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リアクション
★ ★ ★
「ごめんねー、せっかくのペアの肝試しだって言うのに、男の子同士になっちゃって。悪いけど、これもくじ運のなさだと思って、よろしくつきあってあげてよ。ごめん」
霧丘 陽(きりおか・よう)くんが、那由他 行人(なゆた・ゆきと)くんに耳打ちしました。結構鈍感です。
「ええっと、気にしなくていいぜ、なーんも問題ないから」
とりあえず、那由他行人くんはそう言うのが精一杯でした。これ以上霧丘陽くんを混乱させると、こちらまで頭がこんぐらがりそうです。
「なんか、よろしくって頼まれちまったぞ」
フィリス・ボネット(ふぃりす・ぼねっと)さんの所に戻った那由他行人くんが、そう言いました。
「まったく、陽の奴は、心配性だぜ」
なんだか、ちょっと強気にフィリス・ボネットさんが言いました。見るからに、おっとこまえ、というわけでもないのですが、見た目と言動からしっかりと霧丘陽くんからは男と認識されています。まあ、たいていの人も同じなので、慣れてはいます。
「とりあえず、最後のイベントだ、楽しもうぜ」
そう言うと、那由他行人くんがフィリス・ボネットさんの手を引こうとしました。
「だ、大丈夫、だぜ。一人で行けるぜ」
「はあ?」
なんだか、フィリス・ボネットさん、もの凄くよけいに力が入っています。
「来た、来た」
待ってましたと、秋月葵さんが釣り竿の先につけたコンニャクを、ヒュンと飛ばしました。
べちょり。
みごとに、フィリス・ボネットさんの顔に命中します。
「うわあ★※ぎゃ&#が!!」
何やら、意味不明の叫び声をあげて、フィリス・ボネットさんが走りだしました。
「ちょ、おい!」
あわてて那由他行人くんが追いかけます。
「その調子だよ。頑張ってよねー」
秋月葵さんが、楽しそうにそれを見送りました。
「来ましたねー。あなたに決めました〜。おかくごを♪。行きますよー」
次に待ち構えていたのは神代 明日香(かみしろ・あすか)さんです。こちらも、定番のコンニャク攻撃です。臭いなどで事前に察知されないように、ちゃんと煮たりして臭みを取るなど念が入っています。
投げつけられたコンニャクが、ヒュンと飛んでくるとサイコキネシスでコントロールされて、フィリス・ボネットさんの首筋にペチャリとひっつきました。
「ひゃう!」
フィリス・ボネットさんが飛びあがったのを確認して、コンニャクだとばれないようにさっと引き上げようとします。
「落ちろよ!!」
ぺちゃ。
「あらまあ。奈落の鉄鎖ですねえ。落ちてしまいましたぁ。困ったですぅ〜。この貸しは高いですよ〜」
フィリス・ボネットさんにコンニャクを奪われて、神代明日香さんがちょっと頬をふくらませました。
「まったく、どこまで突っ走るつもりなんだよ」
やっと海岸で追いついた那由他行人くんが、フィリス・ボネットさんの手を掴んで言いました。これ以上暴走されては、追いかけるのが大変です。
「ふふふふふ、カップルや。バカップルが来よった! さあ、どつきまわしたる」
落ち武者人形に、血塗れた顔にした等身大マリオネットに、自分のドッペルゴーストたちを従えた瀬山 裕輝(せやま・ひろき)くんが、やる気満々で気合いを入れました。妬み隊としては、バカップルは見逃すわけにはいきません。
「ふはははは、はっ? バカップル? いや、あれではまだカップル度が足りないやん! だいたい、なんや、あのちゅーとハンパなくっつき方は。なんや邪魔くさいわあ。全然なてってないやん。ここは、もっとバカップルになってもらわないと、妬みがいがないやないかあ! 派手に、いくかあ?」
瀬山裕輝くんが、使い魔たちを一気に二人を取り囲む形で出現させました。
「うわわわ! で、でた!!」
「こ、こら、暴れるな!」
またパニックを起こされては大変と、那由他行人くんがフィリス・ボネットさんをだきしめて動きを止めました。
「大丈夫、大丈夫。怖くない、怖くない」
そのままじっとしているのを、使い魔たちが遠巻きに取り囲みます。ええっと、これは、本気で妬む状況を作り続けてやっているだけではないのでしょうか。
「けったいな奴やなあ。いつまで、そうしてるつもりや。夜が明けるでえ。さっさとしいや」
待っているのに我慢できなくなった瀬山裕輝くんが、姿を現して言いました。
「はよいかんと、次に来る奴に妬まれるでえ。お化けよりも、人の妬みの方が怖いんやで〜」
ドッペルゴーストとならんで凄みながら、瀬山裕輝くんが言いました。
「わりい、じゃあ、急ぐぜ」
お言葉に甘えて、那由他行人くんがフィリス・ボネットさんを連れて駆け出します。
「つまらんのう、こんなもんかあ。次に期待や」
なんか拍子抜けして、瀬山裕輝くんがつぶやきました。
一気に洞窟に突入した那由他行人くんがとフィリス・ボネットさんでしたが、そこで待ち構えていたのは曖浜瑠樹くんとマティエ・エニュールさんでした。
「カップルはー外! 独り者はー内!」
脳天から綿をはみ出させた恐ろしいタイムちゃん人形が、ギリギリキャンディを投げつけてきます。それと一緒に、水死体までべちゃべちゃと追いかけてくるのでした。
「うぎゃー!」
もうこれは、走らせて早く終わらせた方がいいと、那由他行人くんがフィリス・ボネットさんを走らせてすぐ後ろを追って行きます。
べちゃり。
「ささやかな贈り物よ」
洞窟の中にコンニャクを吊して罠を仕掛けていた霧島 春美(きりしま・はるみ)さんがほくそ笑みました。
「またコンニャク!?」
一瞬コンニャクに気を取られたフィリス・ボネットさんが、地面に敷いてあったスポンジに足を取られた転びます。
「危ない!」
とっさに飛び出した那由他行人くんがフィリス・ボネットさんをだきとめて一緒に倒れました。
「これはちょっと興味深いわね」
ちゃんと倒れる位置を計算してマットを敷いておいた霧島春美さんが、物陰からまじまじとカップルを観察しました。いつの間にか、すぐそばで曖浜瑠樹くんとマティエ・エニュールさんもジーッと那由他行人くんとフィリス・ボネットさんの様子に見入っています。
「な、なんだろう。ずっと誰かのお楽しみにされているような気が……。おっ、祠は目の前じゃないか。フィリス、さっさと貝殻をおいて戻ろうぜ」
「うん」
なんだかちっとも落ち着いて二人っきりになれないので、フィリス・ボネットさんは素直にうなずきました。
貝殻をおけば終了ですから、やっと一安心です。
「連れてって……」
「えっ、今、何か聞こえなかった?」
フィリス・ボネットさんが、那由他行人くんの腕を掴んで言いました。
「確かに、声がしたようだが……」
「連れてってくれえ……」
「ぎゃあ!!」
突然祠の後ろから現れた得体の知れない影に、フィリス・ボネットさんと那由他行人くんは一目散に逃げだしていきました。
「ああ、俺も一緒に連れてってくれよー」
ずっと取り残されていたドクター・ハデスくんは、淋しげに繰り返すのでした。