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【カナン再生記】擾乱のトリーズン(第2回/全3回)

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【カナン再生記】擾乱のトリーズン(第2回/全3回)

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第17章 奇襲! 神官軍ワイバーン隊

 時を少し巻き戻して、夕刻、神聖都の砦付近。
 西日に照らされる中、別動隊の面々は鏨の提案した登山道を使って山を回り込む作戦を決行していた。
「あーあ。絶対対空機関砲があった方が楽なのに」
 フラン・ロレーヌ(ふらん・ろれーぬ)はまだ納得がいかない様子で独り言をつぶやく。
 彼女は砦攻略法として、組立式対空機関砲による砲撃によるワイバーン撃墜を提案していたのだ。しかしそれはイルでの戦略会議以前の段階、セテカに提出する仮案の段階でゴットリープたちによって却下されていた。
 いわく。
「そんなでかぶつ、どうやって気づかれないようにセッティングするんだ?」
 それはソリを使って、移動させて――と反論を試みたフランだったが。
「ソリは平地でないと意味ないわ。それに1基じゃどうしようもないし」
「じゃあ1基じゃなくて複数用意すればいいでしょ。それに組立て式だから、ソリの使用は設置してからだし」
 フランの修正にも、麻衣は同意を示さなかった。
「組立て式といってもその重量はバッグに入れて持ち運べるとかじゃないわ。ワイバーンを撃ち落とすほどの機関砲なら特に」
「決行日が決まってるから、移動に時間かけてらんないしね。
 それに、今からシャンバラに手配したって間に合わないわよ。東カナンで手に入る対空兵器っていったらせいぜいカタパルトだし、それだって複数組立てるのに1日じゃ無理だし」
 カタパルトはゆうに3メートルを超える、目立つ代物だ。扱い慣れていない自分たちで、空を自在に飛びまわるワイバーンを狙って落とせるとも思えない。
「今回は隠密だ。砦を落として俺たちと入れ替わったことをだれにも気づかれちゃいけねぇんだ」
「砲撃なんかしたら、音でアシラトの人たちに異変に気づかれるでしょう」
 指揮官のゴットリープが結論を出す。
 そのほか、口を開かなかった者たちの中にも賛同者が1人もいなかったこともあって、フランは引き下がるしかなかった。
「まぁよいではないか。相手が気づかぬうち、突入して一気に内部を制圧するというのもなかなかドラマスティックだ」
 隣を歩くアンリ・ド・ロレーヌ(あんり・どろれーぬ)が、しっかり独り言を聞きつけていた。
 活躍する自分の姿が早くも頭の中で展開されているらしい。悦に入った表情で目をキラキラさせている。どうせまたいつものように
「苦しゅうない、我のこの姿を写メに収めるがよい! 許してつかわそう」
 とかなんとか言っているのだろう。カナン人は携帯を持ってないから写メなんて言ったって分からないのに。
「あーあ。いい案だと思ったんだけどな」
 残念。
 ため息をこぼした、次の瞬間。
 突然風向きが変わり、横風が向かい風になった。
 ザアァ……と不吉な風が吹き、フランの帽子を飛ばす。
 真上を通りすぎるいくつもの影は、流れる雲にあらず。彼らを威嚇するような低空飛行のあと、上空に展開したのは11頭のワイバーン。そしてそれを操るは、完全武装した神官兵だった。
「ククッ……こりゃあまたバカ真正直におびき出されてくれたもんだぜ」
 神官兵の後ろから、ひょいと飛び降りて別動隊の前方をふさぐ男。それは、ジャジラッド・ボゴルだった。
 アガデの都でアバドンにすげなく追い払われた彼だったが、そんなことでへこたれはしなかった。奇襲を成功させ、反乱軍の作戦をつぶすという功績をたてれば、いかにあの高慢な女でもジャジラッドを無視することはできないだろう。彼を有能と見直すに違いない、そう考えたジャジラッドは鬼籍沢 鏨と組み、神聖都の砦が襲撃されるという情報を仕入れ、彼に地図を渡してここにおびき寄せてもらったのだった。
 自身はもちろん、その間にドラゴンライダーたちを味方につけた。首尾は上々だ。彼の話をうさんくさがっていたドラゴンライダーたちも、ジャジラッドの言う敵の存在が事実であったことを知って、彼に対する信頼度を増しただろう。
「おまえらの動きは最初っからお見通しだったんだよ。さあ、降伏するか抵抗するか選べ。オレとしちゃ、抵抗してくれた方が――」
 そこでジャジラッドは、ようやく彼らの雰囲気が想像と違っていることに気づいた。
 ジャジラッドたちの登場に驚き、あせっている様子が全くない。
 隠密作戦が失敗したというのに、この余裕は何だ?
「誘い出されたのはおまえの方だよ、この間抜け」
 ゴットリープやハインリヒの後ろから、ケーニッヒが荷物を肩に担ぎ上げて現れた。
 ぐるぐる巻きにされた絨毯か布に見えるそれを、ジャジラッドの足元に転がす。それは、気絶した鏨だった。
「組むならもう少し機転の利く相手と組むことですね」
 神聖都の砦はネルガルが征服王を名乗ってからできた物。完成して1年も経っていない。しかもここは軍事拠点だ。市販の地図に記されるはずもなく、その位置が正確に書き込まれた地図はセテカも用意ができなかった。念のため、あのあと確認をとったが、返答は彼らの推測を裏付けただけだった。
 東カナンに流通してもいない地図を、なぜ鏨が持っていたのか?
「分かっていて、なぜおまえたち…」
「この道を通ったかって? ここが戦うにはちょうどいいからさ!」
 山を迂回するルートのため、山の斜面に隠れて完全に神聖都の砦からは見えない位置だった。ここなら多少派手に暴れても気づかれることはない。
「ここでおまえらを倒してしまえばあとが楽だしな」
「う……くそ…」
 まさかこうなるとは……ジャジラッドがひるむのを見て、チャンスとばかりにゴットリープが視線で合図を送る。合図を受けて、フランが最古の銃を上空に向けて撃った。
 パン、パン、パン。
「鳴ったわ!」
「聞こえておる」
 だがレナ・ブランド(れな・ぶらんど)、幻舟が小型飛空艇を飛ばすより先に、光る箒のルイーザ、ワイルドペガサスの六鶯 鼎(ろくおう・かなめ)が斜面の死角から躍り出た。
「ごめんなさいね」
 ルイーザの放った天のいかづちを受け、落ちていくワイバーン。想定外の頭上からの敵出現に神官兵たちが驚いているうちに、鼎はプルガトリー・オープナーでワイバーンを狙い打つ。陽が落ち、視界はクリアとは言い難かったが、シャープシューター、スナイプのスキル発動により、弾は地上の味方に落ちることなく正確にワイバーンの翼にヒットした。
「はい、一丁上がり」
 一歩遅れて参戦したレナと幻舟も、彼らに負けじと真下のワイバーンに向け、バニッシュや轟雷閃を放つ。
「ばかな…!」
 振り仰ぎ、撃墜されていくワイバーンに驚愕するジャジラッドの隙をついて、麻衣や亜衣がオートバリア、パワーブレスと次々と発動させていった。
 ギャザリングヘクスで魔力を増大させたクリストバル ヴァリア(くりすとばる・う゛ぁりあ)もまた、地上近くにいるワイバーンに向けてファイアストームやサンダーブラストを叩き込む。
 ワイバーンごと地上へ落下した神官兵たちは、立ち上がることはできたものの、衝撃から立ち直れずまだふらついていた。
「今です!」
 ゴットリープの号令を受け、全員がいっせいにジャジラッドと神官兵に向かっていく。
 ワイバーンを欠いたドラゴンライダーが11名では多勢に無勢だ。
 囲まれ、あわてふためく神官兵は統率を欠き、ジャジラッドが少々激を飛ばしたところでどうしようもない。ジャジラッドを守るため、ザルクも善戦したがサイコキネシスのみではどうにもならず。彼らはあっという間に取り押さえられてしまった。
「愚かじゃのう。おぬしらは欲をかきすぎたのじゃ。順番を間違えねばわれらに勝ちはなかった。おぬしらはまず、ネルガルに襲撃を知らせるべきだったのじゃ」
 しかしジャジラッドはさらに欲を深めた。自らの手で別動隊を叩きつぶし、その功績によってアバドンを見返し、既に彼らの側についているほかの裏切り者たちよりもさらに高い地位を手にいれようとした。
「…………くそ…」
 幻舟の言葉に打ちのめされ、ジャジラッドはがっくりうなだれた。
「それで、この人たち、どうしよっか? 襲撃の邪魔だし。ここに置いてく?」
 フレデリカの薬で気絶しっぱなしの鏨とジャジラッド、ザルク、それに11名の神官兵。連れ歩くにはちょっと数が多すぎじゃない? と真理が訊く。
「そうしたいけど、そうするわけにもいかないでしょうね」
「はわ……逃げられちゃう、なの」
「高島さん、キャンプ地まで彼らをお願いできますか?」
 と、ゴットリープ。
「神官兵はともかく、こちらの2人は今後のためにも確実にシャンバラへ送還しなければいけません。無線で山葉校長と連絡をとってください」
 ジャジラッドは波羅実だが鏨は蒼学所属だ。処分を決めるのは山葉だと判断したようだ。
「分かった」
 真理が応じたことで、さっそくパートナーの源 明日葉(みなもと・あすは)南蛮胴具足 秋津洲(なんばんどうぐそく・あきつしま)敷島 桜(しきしま・さくら)の3人が、手分けして12人の男たちを移動させやすいようにロープでつないだ。
「こいつは我が運んでいってやろう」
 女性ばかりでは気絶した男を運ぶのは手にあまるだろうと、ケーニッヒが再び鏨を肩に担ぎ上げる。
 来た道を戻って行く5人を見送って、ゴットリープは言った。
「では僕たちはあらためて砦攻略へ向かいましょう」