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リアクション
しかし、奉行所までのルートはどうしても中庭を突っ切らなくてはいけない。その中庭にはかがり火が辺りを煌々と照らしており、おまけに、あちこちに役人の姿が見える。
「僕が……なんとかする……」
テンサはそういうと、隠れ身の術でかがり火に近づき、火術を唱えた。炎が揺らぎ、火の勢いがどんどん小さくなる。
「何だ?」
役人達が叫んだ時には、炎が消え既に辺りは闇に閉ざされていた。テンサは闇にまぎれて逃げ出すと、奉行所を目指す仲間達と合流した。
「くせ者だ!、くせ者が現れたぞ」
松明を持った役人達がわらわらと飛び出して来る。
リアトリスは、闇の中を駆けていた。その耳が、闇の中近づいてくる足音を捕らえる。
「くせ者!」
闇の中に刃が閃きリアトリスに襲いかかってくる。リアトリスはフラメンコを踊りながら敵の攻撃を避け、ヴァジュラを手に即天去私で敵を攻撃。杖から光の刃が出て役人の体を切り裂く。
役人はうめき声を上げて、その場に倒れた。
中庭を突っ切ると、一同は奉行所内に忍び込んでいった。
奉行所内には、誰もおらずしんと静まり返っている。
「これなら、案外簡単に特別牢にたどり着けるかもね」
水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)は小さな声で櫛名田 姫神(くしなだ・ひめ)に話しかけた。
「そうですね」
姫神は頷く。
「はやく、竜胆さんを助けて色々とお話をしたいですわ。特に、恋バナ」
「あ、私も私も!」
はしゃぐ二人に向かって、天津 麻羅(あまつ・まら)が言った。
「二人とも油断大敵じゃぞ」
ちなみに、麻羅の姿は隠形の術を使っているために見えない。
「大丈夫よ」
と、緋雨が見えない麻羅に向かって話しかけた。
「誰もいないじゃない」
ところが……、
「見つけたぞ、くせ者!」
その時、声とともに、岡っ引きや、役人達が庭から駆け込んで来た。中庭から一同を追いかけて来た者たちである。
「ああ! 見つかっちゃったようです……!」
姫神が言う。
「みたいね。ちょっと面倒かな」
緋雨は冷静にうなずくと、役人達に向かってヒプノシスを唱えた。役人達は安らかな顔ですやすやと眠りだす。
「さあ、この隙に」
と、二人が歩きはじめた時、
「おい! こっちだ!」
声とともに、またもや庭から役人達が突入してくる。さらに背後からも……
「見つけたぞ。逃すな」
役人達が追いかけて来た。
「きりがないです!」
叫ぶ姫神。
「大丈夫、まかせて」
緋雨はそういうと、床にローションを撒いた。床がつるつる滑り、役人達は次々に転倒していく。
「さあ、逃げましょう」
緋雨はローションを撒きながら、廊下をどんどん走り続けて行った。
やがて、最後の部屋を抜け、土間から外に出る。そこには、特別牢が建っているはずだった。
だがしかし、そこに、建物らしきものは何もない。殺風景にまっ四角なスペースが空いているだけだ。そのまっ四角な空間の突き当りには異様に高い壁が立ちはだかっていて、行く先を塞いでいた。さらによく目をこらすと、壁には小さな鉄の扉がついている。
「つまり、この扉の向こうが特別牢ってことか……」
ハヤテは頷くと、扉に手をかけ開けようとした。しかし、触れようとしたとたんに、指先に火花が散る。
「うわちっ! なんだこの扉は?」
「電流が走っているようでございますね」
皐月が言う。
「電流? ちっハイカラな罠を仕掛けやがって。これじゃ、近寄る事もできない。塀は高くて頑丈だし、登るにも無理がある」
「わたくしにおまかせ下さいませ」
皐月はそう言うと、鬼神力を展開した。ハヤテの目の前で、その体が普段の2倍ほどの大きさになる。
「す……すげえ……」
ハヤテは圧倒されているようだ。
「大きくなるだけじゃございませんのよ」
皐月は言うと、カルスノウトを構え、
「このこのくされ●●●の××××が早く死にやがれ!」
と、放送禁止用語にあたる言葉を叫びながら、【ソニックブレード】を展開。音速を超えた一撃を振り下ろし、壁をを真っ二つに割ってしまう。
ズ……ウゥゥゥゥ……ン
地響きとともに壁が倒れ、向こう側の空間が露になる。
そこには、こじんまりとした建物があった。どうやらあれが特別牢のようだ。
「よし、早速竜胆さんを助けに行こうぜ」
永谷が言う。
「けど、みんな、絶対に捕虜にならないように。敵が人質にすると宣言した場合、心優しい竜胆が敢えて残ると言い出しかねないからさ」
「そうだな」
セルマ・アリス(せるま・ありす)が頷いた。
「竜胆さんは自分のことで誰かに負担をかけるのに負い目があるみたいだからな」
こうして、特別牢に向かう一同。しかし、その目の前に思わぬ邪魔者が立ちはだかった。
「おおっと、皆サン。この先は、行カセマセンネ!」
そう言って現れたのは金髪碧眼の岡っ引き。
「なんだ? てめえは?」
尋ねるハヤテに向かって、岡っ引きは答えた。
「私の名前はゼニガタ・ケイジね。この特別牢の番人ヨ。この牢に入りたくば、私を倒してこの鍵を手に入れる事ね」
そういと、ゼニガタは腰につるした鍵をガチャガチャと鳴らした。
「へっ。そんなネタばらししちまっていいのかな?」
ハヤテの言葉にゼニガタは不敵に笑って答えた。
「私は簡単に倒されないデス。なぜなら、私には、100人のシモベがいるからでーす! 皆サン、いらっしゃーい!」
ゼニガタの号令とともに、囚人服を着た男達がわらわらと現れた。その数100人……かどうかは定かではないが、よくこんな狭い敷地に、これだけ集めたもんだというぐらいたくさんいる。
ゼニガタは男達に向かって叫んだ。
「皆さん! あの癖者達を捕マエテ下さーい! 捕まえた方には、スペシャルプレゼントとして、罪一等を減じ、釈放する事を約束しマース!」
どうやらゼニガタは、無罪を餌に囚人達を操っているようだ。囚人達がこちらに向かって襲いかかって来た。
「ふーん。牢屋の鍵を持っているのは牢番のゼニガタ・ケイジか〜……」
水心子 緋雨はつぶやいた。
「昔の時代劇の銭形平次のパチもんかしらね?(あは)まぁ銭投げを得意としてるから、多分、お金に困ってそうよね。今こそ、あの秘策を用いるときが来たわ!」
そういうと、緋雨は鞄の中から菓子の箱詰めを取り出しゼニガタに近づいて行った。
「親分さん、親分さん♪」
「うん? なんですか? レイディ?」
「このお菓子、受け取ってくれませんか?」
「OH! ワタシ和菓子大好きデース! ありがとう」
ゼニガタは、大喜びで箱を受け取ると、ふたを開けて首をかしげた。そこには、小判が詰め込まれている。
「What? なんですか? この小判は? 小判型チョーコレートですか?」
「何をおっしゃるんです。分かっているくせに。それは、山吹色のお菓子です。親分さんは、銭投げを得意としてるから多分、お金に困っていらっしゃると思って用意したのです」
「ふむ、こういう展開では山吹色のお菓子は基本じゃよな……。まぁそれだけで本当に解決するとは思わんが」
隠形の術で姿を隠しながら、天津麻羅がうなずく。一方、小判を用意した櫛名田姫神は、心の中でつぶやいていた。
「まったく。緋雨さんたら…お金はタダではないのですよ? そういうノリはお約束という事なので用意しますが。ですが、相手の油断を誘う為に本物のお金を見せるだけですから、本当に賄賂は贈らないでしょう」
二人の思いを知ってかしらずか、緋雨はゼニガタにすり寄っていった。
「このお菓子を差し上げる代わりに、親分さんの持っている鍵をいただけませんか?」
「ファーック!」
ゼニガタは箱ごと小判を放り投げた。
「私は正義の味方でーす! こんな、小判なんかでは断じて動かされませーん!」
どうやら、ゼニガタはちょっとズレてはいるが、正義のために働く気持ちは本物のようだ。一瞬、怯む緋雨。ところが……
「小判?」
「小判だ!」
ゼニガタの背後にいた囚人達の間に動揺が広がる。
そして、
「俺に、よこせー!」
「小判を奪えー」
囚人達が目の色を変えて小判に群がっていった。その側にいる緋雨も巻き込まれそうになる。
「危ない!」
麻羅はとっさにしびれ粉を撒いた。囚人達の体がしびれ、次々とその場に倒れていく。
しかし、それでも懲りずに襲ってくる者達がいた。恐ろしい金への執着心だ。仕方なく麻羅は【警告】を発した。
「皆の者、よう聞け。わしの名は天津麻羅。地球上のとある国の神話に語り継がれる、神であるぞ」
どこからともなく聞こえてくる声に、一瞬囚人達の動きが止まった。だがしかし。
「か……神だと? ふざけるな」
と、すぐにまた金の争奪戦を始める。
そこに、畳み掛けるように麻羅は言った。
「金に目がくらみ、その者達に危害を加えるならば、わしが黙ってはおらんぞ! 神罰を喰らいたくなければ引き下がれ!」
その声を恐れた囚人達の中には、真っ青な顔で一斉にその場から逃げはじめる者も居た。おかげで狭い敷地内は騒然となる。
その混乱の中、セルマは【光学迷彩】で姿を隠して特別牢へと向かっていた。囚人達にもみくちゃにされながらセルマは思っていた。
「竜胆さんが打ち首なんて冗談じゃない。こんなの、どう考えても陰謀だろうから、絶対に助け出す」
やがて、セルマは特別牢のある建物の中へとたどり着いた。そこは、外から見たよりは広く、二つのスペースに分かれていた。一つは張番が詰めているのであろうスペースで、土間をはさんで向かい側に、竜胆の閉じ込められている牢がある。格子の向こう側にうなだれて座っている竜胆の姿が見えた。
アリスは、【光学迷彩】を解除すると柵越しに竜胆に話しかけた。
「竜胆さん、竜胆さん」
すると、竜胆が驚いてこちらを見る。
「あなたは……」
「お久しぶりです。俺です。セルマです。ハヤテさん達とともに竜胆さんを助けました」
「ああ。だから、あんなに表が騒がしいのですね」
「そうです。俺の仲間のリンが、きっと鍵を手に入れてくれるはずですから、少し待って下さい」
「ありがとうございます。けれど、こんな事をしてもらっていいのでしょうか? 牢破りは重罪だというのに……」
「そんな風に、負い目を感じないで下さい」
セルマは言う。
「少なくとも俺は今回の事、竜胆さんのせいで巻き込まれたとか思ってないですから。竜胆さんを助けたくてやっただけ。素直にその好意を受け取ってください」
「……ありがとうございます」
竜胆は深々と頭を下げた。
「皆さんに、なんとお礼を申していいのか……」
その目から涙がこぼれている。
その頃、表では相変わらず混乱が続いていた。
「者ども、落ちつくデース! くせ者どもと戦うデース」
しかし、既に囚人達は耳を貸そうともせず、次々とその場から逃げ出していく。
その混乱の中、一人リンゼイ・アリス(りんぜい・ありす)は冷静に考えていた。
「すごい事になっていますね。とりあえず、私はあの勘違いさん(ゼニガタ・ケイジ)を何とかしましょうか。私たちの目的は竜胆さんの救出であって、戦うことそのものではありませんから。鍵を持っているらしい彼を倒せば済む話ですね」
リンゼイはゼニガタに狙いを定めると、【スクラマサクス】を構えて飛びかかっていった。
【スクラマサクス】の刃がゼニガタの頬をかすめる。
「Ouch!」
ゼニガタは、リンゼイの攻撃をとっさに十手で受けると、頬を抑えて悲鳴を上げた。そして、リンゼイに目をやった。
「Hey! ガール! 私と戦うつもりデスか?」
リンゼイは、笑顔で答えた。
「イエス。さあ、かかって来て下さい」
「とんだ、じゃじゃ馬レイディでーす!」
ゼニガタは、そう叫ぶと銭を出して、次々とリンゼイに投げかけて来た。リンゼイは【スクラマサクス】をふるい、飛んで来た銭を次々とたたき落としていく。
「ナカナカやるね。次は私の投げ縄を味わうといいデス」
ゼニガタは言うと、懐から投げ縄を出し、頭の上でまわしはじめた。そして、
「チェイストー!」
リンゼイに向かって投げてくる。
バシ!
リンゼイは飛んで来たロープに向かって刀を振り下ろした。ロープが切れて輪っかの部分が地面に落ちる。
「Oh! My God!」
ゼニガタは切れたロープを見て十字を切る。
「私の大事なロープが切れてしまいましたー!」
そして、おいおいと泣き出した。
その隙を狙い、リンゼイは【ヒプノシス】をかけた。すると、
「どうしたでしょう? ワタシ眠いでーす」
といって、ゼニガタはそのまま安らかに眠ってしまった。
「うまく眠っていただけたみたいですね」
リンゼイは幸せそうに眠るゼニガタに近づいて言った。それから、【20メートルのロープ】を取り出すと、ゼニガタの体をぐるぐる巻きにした。そして、最後に身体検査をして、鍵を手に取ると、眠っているゼニガタを見下ろして言った。
「武士道では仁の心があります。敗者にも慈しみを。過ぎたる仁は甘さでしかありませんが、この位が丁度いいのでしょうか」
こうして、鍵を手に入れたリンゼイはセルマ達の待つ建物内部へと入って行った。
リンゼイから受け取った鍵でハヤテが牢を開けると、さっそくカレンデュラが竜胆に近づいて抱き上げた。
「さあ、リュンリュン! 逃げよう!」
「きゃ!」
いきなりお姫様だっこをされてパニクる竜胆。二人に向かってセルマが言った。
「さあ、行きましょう。俺が、皆さんを光学迷彩で隠して奉行所の外まで連れて行きますよ」
こうして、竜胆を連れて牢から出ようとした一同だったが、その時、
「HAHAHAHAHAHA。甘いデース」
声とともにゼニガタが入り口に立ちふさがった。驚いた事に、もう、目を覚ましたらしい。しかも、その後ろには、異様な風体の3人の女を従えていた。
「このまま、逃げられると思いましたか? 答えはNOデース。」
ゼニガタはそう言うと、手にした縄をブンブンと回しはじめた。
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