リアクション
● 「はい、と、いうわけで――」 「これより実況は二人体制でお送りしていきます。メイン実況者は私プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)、そして……」 「はい、エセ解説者にしてサブ的実況者、天真 ヒロユキです」 プラチナムに促されて、いつの間にかビシっと伊達眼鏡をかけていたヒロユキが自己紹介した。 「えーと……シニィさんは?」 「『これから巷で有名なダイエット本を買いにいくんじゃ』と言っておりました」 「なるほど、フリーダムですね」 「というわけで、解説なんてやったことがないですが、不肖、この天真 ヒロユキ、頑張らせていただきます」 真面目に受け答えをしながらもどこか大会の空気と噛み合っていないことを口にしながら、二人は試合を目前にして進行する。 「なんと今回、ちゃんと救護スタッフがついております」 そう言ってヒロユキが紹介したのは、横で待機する二人の少女たち――エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)と紫月 睡蓮(しづき・すいれん)だった。 「救護スタッフというより、応援も兼ねておるのだがな」 「兄さんが怪我したら、治療してあげるんです」 達観したように呟くエクスとニコニコと笑う睡蓮たち。プラチナムはうんうんと頷いた。 「……マスターはこんなにも応援してくれる仲間がいて幸せですね」 「ああ、それは同感だな。が、それよりも……だ」 瞬間――目の前で雷術の電撃が激しく奔った。 「既に試合ははじまっとるぞ」 「おおっとぉ! 唯斗選手、一気に電撃を奔らせる攻撃に打って出たぁ!」 エクスに指摘されて、慌ててヒロユキが叫んだ。 そう――すでに、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)とリーズ・クオルヴェルとの闘いは始まっていた。 「リーズ、俺は……お前に負けるわけにはいかないんだ!」 「それはこっちだって同じ台詞よ!」 「いや……違う」 忍者のように素早く、リーズの目の前へと迫った唯斗の刀、そしてリーズの長剣が重なって激しい金属音を鳴り響かせた。二人の顔が、ぐっと近づく。 「俺の思ってるものと、お前の思ってるものはまるで違う! だからこそ……お前に勝って、そして認めてもらうんだ!」 「認めて……もらう……?」 リーズは唯斗のいう言葉の意味を図りかねたが、いまはそれに気をとられている場合ではない。すぐに二人は再び距離をとってぶつかり合った。陰行の術をもってして消え去った彼の姿。こちらの死角をとるのが上手い唯斗のことだ――リーズは気配を察知して、横合いから迫った刀を防いだ。 二人の均衡する攻防戦を見ながら、エクスが身を乗り出すように口にした。 「ぬぬぬ……リーズもなかなかやるな」 「で、でもいいんですか、エクス姉さん?」 「んぬ?」 「こ、このまま唯斗兄さんが勝っちゃったら、兄さん、リーズさんに……」 睡蓮は、どこか哀しげな瞳をしたまま声を詰まらせる。それはきっと、目の前のこの、誰かを好きだと素直に思える少女に向けた瞳だったのだろう。 エクスは、そんな睡蓮ににやりとしか顔をしてみせた。 「なに、この前とても良い話を聞いた。なんでも、一夫多妻制というモノがあるらしいではないか」 「一夫多妻制ですか……あ、あるにはあるんでしょうけど」 「それで万事解決するというものだ。ちゃんと唯斗には嫁にもらってもらわねばな」 ふっふっふと不敵に笑うエクスに、睡蓮は苦笑した。 いやはや、それで良いのですかエクス姉さん? (でも……) 多分だが、きっとそこにあるのはエクスの優しさな気がした。いまはまだ、闘う二人のことを応援しよう……そんな、彼女の優しさ。 睡蓮が改めて試合に目をやったとき、すでに勝負は終わりを迎えようとしていた。 「……はぁっ!」 「きゃぁっ……!」 リーズの剣を避けて懐にもぐりこんだ唯斗は、彼女の腹にひじを叩き込んだ。衝撃で長剣を手離してしまうリーズ。もはや、彼女の勝機は薄かった。 気づけば――リーズをそのまま押し倒すような形になっている唯斗。二人の顔は、互いの息がかかるほどに近かった。 「ちょ……」 羞恥に赤く染まるリーズが慌てて唯斗から逃れようとしたが、それを彼は拒んだ。 今だ。今しかない。これが、きっと神様の与えてくれたチャンスってやつだ……! がっちと、唯斗の両手がリーズの肩をつかむ。 「リーズ、俺はお前が好きみたいだ」 「え……」 「あの夜……あの、ナイトパーティの夜、お前の笑顔を見て解ったよ」 ナイトパーティ――獣人の集落で行われた、夜のパーティで、二人は再会していた。初めて出会った魔獣との戦いから、今日が三度目の再会。 「俺は……お前と一緒に生きていきたい」 友達だと思っていた。 信頼ある友であり、尊敬できる友人。きっと、これからもどこかで再会して、そのときには、楽しい冒険の話を聞かせてくれるんだろうと、そう思っていた。 そんな、友からの告白。 「え……ええ……えと……」 パニック状態だ。 まるで自分の髪のように頬を赤く染めたリーズは、わちゃわちゃと手を振ってわけの分からない言葉を連発していた。もはや、何を言ってるのかさっぱりである。 「で、でも……ゆち……にににんは、え、エクス……さ……」 じっと、黙ってリーズの目を覗き込んでくる唯斗。 なんだろう、なんだろう、なんだろう……とにかく――! 「ふやあああああぁぁ!」 「げぶぁっ!!」 ――羞恥のあまり、リーズの拳は渾身の勢いでアッパーを繰り出した。 顎からぶっ飛ばされた唯斗は、そのままひゅるるる……どかん! と地に舞い落ちた。 「……な、なんで……」 「だ、だって……そんな…………そんな突然言われても……わからないもん!!」 「だからって……アッパー……ぐふっ」 ばたりとつぶれた唯斗。 これは……どう見ても……。 『えーと、リーズ選手……の勝ち……でいいの、かな?』 もはや勝ち負けなどどうでもよくて。 とにかく混乱する頭をどうにかしたいと、リーズは赤い顔をぶんぶんと振って闘技場を後にした。 「なんだかなぁ、だな」 少しだけどこか嬉しい顔で、エクスはそう呟いた。 ● |
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