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リアクション
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「うーん、くじを引かされたはいいけど、一雫 悲哀(ひとしずく・ひあい)さんかあ。ごついドラゴニュートのお嬢さんだったらさすがにちょっとなあ。おっ、ちょっとエロ可愛い子がいるじゃないか。そこの、かーのーじょー、一緒に肝試ししませんかあ〜」
仁科耀助くんが、肩をむきだしにした和装の女の子を見つけて声をかけました。いつものナンパです。
「あっ、仁科さん、よろしくお願いします」
「えっ、なんでオレの名前知ってるの? キミは何ちゃん?」
なんで自分のことを知っているのか分からずに、仁科耀助くんがちょっと戸惑いながら女の子に訊ねました。
「あのー、覚えてませんか? 私、一雫悲哀です。以前、ハイナさんのお茶会で……」
一雫悲哀さんが、ハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)さんのお茶会でナンパされたことを説明しましたが、仁科耀助くんはまったく覚えていませんでした。毎回、のべつ幕なしにナンパしているので、いちいち個別には覚えていないのでしょう。
「ああ、あのときの……。き、今日もよろしくねー」
覚えていないのに、当然のようにごまかす仁科耀助くんです。
「んじゃ、行こうか」
当然のように一雫悲哀さんの手を取って歩き出しました。
「この前、誘ってもらって、嬉しかったんですよ」
「ははははは、オレもそうだよ」
忘れてます。
とはいえ、ナンパした以上、ちゃんと戦って守ります。コンニャクからは。
「さあ、お化けは退治した。少し寒いな、もっとこっちへおいで」
リース・エンデルフィアさんの冷たい風を受けて、仁科耀助くんが一雫悲哀さんをだき寄せました。
「リア充は切り刻む!」
相変わらず紙袋を被った葛城吹雪さんが現れました。
「へーい、そこの彼女ー。お茶でもどお?」
一雫悲哀さんをエスコートしているというのに、仁科耀助くん、ぶれません。スクール水着を来た女の子とあれば、紙袋を被っていようと、手に鉈を持っていようと、礼儀としてお茶に誘います。
「お茶菓子にしてくれるであります!」
分身した葛城吹雪さんが襲いかかってきました。
「きゃあ!」
思わずしがみついてくる一雫悲哀さんをかかえながら、仁科耀助くんも分身して対応しました。くるりと紙袋を回転させて、葛城吹雪さんの視界を塞ぎます。
「にょほほほほ……」
間髪入れず、今度は木の上からイングラハム・カニンガムさんが飛びかかってきました。仁科耀助くんに巻きついて締めあげます。
「く、苦しいであります……」
「なっ、空蝉の術!?」
いつの間にか葛城吹雪さんを締めあげていたイングラハム・カニンガムさんが、あわてて腕を放しました。葛城吹雪さんを身代わりにして、仁科耀助くんは一雫悲哀さんと共に逃げおおせています。
「なんで間違うでありますか!!」
葛城吹雪さんが、イングラハム・カニンガムさんを微塵切りにしました。
「きゃー」
「きゃー」
「きゃー」
ミニサイズに切り刻まれたイングラハム・カニンガムさんがバラバラに逃げて行きます。さすがはポータラカ人です。
「チョロいもんだぜ」
森の外れで、かかえていた一雫悲哀さんを下ろすと、仁科耀助くんが言いました。
「あっ……」
だっこされていたのに下に下ろされて、一雫悲哀さんはちょっと不満そうです。
『終わらない、宿題が終わらない!』
相変わらずアキラ・セイルーンくんのスペアボディが、ルシェイメア・フローズンさんと一緒に叫んでいます。全然怖くはない……。
「うわあ、早く行こうぜ!」
一雫悲哀さんは平気でしたが、仁科耀助くんには効果があったようです。あわてて逃げだしていきました。
「ほんと、仁科さんって、面白い人ですね」
「うんうん、そう思うだろう?」
ころころ表情の変わる仁科耀助くんを見て、一雫悲哀さんが楽しそうに笑いました。結構、楽しんでいるようです。
洞窟の中を何ごともなく進むと、無事祠に辿り着きました。
祠に貝殻を収めると、鬼龍貴仁くんが出てきました。
「へーい、そこのカップル、お茶でも飲んでいかないかーい」
「男の誘いは断固として断る! さあ、行きますよ!」
即答すると、鬼龍貴仁くんが脅かす前に、仁科耀助くんが一雫悲哀さんをかかえて風のように姿を消しました。