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第23章 決行! バァル捕獲作戦(2)
ダハーカが檻を突き破ったと知った直後、ダハーカの元へ急いだバァルだったが、しかし立ち塞がった速騎兵左将軍カデシュ以下数名の副将軍たちにより諌められ、今はもうダハーカを抑えることは断念していた。
それよりも軍全体を建て直すべきだというカデシュの言葉こそ正しかった。
バァルも不調でなければそれと気づいたはずだ。
「一度、アナト東端まで退きましょう」
「殿軍はわれら重騎馬隊が務めます。バァル様は本隊を率いてください」
「ダハーカは反乱軍どもに任せて、われらは傍観するべきです」
将軍たちが口々に進言する。
もとよりそのために連れて来られたモンスターだった。
だがあれは人にとって諸刃の剣。人の手にはあまる存在だ。
(あるいはこれも、アバドンの策だったのか…)
反乱軍もろともに正規軍の力を削る――なにしろ西や南と違い、東は全兵力が残っていた。
人の心は変わるもの。現在服従していることなど関係ない。昨日の味方が今日は敵にならないと、どうして言える?
ネルガルやアバドンがそんなものに安心して胡坐を組んでいるはずがなかったのだ。
(どこまでもやつらの手の内というわけか…)
『――本当に残念だこと。あなたがもう少し……』
「ダハーカと反乱軍の奇襲を受け、兵はすっかり浮き足立っています。このままではわが軍も壊滅してしまいます!」
カデシュの言葉に、バァルははっと意識を浮上させた。
「バァル様?」
怪訝な顔をして、覗き込もうとするヴァンダル。
奇襲に動揺していた将たちも、ようやくバァルの具合がおかしいことに気づき始めたらしい。
「……分かった。ではそのように――」
兵をまとめろ、との言葉にかぶさって。
後方で、またも爆発が起きた。
「ここで持ち直されても困るからな」
悪いが、もう少し混乱したままでいてもらおう。
少し離れた位置で仕掛けた爆弾の効果を確認しながら、クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)がつぶやいた。
音や光の割に破壊自体はチャチなもので、集められていた馬の柵の一部を壊したにすぎない。
ダハーカにおびえ、アンデッドの気配におびえていた馬たちは、柵が破壊された瞬間荒野に向かって飛び出していく。
背後では、ざわめき立つ兵の気配。
「さあ次だ」
クレアはさらに黒煙吹き上げる煙玉を柵近くに投げ、兵の動揺をあおる策を用いてから、次の囲いへと向かう。
この騒ぎで兵や将たちの注意をいくらかでもこちらに引きつけるのだ。
バァル捕獲作戦のために。
(バァル……ネルガルにとって東カナンが捨て駒でしかないなら、それを拾い上げるのは誰の仕事だ?)
よく考えてくれ。
そして気づけ。
足下に続くそれは、東カナンの滅びにしかつながらない道だということを。
「一体何事だ! 報告の兵はまだか!」
「大きい声を出すな、見苦しい」
いらいらと歯で爪を弾く速騎兵副将軍ジョシュアに、カデシュの叱責が飛んだ。
そしてこそこそと、相手にだけ聞こえる声でささやく。
「あまり大きな声をたてるな。バァル様のお体にさわる」
「あ……申し訳ありません…」
そっとバァルの様子を伺う。
兵たちの前、毅然として立ってはいるが、少し青ざめた肌を冷や汗が伝っている。
なぜ今まで気がつけなかったのか……己の失態が悔やまれてならなかった。
「やはりセテカ殿の不在がこたえているのでしょうか」
「――全てを自らの中にしまい込もうとする御方だからな。ネルガル殿の訪問も相当なストレスだったのだろう」
それと察し、負担を軽減するのが側近の役目だろうに。あの愚か者が、肝心のときにバァル様のおそばを離れるとは…!
「ええい、ひと言言ってやらねば気がすまん!」
カデシュはマントを翻し、バァルに近寄ると一礼した。
「バァル様、これよりわたくしもサージに合流して、討伐隊に加わりたいと思います」
直後、カチャカチャと甲冑のかみ合う音がして、こちらへ近づいてくる兵の存在に気づいた。
青紫のラインの入った甲冑――ハンとセドウだ。
討伐隊にも姿を見せなかったと思えば、今ごろになってようやくご到着というわけだ。
「――それでは」
内心の苛立ちを押し隠し、カデシュは一歩退いた。
「しっかりと己の務めを果たせよ」
すれ違いざま、ハンにちくりと刺しておくのを忘れない。
ハン――孝明は無言で見送り、彼の姿が天幕の向こうに消えたのを確認して、バァルの陣営を見回した。
ダハーカ討伐隊に、撤退の準備に、後方での爆発の調査にと、将たちのほとんどが出払っていた。
(あれは……切くん???)
将たちの手前、遠慮して目立たないよう隅で座っている切を見つけて、孝明が兜の中で目をむく。
(ええええーーっ? どうして?? なんでここに???)
「どうした? ハン。バァル様に一礼せぬか」
「……あ、はい。遅れて申し訳ありません、バァル様」
孝明はバァルの前に進み出、頭を下げた。
「何事だ。いつも一番に参じるおまえがこれほど遅れるとは、何かあったのだろう」
やはりバァルでなく、バァルの後ろについていた重騎兵右将軍セイトが訊く。
「実は……メニエスの姿がわが陣より消えました」
一気に陣営がざわめいた。
「なんだと! それでエンディムは!?」
バァルが一歩詰め寄る。
「エンディムは反乱軍と交戦しております」
「だがあの女はいないというのだな?」
「たしかにエンディムといたはずなのですが、いつの間にやら姿を消してしまい…。兵を手分けて捜させておりますが、行方は今もまだつかめておりません」
瞬間、バァルの脳裏で強い光がはじけた。
『――本当に残念だこと。あなたがもう少し臆病であったなら、失わずにすんだでしょうに』
(狙いはセテカだったのか!!)
アバドンは自分を信頼しろと言ったが、毒蛇を信頼する人間がいるわけがない。
てっきり戦いのどさくさにまぎれて自分を暗殺させようと送り込んだとばかり思い込んでいた。
「……すべてお見通し、か…」
ぎゅっと目をつぶり、自責の念にとらわれた。
何もかも、自分の失態だ。
しかしだからといってセテカを死なせるわけにはいかない。
「バァル様? どちらへ――」
「命令だ! おまえたちはついて来るな! そこにいろ!」
一喝し、バァルはハンの腕をとって大股に歩き出した。
「どこだ! 案内しろ!」
「――はい」
孝明は、椿扮するセドウにだけ分かるよう、そっと手で合図をした。その場にとどまって、彼らをヒプノシスで眠らせるのだ。
「待ってバァルさん。ワイも行く」
切が立ち上がり、後ろについた。
(バレてるかなぁ……バレてるっぽいなぁ…)
なにやら腹を立て、そちらに気をとられているバァルはともかく、切は完璧疑っているようだ。
だが言いつける様子はなさそうなので、ほうっておくことにした。いざというとき、いくらなんでも彼も邪魔はしないだろう。……多分。
孝明はバァルを連れ出すことに成功した。
押し寄せるアンデッドの壁を切り崩し、エンディムへと迫る反乱軍兵士とコントラクターたち。
「どこだ…」
セテカあるいはメニエスの姿を求めて目を凝らしたバァルは、やがて少し後方で、仲間とともに戦っているセテカの姿を見つけた。
そちらへ向かうべく、走り出そうとしたとき。
突然反乱軍の一角――セテカのすぐ近くで、騒ぎが起きた。
味方に思われた者がいきなりすぐ近くで戦っていた仲間を撃ったのだ。
「――くそっ!」
(また裏切り者か! ネルガルめ、一体どれほどの手駒を潜り込ませているのか…!)
セテカを守るため、そちらへ駆け寄ろうとしたバァルだったが、しかしそれはかなわなかった。
「おっと、これ以上は進ませないぜ――って、うわっ!」
前方をふさぐように突然現れた者――ブラックコートをまとった棗 絃弥(なつめ・げんや)に、バァルは即座にバスタードソードで斬りつける。
あわてて絃弥もウルクの剣で受けたが、かなりやばかった。一瞬でも遅れていたら頭から真っ二つに切り裂かれているところだ。
「そこをどけ…!」
「……って、剣で押してるのあんたですけど…っ」
上から押されて、この状態でどくのってムリっ
「どけ!」
蹴り飛ばされ、絃弥は地面を転がった。
すぐさま跳ね起き、再びバァルの前に回り込もうとする。
「待てよ、バァル! 待てって」
この先で何が起きているか、絃弥も分かっていた。あの光景は彼にとっても衝撃的だった。
だが同時に彼は、セテカの周囲にいる仲間たちの力も信じていた。だから自分はあくまで任務を遂行しようとしたわけだが。
「……なんでおまえなんだよッ」
「いくら絃弥でも、バァルさんに手出しさせるわけにいかないからねぇ」
切の光条兵器黒鞘・我刃が絃弥の剣をやすやすと弾き飛ばす。
切にとって、これはチャンスだった。自分の覚悟をバァルに見せるのだ。
だから罠と分かって、ついてきた。
「おまえ、自分が何してるか、ほんとーに分かってんだろーなっ」
距離をとり、念のためにと確認をとる絃弥にも、切は不敵に笑うのみだ。
「ワイはバァルさんの味方や。どんなときもな!」
「……くそっ」
2人は2度3度と剣を合わせた。
ギイィィンと小さな振動音がして、我刃がさらに光度を増す。
光条兵器を相手にこの剣では不利と、絃弥は剣先をすり流すことに徹し、極力押し合いは避けた。
「おまえ、全然姿見なかったけど、どこまで知ってんだよ」
「必要なことは全部」
「弟さんがネルガルに人質にとられてることも?」
「もちろん」
「じゃあ俺たちがバァルを何のために捕らえようとしてるかは?」
「それは、知らないねぇ」
話と剣先の受け流しに気をとられている絃弥の隙を狙って、切の強烈な回し蹴りが入る。
すかさずハイパーガントレットを装着した腕で防御したが、勢いに押され、横滑りした。
「でもバァルさんは望んでないみたいだからねぇ」
切の視界の中で、やはり罪と呪い纏う鎧 フォリス(つみとのろいまとうよろい・ふぉりす)とバァルは戦っていた。
屈するつもりはさらさらないらしい。
「バァル殿、なぜそのように頑迷になられる? 私たちコントラクターの力は、もうお目にされたであろう。私たちであればきっとバァル殿のお力になれると、信じてもらえないのか?」
「世迷言を言うな! わが軍の混乱に乗じて攻撃をしかけてきたのはおまえたちの方だろう!」
「私たちの目的は正規軍にあらず、ダハーカ討伐にあり! ゆえにあれは、正規軍を死地に向かわせんがための方策」
フォリスは龍殺しの槍で距離を保とうとした。目的は戦闘でなく、捕縛であり、説得だ。
中でもバァル自ら応じてくれることが望ましい。
が。
「この上わが軍を愚弄するのか!」
バァルは激高し、間合いに飛び込むや怒りのままに剣をふるった。
その動きをとらえられず、剣がフォリスの胴にまともに入る。龍鱗化していなければ、真っ二つに胴を割られていただろう。
そうならなかったことをいぶかしんで、バァルはすぐさま距離をとった。
「バァル殿、あなたが私たちを信用できぬと考えるのも無理はない。ならば、こう考えてはどうか? 私たちをあなたの目的のために利用すると。そうすれば、弟殿を救うこともできるだろう」
その言葉がバァルの心に生んだ痛みを、フォリスは気づけなかった。
剣で心臓を貫かれたに等しい痛み。
心の傷が目に見えるものならば、決して、これ以上の傷を負わせようとフォリスも思いはしなかっただろう。
フォリスはバァルが無言で立つことに、自分の言葉がようやく届いたのだと思い、さらに言いつのった。
「お気づきではないかもしれないが、西も南もカナン解放のため、動き出している。水面下ではそれぞれの人質奪還計画も進行中だ。この手が見えないか? みんながあなたを救いたいと、手を差し出しているのだ。あなたが手を取ってくれさえすれば、私たちは――」
「……おまえたち、東西シャンバラ人というのは、本当に度しがたい…」
感情というものが一切排除された、低いつぶやき。
何と答えたか、聞き取ろうと思わず身を乗り出したフォリスの胸部に、次の瞬間バァルの攻撃が続けざまに入った。
一撃できかなければ、数撃打ち込めばいいのだ。
正確に同じ場所――心臓の真上に攻撃を受け、フォリスは胸を裂かれて吹き飛ばされた。
「間違うな! ネルガルにエリヤを差し出したのはわたしだ! そのわたしがそんなことを望むはずがないだろう!!」
厳しく断じるバァルの前に、次の瞬間ルカルカが神速で走り込んだ。
孝明が誘い出している間にドラゴンアーツを用いて作った穴に身を隠し、じっと機会を待っていたのだ。
剣を持つ手を封じて伸び上がり、近距離からヒプノシスを放つ。
「……何が…」
突如襲った強烈なめまいに、バァルは1歩2歩と後退した。膝をつき、顔に手をあてる。
「無礼をごめんなさい。お叱りは、あとでいくらも――ダリル」
空飛ぶ魔法↑↑で闇に紛れていたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)を呼ぶ。
「問答無用だな」
「仕方ないわ、かたくななんだもの。連れ帰ってからじっくり時間をかけて説得すればいいわ」
ダリルは物質化でワイルドペガサスを出現させようとして、おやと気づいた。
「効いてないようだぞ、ルカ」
「ええっ?」
驚くルカルカの前、バァルはゆっくりと立ち上がった。
「うそっ!?」
あんなすぐそばでヒプノシスを受けたのに、昏倒しないなんて!
そのとき、前へ出ようとしたバァルの足がよろけた。
全く効いていないわけではない。むしろ、精神力のみで抵抗しているがもう時間の問題という状態だ。
「捕まえて、縛っちゃいましょ」
「ロープは持ってきてなかったな…」
「えーっ? うそっ」
「そう言うルカは持っているのか?」
ぱたぱた。服を上からはたいて、装備していないことに気がついた。
「がーん…」
だってだって、ダリルが用意してると思うじゃない? 運ぶのは彼なんだから。
こうなれば仕方ない。
くるり、切と戦っている絃弥を振り返った。
「絃弥、あなたロープ持ってきて――あら?」
そこにいたのはたしかに絃弥だった。
ただし、地面に突っ伏してぴくりとも動かない。巨大なたんこぶが頭にぷっくり…。
「――やばっ!」
切の姿がないことに、大急ぎ目を戻したルカルカだったが。
遅かった。
「あーーーーっ!!」
切がバァルに肩を貸し、走り去ろうとしている。
「行かせないんだから!」
ターーーーーーン……
後を追おうとしたルカルカの足元に、ビシッと音を立てて銃弾が撃ち込まれた。
アルバトロスの上から、リゼットがスナイパーライフルで狙っている。
「リゼット! ナイスフォロー!」
「バァルさん、これが銃の力なんですよ。便利でしょう? お求めの際は、ぜひ【ゲレヒティヒカイト】に」
切に運ばれるバァルににっこり営業用スマイルを向け、しっかりアピールしたあと。
リゼットは再びスナイパーライフルを構えた。
「……切……もういい、下ろせ…」
もうほとんど走れなくなっているバァルを抱き起こし、天幕と天幕の間を縫うように走り抜けていた切は、耳元でささやかれたバァルの言葉に従って足を止めた。
きょろきょろ周囲を見回し、これと思う物影に入る。
積まれた木箱にバァルを預け、切れた息を整えた。
「わたしはもう動けない……おまえは逃げろ…」
「そんな! バァルさんを置いてなんて…!」
アルバトロスがあれば一気にここから離れられるのだが、残念ながらリゼットが使用済みだった。大方危なくなったらあれで逃走するつもりなのだろう。
それに、バァル自身、兵たちを置いて自分1人逃げる人ではない。
「ここで待っててくれ。今すぐ将軍たちを呼んでくるから」
素早く息を整え、物影から出て行こうとする切を、バァルの手が止めた。
「バァルさん?」
「切……今から話すことは……おまえだけの、胸に秘めてくれ…」
バァルはヒプノシスと戦いながら、途切れ途切れに切に話して聞かせた。
「――そんな…。
じゃ、じゃあこれって何!? 今もみんな、命がけで戦ってるってーのに!」
「こうなるはずでは……なかった…。
道化だな……アバドンには、通用しなかったようだ…」
切は絶句した。
ばかばかしい戦い。
ばかばかしくて、なさけなくて、そして……そして…!
「切……あきれたか…」
熱くこみ上がってきた思いに胸をふさがれ、切は懸命に首を振った。
バァルも、セテカも、足を踏み外せば即死の崖っぷちに立つ思いで東カナンを救うために動いている。
そんな思いで出た策を、どうして笑うことができるだろう?
アバドンさえいなければ、これだって成功していたに違いないのだ。
「それでも……わたしが捕まったら……助けにきて、くれるか…?」
「も……もちろん! ワイはバァルさんの味方だ!」
絶対、どこまでも!
ぎゅっと手を握り締める。
彼が眠りにつくのを見届けて、切はそっとその場を離れた。
「あ、いた!」
積み重なった木箱の影から伸びた足を、ルカルカが見つけた。
警戒しつつ回り込んだが、切の気配はどこにもない。
「罠……というわけでもなさそうね」
一応たしかめてみたが、バァルは完全に意識を失っていた。
(熱い……熱がある)
「どうした?」
ルカの声を聞いて、ダリルが駆け寄ってくる。
「ううん。なんでもない。ただ、バァルさん具合が悪いみたい」
「では早く連れ帰って治療してもらおう」
今度こそワイルドペガサスを物質化したダリルはその背にバァルをうつぶせにして乗せる。
「ルカ、落とさないようにきみも――ルカ?」
ルカルカは、どこか沈んだ表情でバァルを見つめていた。
そっと、眠る今も寄ったままの眉間のしわに触れて、伸ばそうとする。
「あれ、どういう意味かしら。救出してほしくない、って」
「――考えてみれば、西も南も抵抗の末に奪われている。東は最初から差し出した。取り返したいと考えるくらいなら最初から差し出したりはしない、ということかな」
つまりは、信じてもらえてないということだ。
彼はネルガルの力の方こそ信じ、恐れている、ということになる。
「当然だな。彼は俺たちのことを何も知らない。女神の力を手に入れ、砂を降らせたりモンスターを操ったりするネルガルに勝てるはずがないと思い込んでいる。
ザムグで必ずしもそうでないと知れば、彼の頑固な思い込みも溶けるだろう」
「……そうね。じゃあダリル、あなたも気をつけて」
どこにアバドンやネルガルの手の者が潜んでいるか、知れたものでない。
ルカとバァルを乗せたワイルドペガサスは最大速でこの場を離れ、いったん別方向に全速で飛んだ後、ザムグに戻ることになっていた。ダリルは念のため、光学モザイクと空飛ぶ魔法↑↑を用いて別方向に向かうことになっている。
「ではいくぞ」
バァルを連れていることを知られないよう、ダリルがまずカタクリズムで砂塵を巻き起こし、視界を奪う。
その中をワイルドペガサスは一気に高空へと駆け上がった。
(あれは、本当にそういう意味だったのかしら…?)
落ちないようバァルの体を押さえながら、ルカルカは、ジリジリと胸を焦がす嫌な予兆を感じずにはいられなかった。
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