リアクション
終章3 UNKNOWN
どこからか、獣の咆哮が聞こえてくる。
それに応えるかのように、黒い影がゆらりと立ち上がる。
――行かなくては……
夜のシャンバラ大荒野。
それが立ち上がると、周囲にはゆらり…と血の匂いが撒き上がる。
細い、背の高い影だ。
――魂が、呼んでいる……
長く伸びて乱れたプラチナ色の髪に隠れて、表情は分からない。
しかし、その体を覆う軽微な甲冑――細い月の光を反射して微かに輝く。
土と埃と、幾多の返り血に塗れて汚れたその軽鎧の、ところどころに覗く本来の鎧肌は、まるでクリスタルのように透明に輝いている。
そのクリスタルの中には、幾つもの細やかな金色の粒子が閉じ込められていて、それが時々、ちらちらと光る。
その光に呼応するように、纏う男の目は爛々と狂気に燃える。
冷たい輝きを秘めて、どこか瀟洒な趣で纏う者の体を包む、その軽鎧は、守ると同時にどこか「閉じ込めている」ような印象を受ける、不思議な――魔鎧であった。
――我から抜け落ちた「我」が、怯え、恐れ、助けを求めて叫んでいる……
――行かなくては……
男の口から咆哮が湧き上がる。
荒野のそこここで雄叫びを上げていた野獣が、思わず鳴くのを止めるほど、禍々しい叫びであった。
それは、狂気に今にも押しつぶされんとして堪えている理性の一片が上げる悲鳴であった。
「行かれるか? 件の地へ」
やがて咆哮が止み、男がその一片の理性にしがみついて息を乱しながら、血の匂いの中で正気に返った時、背後に現れた人影が静かに話しかけた。
その男は、全身を包帯に包まれ、目だけが露出しているという異様な風体だった。
ただ、背中から1対の翼が伸びていた。
そして、その右の翼は、月の光に逆光となった影で見ても分かるほど、無残に骨が折れて曲がっていた。――羽ばたくことは出来まい。
「かの島への案内、及ばずながら引き受けさせていただく。
私はもう飛べぬが、飛空艇を用意いたす」
鎧の男は、包帯の男をじっと見た。
確か、何日か前に、この荒野の片隅のオアシスの町で会ったような……しかし、狂気の浸食が最近とみに激しくなった彼の記憶は、ほんの数日前のことでさえあやふやであった。
「貴殿は……」
「信じてもらえるかどうかは分からぬが――あなたの敵ではない。
あの島のことをよく知る、しかし、もうあの地に立つ資格はないであろう者だ」
(それでも、あの島を救う望みの一片を、貴方が握っていることを知っている)
「私はザイキ・メオウルテスと申す。お見知りおきを――ヒエロ・ギネリアン殿」
参加してくださいました皆様、お疲れ様でした。
奈落人LC様の参加がなかったのが少し残念でしたが、今回も皆様の多彩なアクションに助けられた感じです。
実は交渉を見守るアクション次第ではキオネがコクビャクに拘束される展開もあったのですが、これは阻止されました。
同じくアクションの結果、島の過去に関する情報は最大限まで公開されました。
終章1「絵解き」にてほぼ書き尽くしましたが、読みにくかったら申し訳ないです……
次回、魔道書シナリオを1回挟んで【逢魔ヶ丘】はラストの予定です。役者はそろう、はずです(苦笑)。
最後までお付き合いいただければ嬉しく思います。
……今回、胃腸風邪の直撃を受けて寝込んでしまった関係で非常に執筆がギリギリでありまして(汗)、その関係で称号も、参加いただいた方への個別メッセージも用意できませんでした。申し訳ありません……
こんな体たらくですが、またお会いできれば幸いです。ありがとうございました。