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リアクション
★ ★ ★
「これが、エリシアの要塞かあ。とはいえ、請求は俺の方に来ていたんだが」
ということは、実際の名義は自分のものなんじゃないかと御神楽 陽太(みかぐら・ようた)がちょっと渋い顔をした。
その顔に、思わず小型飛空艇エンシェントの後ろに乗っていた御神楽 環菜(みかぐら・かんな)がクスリと笑う。
「よく来てくださったのですわ。さあ、新しいわたくしの基地を御案内してさしあげますわよ」
小型虚空艇の発着所までで迎えに来たエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)が、嬉々として御神楽夫妻を出迎えた。よっぽど、この新しい要塞を自慢したいらしい。
「この間のシミュレーション大会でお披露目はいたしましたけれど、これが正真正銘の本物の機動要塞マエストーソですわよ」
エッヘンと、エリシア・ボックが説明する。ブリッジへとむかう途中も、この部屋は特別製の何々の部屋だと、見かけは普通の機動要塞でも、中身は凄いんだぞという感じでいちいち説明していく。
その様子があまりに楽しそうなので、御神楽夫妻の方も思わず笑みがこぼれてしまっていた。
「いらっしゃいませー。もう、すっかり歓迎パーティーの用意はできてるよー」
ビュッフェ形式で様々な料理を持った皿をテーブルの上に所狭しとならべて、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が御神楽 舞花(みかぐら・まいか)とともに御神楽夫妻を出迎えた。一所懸命、料理したらしい。
「この間の要塞戦では、わたしの出番はなかったんだよね……」
ノーン・クリスタリアが、ちょっと残念そうに言った。思いっきりイコンで活躍するつもりだったのに、出番が来る前に機動要塞が撃墜されてしまったのだ。
「それは、わたくしのせいではありませんわ。みーんな、相手が悪いのです。空気を読んで負けるべきだったのですわ」
勝った相手の方が悪いと、エリシア・ボックが決めつけた。
「ジェイダス杯のときは、活躍したじゃないですか」
あのときは凄かったと、御神楽舞花がノーン・クリスタリアを褒めた。エリシア・ボックと御神楽舞花は途中で敗退してしまったのだが、ノーン・クリスタリアは堂々二位で入選したのだ。
「当然だもん、だから、今度も活躍したかったのにぃ」
すっごく悔しそうに、ノーン・クリスタリアが言った。
わいわいとみんなで食事を始めながら、過去の競技大会について、あのときはこうだったの、あれがなければ優勝だっただの、楽しいおしゃべりを交わす。
「どうです、いっそ、みんなでレースをしてみませんこと?」
ノーン・クリスタリアが作ったデザートのかき氷を頬ばりながら、エリシア・ボックが切り出した。
「いや、いきなりそれは……」
さすがに面倒だなと、御神楽陽太が難色を示した。
「大丈夫、さすがにコースを借りるわけにもいきませんでしたから、シミュレーターでのレースですわ。ゲーム機のレースゲームみたいなものですよね」
そう言うと、エリシア・ボックが御神楽舞花に言って、人数分のゲームパッと背を持ってきてもらった。
「間にあってよかったです。昨日急いでプログラミングしたんですよ」
五人分のゲームパッドを配りながら、御神楽舞花が言った。
「それでは開始しますわよ。レディゴー!」
エリシア・ボックのかけ声と共にレースがスタートした。コースは、この間行われたユグドラシル内の障害レースをシミュレートしている。
開幕早々ターボを使用した御神楽舞花であったが、思いっきり不発に終わった。トップは、御神楽夫妻がならび、エリシア・ボックと御神楽舞花が次にならび、最後がノーン・クリスタリアという順位ではあったが、まだ思いっきり団子状態だ。
その団子状態を抜け出したのは御神楽舞花で、スタートの失敗を挽回してトップに躍り出た。御神楽陽太がやや遅れたのと入れ替わりに、エリシア・ボックが御神楽環菜とならんで二位に躍り出る。
「見ていなさい、大会準優勝の私の実力を。いっけー!!」
勝負に出たノーン・クリスタリアが一気にターボを使用してトップに躍り出ようとして……障害に真正面から突っ込んでいった。
「ほーっほほほほ、ノーンったら、口ほどにもないですわ」
エリシア・ボックが御神楽環菜と最大加速で共に御神楽舞花とならんだ。遥か後方に、ポツンと御神楽陽太だけが残される。
「ここが勝負所ですわ」
エリシア・ボックがターボで加速して一気にトップに躍り出ようとするが、着実な走りの御神楽環菜がそれを許さない。二人の走りに気圧されたか、御神楽舞花が三位に後退する。
「勝負はここだ、環菜!」
「ええ!」
ここに来て揃って勝負にでた御神楽夫妻がターボを使った。最下位から、一気に躍り出た御神楽陽太が、エリシア・ボックを抜いて、御神楽舞花とならんで二位となる。
「このわたくしが……。許しませんわ!」
焦ったエリシア・ボックが追い込みをかけるも、かろうじて御神楽舞花にわずかに先んじただけで、御神楽夫妻には届かない。
そのまま、コース半ばまでは膠着状態が続いた。
だが、半ばを過ぎたところで気が緩んだのか、御神楽陽太が思いっきり罠に突っ込んでリタイアしてしまう。
「あなた!」
それに気を取られたのか、ぶっちぎりでトップを独走していた御神楽環菜までもが、後方に気を取られて障害に突っ込んでしまった。
「さあ、これで一騎打ちですわ!」
結果的にトップとなったエリシア・ボックが、御神楽舞花に言った。
「負けません!」
僅差でトップのエリシア・ボックを追いかけていった御神楽舞花であったが、その差はだんだんと離れていく。
もはや、これでエリシア・ボックの一位と、御神楽舞花の二位が決定したかに思われたそのときであった。
「きゃあ!」
御神楽環菜が突っ込んだのと同じ障害に御神楽舞花が突っ込んでいった。
そのまま、エリシア・ボックがゴールして、単独優勝する。
「ほーほほほほ、当然の結果ですわ」
「納得いきませんです」
勝ち誇るエリシア・ボックに、ノーン・クリスタリアが食ってかかった。リアルでは、自分の方が上だったのだ、これはきっと何かの間違いに違いない。
「いいですわよ、何度でも挑戦は受けてたちますわよ」
勝者の余裕で、エリシア・ボックが言った。
「やれやれ、再戦かな」
今度は負けないぞと各自が思いつつ、五人は再スタートしていった。