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らばーず・いん・きゃんぱす

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●甘いのはどっち……?

 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は携帯電話を取りだした。
「大学生用緊急連絡メール……なにかしら?」
「なにか連絡ー?」
 那須 朱美(なす・あけみ)が問う。二人は空大生、講義を終えて帰宅しようとしていたところ、アクリトからのメールを受け取ったのである。
 さっと一読して祥子は事態を理解した。
(「三色の奇っ怪なゴムね……見学者が大勢いるから早めに事態を収拾しなくちゃいけないんだけどさて……」)
「……てぃんときた!」
「え、なに!?」
 黙ったままメール画面を睨んでいた祥子が、急に声を上げたので朱美は目を丸くしている。
 すると祥子は、振り返って朱美にいい笑顔を見せたのである。
「ねえ、今日のランチは外でしようか? 着替えてから」

 祥子はゴムをとらえるべく画期的な捕獲法に出た。
 すなわち、全部。
 黒服を着てプリンを大量に用意し、これをといちゃいちゃしながら食べるというものだ。
 まさしく、全部。
 植え込みの中でこれを実行する。
「まあ天気もいいからたまには外で食事ってのもいいかー……って、最初は思ってたけど、随分歩いたね?」
 人目に付かぬ場所を探した結果なのだが、朱美はそれに気づいていなかった。
「いいのいいの。さっ、買ってきたものを食べるよ」
 祥子のチョイスの奇妙さに、またまた朱美は不思議そうな声を出す。
「って……なんでサンドイッチなんて気楽なメニューにプリンとか持ってきてるん? 甘いモノ好きだし構わないけど……」
 という言葉を言い終える前に、
「はい、あーん」
 祥子はプリンをすくって、朱美に口を開けることを求めた。
「ってなんであーんなんだよ!」
「いいじゃない。せっかく人目につかないところなんだし」
「自分で食べられるってヴぁっ……いくらなんでも恥ずかしいって」
 すると祥子はくすりと微笑して、猫のように四つ足で彼女に迫った。
「私、したいの」
 その口調の艶冶さに、朱美は一瞬、ぼうとしてしまった。祥子がどれだけ美人か、急に思い出したような気がする。
「わかったよぅ……あーん」
 頬を染めて口を開いた。祥子は朱美に一口与えて、彼女の口まわりについたプリンに舌を付けた。
「きゃ! なにっ! くすぐったいよ……」
「きれいにしてあげる……。ふふっ、甘いのはカラメル? それとも朱美かしら?」
「今日の祥子って何か変だよおー」
「変じゃないわ。今日はね、朱美の素直な気持ちが知りたいの」
「そんな……恥ずかしいよ……」
「私のこと、好き?」
 大きな瞳でそう告げられては、朱美は顔から火が出るような思いをしつつも、従わざるを得ないのだった。
「す……好きに決まってるじゃない。祥子と契約してさ、また戦えるとかいろんな場所に行けるようになって感謝してるしー……ずっと一緒に居たいとか自分の半身だと思ってるしー……」
 どうしよう、と朱美は思った。このままじゃなりゆきで、祥子にすべてを求められてしまうかもしれない。まだ心の準備が……でも……。
 無論、その逡巡は続かない。すぐに大量……本当に大量の桃ゴム軍団がぼとぼとと降り注いできたからだ!
「リアジュウシネ! マジシネ!!」
「ってなにこのけったいな生き物はーー!!」
「質問は後」立ち上がった祥子は、則天去私でたちどころに数体を吹き飛ばした。「これを全部やっつけるのが任務よ」
「え……任務…………だったの……」
 無事、二人は目的を果たしたが、その後数日、朱美はむくれてしまって祥子とまともに口を利いてくれなかったという。