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リアクション
真相究明 1
その頃、その女房の姿を探して、葦原城下を走って行く二人の姿があった。エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)と片倉 蒼(かたくら・そう)だ。
与吉の女房なら、町外れのお稲荷さんで見た人がいたよ。と、長屋の女将が教えてくれた。
こんな時間に一人でお稲荷さんなんて、おかしな話だと思いつつ町外れに向かっていく。
二人は、与吉の女房に会って事件の真相を確かめようと思っていた。二人とも竜胆の無実を信じていたから冤罪の証明をしようと考えていたのだ。
ところが、与吉の店に女房の姿はなかった。聞く所によると、数日前から行方が分からなくなっているそうだ。二人は、女房の知り合いを当たるだけ当たり、やっとお稲荷さんで見かけたという証言をつかんだ。本来なら、こんな夜ふけに行く所でもないが、いかんせん、竜胆の処刑の日は迫っている。二人は、はやる気持ちを抑えかねてお稲荷さんに向かっていった。
町外れのお稲荷さんでは、なるほど与吉の女房らしき女がいる。女は寂れた本殿の中をしきりにのぞいて何かを話しているようだ。
「あの方でしょうか?」
蒼が首をかしげると、エメは言った。
「分かリません。とりあえず、名前を呼んでみましょう」
そして、エメは女に呼びかけた。
「お栄さん!」
お栄とは、与吉の女房の名前だ。その名に女が反応する。
「あたしに、なにか用かい?」
振り返って答えた。やはり、あれが与吉の女房らしい。エメは物腰柔らかく頭を下げて挨拶した。
「はじめまして。私はエメ・シェンノートと言います。このたびは、大変なご不幸に見舞われた事、深くお悔やみ申し上げます」
「同情なんかいらないね。それより、何の用だい。こんな時間に、こんなところまで追いかけて来て」
「はい。実は、どうしても一つお聞きしたい事があるのです。お栄さんはある娘に小太刀を見せられたとたんに記憶を失ったというお話ですが、それは本当の事なのですか?」
「あたしを疑うってのかい」
「お気にさわったのならすいません。しかし、あの竜胆という娘さんは、私もよく知っている人なのですが、どう考えても奈落人を操るような悪い人ではないのです。小太刀を渡した娘とは、本当はこんな娘じゃありませんでしたか?」
とういうと、エメは髪を黒く染めて姫姿になった蒼をお栄に見せた。
すると、一瞬お栄は迷ったような顔をした。
「迷っておられるようですね。安心して下さい。それが普通なのです。人の記憶とは曖昧なものなのです。もしかするとお栄さんは、大変な事があったから記憶が混乱しているのかもしれません。つまり、お栄さんが竜胆さんを見たというのは必ずしも正しい記憶とは言いきれないのです。同じような髪型の、似たような誰かと間違えたという可能性もあるわけです」
「……」
「お分かりでしょうか? 必ずしも竜胆さんがあなたに小太刀を渡したわけじゃないと言う事……」
「ふん」
お栄は鼻の先で笑った。
「こんなとこまで、何をしに追いかけて来たかと思えば、そんなたわごとを言いに来たのかい?」
「たわごと?」
「あたしは見間違えたりしないさ。小太刀を渡したのは竜胆。あいつも、もうすぐ首だけになるって言うじゃないか。これも『あの方』をさしおいて日下部家をのっとろうなんて考えた報いさ」
「『あの方』? 『さしおいて』? 何を言ってるんですか?」
エメはいぶかしげにお栄を見る。そして、しばらく考えた後言った。
「……君はお栄さんでありませんね」
すると、お栄は思わせぶりに答えた。
「ふふふ。どう思う?」
「大方、刹那とやらに操られた奈落人でしょう? 本物のお栄さんを返しなさい! 返さなければ……」
エメはウルクの刀を構えた。
「ふん。そう来たか? いいだろう」
お栄の姿をした女は笑う。
「確かに、私はお栄などという女ではない……しかし、奈落人でもない」
「奈落人でもない? じゃあ、なんなのです?」
「慌てるな。今教えてやろう」
お栄の声がだんだんしゃがれてくる。そして、服が裂け、体がどんどん膨れ上がっていった。そして、額から角がはえ……
「我が名は、脱鬼。刹那の配下の鬼だ」
最後には全身赤味を帯びた鬼へと変貌した。
「鬼……でしたか。これは、意表をつかれましたが、これで事件の全貌が見えて来ました。つまり、君が刹那とやらに言いつけられて、竜胆さんに罪を着せるべく偽の証言をしたわけだ」
「その通りさ」
鬼は答えると、拳を振り上げ二人に向かって猛然と襲いかかって来た。
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