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リアクション
終章2 切り札
コクビャクのベースキャンプは、結界解除と同時に警察・島の自警団の“連合軍”が踏み込んだ時にほぼ壊滅状態となり、不可抗力で天幕もバラック小屋もかなりがぼろぼろに蹂躙された。特に『丘』の北西部には、折れて倒れた大樹の上半分の幹が落ちてきたため、その跡は見るも無残といった感じだった。ここに潜んでいたコクビャクの兵は逃げる間もなく大樹の幹やそれに押しつぶされた小屋の瓦礫に埋まって、怪我を負って警察に保護された者も少なくなかった。
タァとキオネらが話し合いを持ったバラック小屋も、折れた木の枝の直撃を受け、壊れた。そこに、新たに小屋が組まれることになり、自警団の上層部から指示を受けた下っ端団員の守護天使たちによって作業が急ピッチで進められている。
『丘』から遠く離れることのできない卯雪を、そこに保護するための小屋である。
急ごしらえで取り敢えず外壁だけ設えられた小屋の中に、話を聞いた画太郎とネーブルが本部から借りた簡易ベッドを運び込んだ。
石化した卯雪は今、そこに寝かされている。
卯雪からタァを切り離すために石化したドレスには、もちろんそれを解除する用意はあったが、解除するかと訊かれてキオネは少し考え、首を横に振った。
「いつまたタァに憑依されないとも限らない……しばらくは、このままで」
長時間の石化によって肉体に悪影響が出ないかどうかが心配だが、それは自分が付き添って様子を見るから、とキオネは言った。
そしてその言葉通り、卯雪のベッドの傍らから離れようとはしなかった。
「確かに、魂が不安定に揺れている……
セッション準備用生体システムというのがどんなものかは分からないが、タァの話は恐らく本当だろう。このまま動かさない方がいい」
キオネを卯雪の傍らに一人残して、カーリアはまだ設営が半ばの小屋を出た。
キオネの心情を慮ってか、彼を一人にしておこうという気持ちが働くらしく、ベッドを運んできたネーブルと画太郎、綾瀬とドレス、さゆみとアデリーヌ、ヨルディアら契約者は、小屋の外で待っていた。
「……キオネはこれからどうするつもりなの? 何か言ってた?」
ヨルディアの問いにカーリアは、何も言っていなかった、と一旦は首を横に振った。
しかし、少しして、ぽつりとこう口にした。
「キオネは、卯雪からエズネルの欠片を取り出すことを考えていると思う」
「……技量的に無理だと言ってたと思ったけど……?」
「方法が一つだけ、ある」
カーリアは、問うようなヨルディアの、また他の契約者たちの視線を受け、それに後押しされるように続けて口を開いた。
「炎華氷玲の最後のひとり――『グラフィティ:B.B』の力を借りる」
「最後の一人とはいっても、グラフィティ:B.Bは私たち5人の中では一番最初に生まれた魔鎧なの」
「その前身は魔道書――しかも、この世の万物を破壊に導く言葉を記した禁断の書で、大昔に焚書に処されたというシロモノ」
「ヒエロは、その昔、魂を加工する際に自由に裁断するすべを極めるために、『この世ではない、失われた者たちの存在する異空間』から、この魔道書を召喚したって言ってたわ。
魔道書に記された究極の破壊法を身に着けることで、素材の魂に無駄な傷をつけることなく、最小限の『切断』で思いのままに分かち、細部にこだわった彼独自の魔鎧を作れるようになったのよ。
その書がなければあたしと千年瑠璃は生まれなかっただろうし、魂がぼろぼろになっていたエズネルを魔鎧として細工することも出来なかったはずよ」
「でも、そもそも焼失した書――この世では存在しないはずの書だから、パラミタ世界でのその存在はとても不安定なものだった。
そこでヒエロは、腕を上げてそれができるほどの実力を持った頃、彼を魔鎧化した。
それまで、いちいち労力を払って異世界から召喚していた彼を魔鎧にすることで、この世でも定着できる安定した存在とすることができた」
「彼には、その前身を反映する特殊な能力があった。
――それを装着する者の知力を高め、標的の「決定的急所」を知らしめる力よ。
これは、ヒエロが応用したように、何かからその一部を切り離す時に最小限の破壊でそれを確実に切断するすべを見出すことができるという側面がある。
つまり、キオネがグラフィティ:B.Bを装着して臨めば、ヒエロ並みの腕前でエズネルの欠片を卯雪から切り離すことができる――という可能性があるのよ」
「……けど、魔鎧になってからもどこか不安定なところがあったのよね。この世界ではイマイチ落ち着かない、というか。
だからたまに、ふわ〜っと元の異世界に帰ったりしちゃうらしいのよあいつ。
そういうわけで、あいつの居所を探すってのはもう、ヒエロを探すの以上に困難っていうか、超絶めんどくさいっていうか」
そこまで言って、カーリアは、はーっと長い溜息を吐き出した。
小屋の中。
ベッドに横たわる卯雪を、ベッドサイドからキオネはじっと、透徹した目で凝視していた。
――彼女の中のエズネルの欠片と、対面しようとしていた。
(エズネル、俺だ。どうか、怯えないで、心落ち着けて。大丈夫だから――)
だが、ハッと目を開き、卯雪を一瞬、まじまじと見つめた。
(……単なる動揺だけじゃない。この、魂の震え……共振? 共鳴か?)
(共鳴? 何に? この響きの応え……なんだ!? 一体どこから!?)
(……まさか……!?)
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