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リアクション
取り憑く者達 1
葦原城の夜。
佐野 和輝(さの・かずき)はパートナー達とともにひたすら駆けていた。竜胆救出と、奈落人憑依事件解決の協力要請を受けて、現場地区を目指していたのである。
「ああもう、私は読書以外の運動はしたくないと言っているであろう!」
禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ) (以下、リオン)が和輝の後を追いながら、ぶつぶつ言っている。
「文句を言っている場合じゃないだろう。さあ!」
そう言って和輝はリオンに手を差し伸べた。
「だぁー! 脇に抱えるな!」
リオンは和輝に抱えられながら叫ぶ。その後ろをアニス・パラス(あにす・ぱらす)やれやれと言う顔をしながら追いかけていた。
その時。
突然、アニスは目の前が真っ暗になるのを感じた。胸が張り裂けちゃいそうな悲しい気持ちが入ってくる……。そして、誰かの声が頭の中に響き渡ってくる。
「置いてかないで」、「一人にしないで」、「これからどうすれば……」
凄く悲しい思いがアニスの胸の中に広がっていく。
アニスは、心の中でその言葉に頷いていた。
……分かるよ。
大好きな人が、二度と会えない場所に行っちゃう怖さや寂しさ。アニスも分かるよ。
答えたとたん、アニスは意識が遠のくのを感じた。
「置いてかないで」
いきなりアニスが叫んだ。その声に和輝が驚いて振り向く。
「どうしたんだ? アニス?」
「一人にしないで」
「はあ?」
「一人にしないで!」
首を傾げる和輝に向かって、アニスが泣き叫びながら襲いかかって来る。
「一人にしないで!」
「ちょ……アニス!」
驚きながらも、とっさに避ける和輝。しかし、間髪いれずにアニスは次なる攻撃を仕掛けてきた。
「置いていかないで」
「何言ってるんだよ。置いていったりなんか……」
「お願い! 戦争になんか、いかないで! 私たち、将来を誓い合ったじゃない。一人にされたら、私、これからどうすればいいの?」
「戦争? 将来を誓い合った?」
言っている事がおかしい上に、いつものアニスと口調が違う。それで、和輝はすぐに気がついた。
「これは……例の奈落人の憑依事件か……!」
「そうであろうな」
和輝に抱えられてリオンがうなずく。
「しかし、まさか、アニスが当事者になるとは……」
アニスは泣きながらよろよろと和輝に近づいて来た。そして、両手を和輝の首にあてて言った。
「あなたに先に死なれるぐらいなら、いっそ、今、ここで殺して、私も……」
そして、じわじわと手に力を込めてくる。
「な……!」
すごい力だ。本気で絞め殺そうとしている。和輝はリオンを地面に下ろすと、【侵食型:陽炎蟲】で腕の筋力を上げた。和輝の腕に仄かに光る赤い幾何学模様が浮かび上がってくる。和輝は、その腕でアニスの手を首から離すと、あばれるアニスの体を無理矢理取り押さえた。しかし、取り押さえたのはいいが……。
「リオン。これから、どうすればいいんだ?」
和輝はリオンに尋ねた。アニスは、和輝の腕から逃れようともがいている。
「【侵食型:陽炎蟲】の効果は、そんなに長くは持たない」
「そうだな。さすがに可愛い弟子であるアニスの危機では私も動かざる得ないが……」
リオンはアニスに近寄ると、その瞳をじっと視つめて、うなずいた。
「これなら本を開くまでもない。いい方法がある」
「いい方法?」
「こういう時は、キスの一つでもしてやれば解決するのだよ」
その言葉に、和輝がうろたえる。
「キスしろっていうのか!?」
「他に解決方法はないぞ」
「だからって、出来るわけないだろう!! そもそも、相手の意識がないのにそんな事が出来るわ……いやいや、あったとしても相手はアニスだぞ、妹のように思っている家族なんだぞ!?」
「よいではないか、ほれほれ」
リオンがニヤニヤしながらせっつく。
「くっ……アニス、ごめん!!」
和輝はそう言うと、アニスの唇に……
「……」
……レモンの味が、した……
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