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らばーず・いん・きゃんぱす

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らばーず・いん・きゃんぱす

リアクション


●Ai No Corrida 

「私は西シャンバラ・ロイヤルガードの小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)よ。悪いけどさっきの話、詳しく聞かせてもらえない?」
 桃色のゴムを追っているという会話を耳にして、美羽は水鏡和葉を呼び止めていた。それなら俺が、と、ルアーク・ライアーが和葉にかわってこれまでの次第をかいつまんで聞かせた。
 二人に礼を言って別れ、美羽はコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)に向き直った。
「桃色のゴムをおびき寄せるには恋人同士のフリをするってのが一番だと思う」
 そもそも美羽とコハクは、一般見学者として空京大学を訪れたに過ぎない。ところが途上でこの騒動に巻き込まれ、また、同じく西シャンバラ・ロイヤルガードの卜部泪が解決に向け奔走しているとも聞いたこともあり、自分たちも事件解決に動き出したというわけだ。
「うん、がんばろう」
 コハクは深く頷いた。
「がんばって、恋人のふりをするんだ」
「そ、そうだね、ふりだね、演技だよね」
 恋人、ではなくて恋人のふり、というところに、なんだかモヤモヤしたものを感じてしまう美羽だった。(しかしまだ今の彼女には、そのモヤモヤをどう言い表したらいいのかがわからなかった)
 そしてさっそく、二人は人のない農学部牧場の付近で行動に移ったのである。
 牛の鳴き声が聞こえる。牧場の柵を横目に、歩きながら恋人演技に挑戦だ……といってもどうしたらいいのかさっぱりわからない。しばらく、頬をかっかさせながら並んで歩んでいたが、それも苦しくなってきたので美羽は彼を見上げた。
「えっと、コハク……突然だけど、私、コハクのことがす、す、す……」
「スイートピー?」
「赤くてきれいだよねー。……じゃなくて、恋人同士なんだから言いたいことはひとつでしょ!」
「すー……好き、でいいのかな……」
「そ、そうよ、そうに決まってるじゃない!」
 桜色に紅潮していたコハクが、これで一気に紅葉のように赤面してしまった。無論、美羽も同様だ。
「だから……手くらい、握ったほうがいいんじゃない。なんていうか……好き同士なんだから」
「僕から握っていいのかな……?」
「男の子がリードするのよこういうときは……多分……」
「多分?」
「……私、恋愛経験皆無なんだから頼らないで」
「経験って言うんなら僕だって……全然……」
 美羽とコハクはまだ気づいていないのだ。今、彼らの間には演技ではなく、本当の恋愛が生まれつつあると言うことを。けれどその気持ちを抑えて、コハクはぎこちなく彼女の手を握った。
「美羽って、手、小さいんだね」
「そ、そう……?」
「か、可愛いよ」
「そう……」
 美羽は思わず顔を背けてしまう。
 甘い会話に発展しそうなきっかけは頻出しているのに、どうしてもそれをとらえきれないようだ。その後も二人、ガチガチのまま牧場の端まで来ていた。
 モー、と間延びした声で牛が鳴いているのが聞こえる。
 コハクは切り出した。
「引き返そうか?」
「……うん。でも、ゴム襲って来ないじゃない。恋人同士に見えないのかも……。だから、もうちょっとコハクは大胆になったらいいと思うよ?」
「大胆、って?」
「それくらい自分で考えて!」
 そんなことを言われコハクは心底困ってしまった。それでも勇気を振り絞り、
「……肩、抱いてもいいかな」
「いちいち確認しなくていいから。コハク、私の彼氏役なんでしょ?」
「『役』って声に出しちゃったらダメでは……?」
 背中に棒でも入れられているかのように、あまりにぎこちなく、硬い動きの美羽とコハクだった。
 そしてやはり、桃ゴムの襲撃はないのであった。
 半時間ほど試行錯誤した後、
「こうなったらゴムの制作者を懲らしめるしかない!」
 ついに美羽は方針を変更、「絶対見つけてやるんだから!」と一声、牧場の丘を滑り降りて駆け出したのである。
「あっ、待って」
 コハクはその背を追いながら、切ないような物足りないような、けれど少しほっとしているような……そんな複雑な心境にあった。

 牧場を挟んで反対側、そこには、美羽が切望していた桃色ゴムがしっかりと出現していた。
「また桃色ゴムじゃ! たいがいにしろ!」
 赤羽 傘(あかばね・さん)は雷鳴のように素早く、また激しく、裏拳を入れて怪ゴムを殴りつけた。両脚を踏ん張り腰の入ったパンチは、飛来したゴムの中心に叩き込まれ、これを彼方に吹っ飛ばした。
「しつこいヤツらじゃのぉ、何度も襲ってきちょるし……そのたびに撃退する羽目になるこっちの身にもなれ言うんじゃ」
 パンパンと手をはたきつつ、傘は呆れ半分の口調であった。
「傘ねえが……何度も撃退、ありがとう……でも……あれ、なんなのかなぁ……」
 杖をつきつつ、如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)は傘に近づいてその手を取った。
「なんか、変なゴム……もうこれで三度目……いや四度目……?」
「四度目で合ってるよ。日奈々といちゃついていると出てくるみたいだね」
 冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)は傘から日奈々を受け取って、背中から抱くようにして彼女を守る。
「傘ねえが撃退しても何度も湧いてくるし……これはいちゃついてなんかいるんじゃないって言う神のお告げなのかな?」
 そりゃぁない、と傘は手を振る。
「あいつら『リアジュウがなんたら』って言っとったじゃろう。単純にひがんどるだけじゃ。日奈々と千百合は気にせんでいい」
「もしかして……」
 おずおずと日奈々が見解を述べた。
「イチャイチャしてる人を、襲うのかなぁ……だったら……なんとかした方が、よさそうかも」
 これを聞くと千百合は腕をぐいと曲げ、力こぶのあたりを叩いて言った。
「そうかも! だったら逆に呼びだしてやっつけちゃおうよ。よーし、ひたすらいちゃいちゃしてやるぞ〜」
 ひたすらいちゃいちゃ、という表現に傘は苦笑しつつ請け負った。
「ならあたいは ひたすら殴り飛ばしちゃるよ、任せとき」
 かくて三人、牧場そばの芝にピクニックシートをひろげ、仲睦まじくランチをとることにしたのである。(傘は遠慮してやや距離を取っている)
「そういうわけで……おおっぴらにイチャイチャしよう……」
「OK、手加減しないよー」
 言うなり千百合は日奈々ににじりより、膝と膝をくっつけて抱きつく。
「日奈々、可愛い〜。なでなでしちゃう」
 彼女を胸に抱きしめ、やさしく頭を撫でるのだ。日奈々も応じる。
「好き、大好き……愛してる」
 どちらからということもなく、二人は熱い口づけをかわした。触れあった唇はそのままに、日奈々が手を伸ばし千百合の後ろ髪に指を絡めその感触を楽しむと、千百合も負けじと日奈々の胸に手を這わせた。二人の鼓動が高まる。体温が上がる。唇を一旦離すも短い間だ。すぐに今度はもっと熱っぽく深いキスへと移っている。舌が舌を愛撫する音が聞こえてきた。二人はそのまま、折り重なってシートに身を沈めたのである。
「あー熱い熱い……にしても、いっつもいっつもいちゃいちゃしおってよう飽きんもんじゃな」
 なんだか気恥ずかしくなり傘は目を逸らそうとして、
「リアジュウバクハツッ!」
 空から舞い降りてくる桃ゴムを発見、蹴り飛ばす。
「シネー!」
 それ一体にとどまらない。またひとつ攻めてきたので殴り倒して、
「リアジュゥウウウ!」
 さらに一体に回転蹴りを見舞った。
 ぽんぽこぽんぽこ、いくらでも桃ゴムは湧いてくるではないか。阿修羅の如く戦って、戦って、戦い抜きながら、
(「……某落ち物ゲーみたく四つまとめたら消えるとかないじゃろか」)
 ふとそんなことを思う傘であった。

 冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)の鋭い一撃が、最後の白ゴムにとどめを刺した。
「ご無事で? 随分いましたわね」
 小夜子が手をさしのべる相手は桐生円だ。円と同じく黒服が基本の小夜子は、白ゴムの大量襲来に巻き込まれ、混戦を強いられていたのである。
「参った参った。どうもこの連中黒服が好きみたいで……じゃ、お互い気をつけようね」
 ひらひらと手を振って円は去る。彼女はとりあえず、カフェテリアでも行って休憩するつもりだ。
 一方で小夜子は円と別れると、知り合いの卜部 泪(うらべ・るい)を探した。途中の経過は省略する。何度か白ゴムと戦いを強いられながらも、小夜子は本部棟で泪と会うことができたのだった。
「卜部先生! 訪ねて参りました」
「あら小夜子さん、見学会は楽しんでます?」
「見学会どころじゃありませんわ。あの怪ゴムは一体……」
 泪は厳しい目をすると、小夜子の手を引いて空き教室に滑り込みドアをきつく閉めた
「このあたりには桃色のゴムくらいしか出没していませんが……大変なことになっていますか?」
「騒ぎにはなっております。せめて、本部棟だけでもなんとかいたしませんと……」
 とまで述べると小夜子は柱にもたれかかるようにして、悩ましげな視線を泪に向けた。
「先生、誘き出してみませんか、桃ゴム……? ……ほら、他の生徒の人を使って誘き寄せるとあれですし……その点、先生なら理解してくれるでしょう?」
 首筋の後れ毛をかきあげ、胸元のジッパーを軽く引き下げた。黒いツナギの間から、雪白の肌が顔を覗かせる。きょとんとまばたきする泪を見つめたまま、さらにジッパーを下げて彼女は告げた。
「どうせならお相手は女の人のほうがいいですしね。私、女の人しか愛せないんです……というよりも」
 次の瞬間、小夜子は泪の腰に手をやり、その背を、手近な机の上に押し倒していた。
「卜部先生。貴方の事はテレビで見てから一目ぼれしてたんです……好きです、先生」
 覆い被さったまま頬を上気させ、ブルートルマリンのような泪の瞳を見つめる。無理強いはしない。押しのけられたら謝罪して立ち去るつもりだった。けれど小夜子にも勝算がないわけではなかった。それは泪の目に――。
「いいわ」
 ――泪の目に、自分と同じ情熱の光が灯るのを見た気がしたから。
 泪は両手で小夜子の頬を支え、首を伸ばして唇を与えた。
 小夜子が期待していたのはここまで、憧れの泪との甘いキス、それだけで満足だった。
 ところが、
「!」
 予想外の展開に小夜子は動転し言葉を失ってしまった。キスが終わり、熱っぽい視線を交わしあったかと思いきや、泪は両腕で小夜子を抱き、ぐるりと転がって今度は逆に、彼女を組み敷く格好になったのだ。泪は囁く。
「私、男性も好きだけど女もいけるクチなの」
 え?
「特に、可愛い女の子は、大好き」
 ええっ?
 童顔なのにやけに妖艶な表情で、泪はちろりと桃色の舌を出し、つーっと小夜子の首筋に這わせた。
「美味しい……もう、私、火が付いちゃいました」
 そして泪の指は、小夜子の胸のジッパーを一気に最下部まで引き下ろしたのである。
 ここから先は、筆者も精緻な描写をためらう。従って結果だけ記そう。冬山小夜子はこの日、生まれてはじめての経験を連続して味わい、骨抜きのめろめろにされてしまった。
 一通り行ってようやく、
「リアジュウシネ……」
 なんだかやけに遠慮がちな声をあげ、ぺたりと桃色ゴムが二人のすぐそばに(目測を誤って)落ちた。
「えっと……あの……えーい!」
 脱がされた服を掻き抱きながら、小夜子はよろめきつつも素足でこれを蹴り飛ばした。