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リアクション
第21章 強襲! 神聖都の砦(2)
「うう……くそ…」
東カナン神聖都の砦副指揮官のソムリはぎりぎりと奥歯を噛み締めた。
神官兵は、いまや2階フロアに追い詰められていた。
1階へと通じる左右の階段はすべて反乱軍兵士で占められ、上へ通じる階段の前にも剣を構えた兵士がいる。
先手先手を取られ続け、気づけば神官兵はあと30人にも満たない少数まで減っていた。
――いや。思えば最初から少なかった。各階で戦っていた兵士たち、あれは砦の全兵だったか?
『なんだか妙に眠いんです…』
夕刻、そうつぶやいていた見張りの兵がいたのを思い出した。
『今日は体がだるくて』
『風邪でもひいたかなぁ』
そう、愚痴っていた兵も。
ヤーソンが「たるんでいるだけだ。愚痴をこぼしたやつは、明日俺がじきじきに鍛えてやる」と吐き捨てたため、彼をおそれてだれも口にしなくなっていたが…。
――ああ! あのときから始まっていたのだ。なぜそうと見抜けなかったのか!
「にしてもヤーソンめ……こんなときにやつはどこで何をしているんだ…!」
野卑で粗暴な男ではあったが、あれで実力はあったのだ。敵を前に、逃げ出す男とも思えないが…。
彼の疑問に図らずも答えてくれたのは敵方の男――ハインリヒだった。
「さあ、残るはおまえさんたちだけだぜ。おとなしく降伏すれば命までは取らない。だがあくまで逆らうっていうならこっちも容赦しねぇ。さっさとどっちか決めな」
「ううむ…」
ずい、と一歩前に出たハインリヒに気圧され、ソムリは一歩退く。
「……おい。ワイバーンは飛んだか?」
背後の兵にだけ聞こえる声でささやく。
しかし返された答えは、ソムリの最後の希望を打ち砕いた。
「だれも……飛び立った姿を見ておりません…!」
ソムリは心臓を貫かれたような激しい痛みを感じて目をつぶった。
もうこの砦は終わりだ。ネルガル様よりお預かりした大事な砦が、よもやこのようになろうとは。
きっと許してはいただけまい。
だが。
北カナンに、なんとしてもこのことを知らせなければならない。
アバドン様は本当にすぐ近くまで来ているのか? あれもまた、こいつらの手のひとつではなかったか? 11名のドラゴンライダーとワイバーンは帰らない。おそらくは、もう――
しかしソムリとしては、もはやそれに賭けるしか打つ手がなかった。
どうせ北カナンに戻れたとしても、処罰される身。何を恐れることがあろうか。
閉じていた目が開く。
そこに冴えた決意を見たハインリヒが、警戒を感じた瞬間。
「うおおおおおおおおーーーーっ!!!」
怒声とも雄叫ともつかぬ声を発し、ソムリはハインリヒに体当たりを仕掛けた。
「行け! そして散れ!! 1人でもいい、アバドン様にこのことをお伝えするのだ!!」
「……おおーっ!!」
神官兵はいっせいに飛び出し、階段へ突っ込んでいった。
最前列の者が捨て身の盾として反乱軍の構えた剣に貫かれる。即死した仲間の神官兵を強引に押し、反乱兵を将棋倒しにすることで神官兵たちは階下まで一気になだれ落ちた。
「――ちくしょう。みんな止めろ! 1人も逃がすんじゃない!!」
ソムリの首の骨を折り、自分の上からどかせたハインリヒが柵に駆け寄る。階段は転がったまま起き上がれずにいる反乱軍で埋まっていて使えないと見るや、彼はそこから飛び降りた。
「くそッ、とんだ失態だぜ!」
正門、裏門めがけて散っていく神官兵たち。なかには外壁に通じる階段を目指す者もいる。外壁の上に出て、そこから鉤付きのロープか何かで脱出をという算段なのだろう。
「させません」
彼らを狙い、窓からゴットリープがセフィロトボウを放つ。スナイプを用いて放たれた矢は、絶対的に光源の不足する中、正確に兵を射抜いていく。
先頭を走る兵が、あと少しで正門にたどりつけると……あそこから出れさえすれば、闇にまぎれて逃げられるに違いないとの希望を持った刹那。
ローザマリアの無光剣が、無情にもそれを断ち切った。
1人、2人と斬り伏せたところで、神官兵たちが彼女の存在に気づく。
「ここからは一歩たりとも生きては出られないと知りなさい」
後ろではエシクがその身を蝕む妄執で幻覚を見せ、混乱させることで兵の戦意を喪失させている。
「あ、あ……ああ……!!」
ヤーソン、ソムリと上官を失い、仲間のほとんどを失った神官兵たちは、その場にがっくりと両手両膝をついた。
心が折れた兵は、もう立ち上がることもできない。
神聖都の砦は、陥落した。
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