけらしい。
「ふう、驚かさないでくれよ」
 カガチはほっとした。またどっかで罠が発動してたら困るが、今度はそんな事はないだろう。
 エヴァはさらに別の文献から驚くべき情報を入手する。
「結局のところ、先程の人型兵器は完成体も全て封印されるようになったようです。理由まではまだ分かりませんが、五ヶ所別々の場所へと。そして失敗作の方は《研究所》に封印されたようです。それがここなのかはまだ分かりませんが……特に問題なものは最上階と最下層に、となってます。他にも地下にはある失敗作が封印されてるようですが」
 そちらは現在読んでいるものには書かれていなかった。
「さて、今度はっと。機甲化兵計画。ん?」
 陣も兵器実験に関わる文書を見つけたようだ。
「……どうやら記録した方が良さそうですね」
 真奈がメモの準備を始める。
「なになに、『機晶姫は個体差はあるが、人と同等の知能だけでなく感情までもが備わる事が中央から報告されている。だがそれは兵器としては完全ではない。感情を排除し、血を流す事のない《不死身の兵隊》の開発に着手する必要がある。十数体を作成したが、中央の方針により廃棄せざるを得なくなった』これって大発見じゃね?」
 完全にコントロール可能な機械兵の製作。それに関する文献だった。
「廃棄されたんやから今の時代に出てくる事なんてまさかないよな?」     
    
 同じく三階で解読する者達がいる。
「なるほど、魔法の兵器転用、それも光条兵器を参考に独自開発ですか。よくこんな事考えますね」
 レーヴェは感心したような素振りは見せるが、やや不満げだ。
(魔法関係の書は確かにある、ならばここには「あれ」に関する記述が)
「師匠、調子はどう?」
 玲奈がやって来る。
「この遺跡がどのようなものかは分かりそうですよ。ポータラカから得た技術を倫理、道徳を一切無視して独自に発展させようとした科学者の遺産、ここもその一つだと思います」
 読み解いた本から仮説を立てる。
「さすがに奇妙な数列までは分からなかったけど、研究書みたいなのが多かったもんね。より強い光条兵器の器を作るとか、そのために剣の花嫁を改良しようと試みたとか酷いことをしてたみたい……」
 後半になるにつれ、言葉が詰まっていく。書いてある実験内容か理論は、かなりえぐいものだったみたいだ。
「おそらくここは図書館ではなく、研究所。ひょっとしたらさっきの守護者も何らかの研究成果なのかもしれません」

「守護者は消えたか。そういえばさっきの通路、結局何だったんだろう?」
 瑠樹は自分が図書館内部へと入った隠し通路を改めて見る。
「戻るんですか?」
 マティエが尋ねる。
「いや、さっきはただ進むだけであんまり調べてなかったからねぇ。ここが研究施設でこの通路が避難経路だとしても、まだ何か引っかかるんだよなぁ」
 ほんとに避難経路なら、ただ外周通路に繋がっているだけでは意味がないように思える。
「とりあえず調べてみますか」

           ***

 同刻、二階。
「どうも、助かったのですぅ」
「こっちもよ。読めるようになったと思ったら古代シャンバラ語なんだもん。やっぱり基礎程度じゃ難しいわ」
 話しているのはシャーロットとミレーヌだ。紙とペンを忘れてしまったシャーロットに対し、それを持っていたミレーヌは本を詳しく読める人を探しており、ちょうどいいタイミングで出会ったのだ。
「考古学をやっていたおかげですぅ」
 彼女達は総出で読み進めていた。なお、シャーロットが今本を読める状況になっているのは、しばらくパシられないように、二十冊くらい一気にセシルの傍らに積んだからだ。
「それにしても物騒な事ばかりね。古代の図書館っていうからもっと魔法とか歴史とか分かると思ったのに」
「ほんとですぅ。もっと面白そうな小説や魔道書とかあると思ったのに、あったのは一度きりしか使えない魔法のものだけだったんですぅ」
 魔法の記述もあるが、それはあくまでも何かに応用するためのものばかりだ。原典クラスの魔道書はまだ発見されていない。
「でも、ここで造られたものって大体が封印されてるみたいだぞ。どこに、って書いてあるのはまだ見つかってないけどね」
 アルフレッドが口を挟む。
「もしここにそれらがあったとしたらかなり危険だな。さっき倒された守護者はもしかしたらその抑止力だったかもしれないんだぜ?」
 アーサーもまた意見を述べる。
「うーん、そうだとしたらここにずっといるのもね。あら、これは……」
 ミレーヌはたまたま薄い本を発見した。他の本とは違い、手書きであるようだった。
「ざっと読んでみますぅ。『各種実験、研究を行ったこの場所を《研究所》とし、危険度の高い数体と、試作型兵器を封印する。前者は単純に制御が効かないからであり、後者は緊急時の対抗策としてである。破壊をしないのは、それらを御せる時が来ると確信しているからである。来たるべき時に備え、私もまたこの場を去る事にする――G ワーズワース』この研究所って、ここのことみたいですぅ!」
 シャーロットが読み上げ、驚愕する。
「これはマズイな……」
「じゃ、じゃあ、さっきの守護者ってもしかして」
 動揺が走る。
「いや、まだ分からないぞ。他の本も読んでみないと」


「古代の魔術がもっと分かると思ったのに、拍子抜けだよ」
 ニコは落胆していた。魔道書から知識を得てもそれは使えるものではなく、他の記述も術式に関するものではなかった。
「ニコさん、どうするんです?」
 ユーノが問う。
「まあ、まだ何かあるかもしれないからね。魔法や魔力の兵器転用の技術があるんだ。それを実践するための術式が書かれた書物だってないとおかしいじゃないか」
 ただの理論だけでなく、ここで実際に何らかの研究が行われていたのなら、それに関するものがないのは奇妙ない話である。
「まだ下にも上にも本はたくさんあるんだ。根気良く探すとするよ」

(原理的には魔力を物質に封じた――女王器に似てますね)
 レイナもまた読める範囲で解読をしていた。
(花嫁のいらない光条兵器、いえ、もう別の存在ですね。炎や氷、さらには電撃すらも固定化させる。出力が安定しないために大量生産は出来なかった、ということですか)
 火術や氷術といった魔法を固定化し、刃とする。魔法剣とは異なり使用者に魔力がなくとも、武器そのものに魔力を持たせることで誰にでも扱えるようにしようと試みたもののようだ。
(完成はしてたって事は……まだ発見されていないだけで、どこかに……隠されているのでしょうか?)
 
          ***

 同刻、一階。
「まさかこっちが『本体』だったなんて」
 守護者もいなくなり、解読に専念出来るようになった未憂は元紙片をじっくりと読んでいた。
「幻をこんな形でかけてごまかすなんてね。ここまでして秘密にしたいものって、なんだろうね」
 リンは不思議そうにしている。
「さっきのレポートが完全な文章になってるわ。『魔獣と魔法の完全融合実験は失敗。これで二百五十五例目である。この実験における合成魔獣製造は危険であると判断。形を保った四体も手に負えるものではない。よって、この四体をそれぞれ封印する。同所に封印するのは危険。全てを別の施設に一体ずつ収める必要がある』もしかしてその一つってここ?」
「ここは造ってたところじゃない? これが残されてるってことはね。まだ他にも書いてあるみたいだよ」
 リンの指摘するように、まだ多くのページが残っていた。
「えーっと、番号の後に何か書いてある。通称、みたいね。『ベヒーモス』『スレイプニル』『ガルーダ』『アスピドケロン』」
 番号はおそらくサンプルナンバーだろう。そしてどこかに封印された四体の合成魔獣の通称が書いてあった。
「こっちの方は何かしら……『魔導力連動システム』? さすがに学校で習うレベルじゃ読み解けないわね」
 アルメリアも気になる記述を発見したようだ。
「一応文献やこの遺跡内の写真を、っと」
「あの、それ少し読ませてもらっていいですか?」
 彼女の本の中の単語が気になったのか、未憂が頼み込む。
「いいわよ。ワタシじゃ完全には読めないしね」
 未憂に手渡すアルメリア。
「えーっと、『これは強大な魔力を自在にコントロールするとともに、特殊な循環系統によって魔力を無尽蔵に増幅する事を可能にするものである。限定的な範囲において、発信、受信の対になる魔法陣を張る。そして――』」
 その後に書かれていたのは、まとめると以下のようになる。
 
 ・このシステムは使用者の身体に魔法陣を刻む必要がある。外で感知した魔力や気の反応はそのまま伝わる。
 ・これにより五感を使わずとも他者の気配を読む事が出来るようになる。
 ・さらに、それらの魔法陣に術式を予め用意しておけば、予備動作や詠唱を省いて発動可能となる。
 ・強い威力の術式でも、動力炉を確保していれば即座に魔力供給を行う事が出来る。
 ・その際に術者の負担を極限まで減らすために、専用の出力デバイスが必要となる。それによって使用する全ての魔力の負担を失くす。
 ・その際に身体、外部、供給、出力、そして放出された魔力は限定範囲においては外の魔法陣によって吸収され動力炉へと流れる。これにて循環が完成する。

 非常に分かりにくいが、要するにノ―モーションで術を発動出来るばかりか、擬似的に無限の魔力を得る事すら出来るというとんでもない技術であった。
「でも、これ結局成功しなかったみたい……ん、唯一の事例? 『たった一体、魔女を媒体としたものだけが目を覚ました。声、色覚、感情の大部分を失ったがそれでもこのシステムを行使出来る唯一の成功例だ。場所としてこの研究所を選んだ事も大きいのかもしれない。とにかく、この場所では何者も敵わない存在であろう。あとは経過を見て、役を与えることとしよう』これってもしかして……」
 それは先程自分達を苦しめた守護者を示しているかのようだった。