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リアクション
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「ちょっ待っ! ぐわっ!!」
玉砕覚悟の体当たり。
力強く羽ばたき滑空したヴァンドールに、谷間から飛び出した『風渦の精』が弾け当たってきた。『かまいたち』を纏った体がヴァンドールの足や腹部を削り抉ってゆく。
「離れんかっ!!」
背上からリリが『サンダーブラスト』を放った。複数の雷撃が幾体かを撃ち墜としてゆく、その隙に再び駆け翔ぼうと翼を広げたが、その頃にはすでに4方が塞がれていた。
面を撃破してもすぐに補われてしまう、気付けばそれ程の数の個体が谷間から飛び湧いていた。
「って、数が多すぎるような気がするんですけどっ!!」
話が違うと言わんばかりに朝野 未沙(あさの・みさ)は空を見上げて言ったが、どうにもジバルラはこれに応えず、答えたのはフェイミィだった。
「だが、おかげでこっちは楽になった」
「それはそうなんだけど―――あっ、ほらっ!」
前方に3、4、5体、いや、6体か。未沙が瞳を見開いている間に左右にも現れたそれらが壁を成して一行を取り囲んだ。
「ジバルラさん?!!」
「引き返したきゃ引き返せ!」
触れれば刻まれる壁が現れたというのにジバルラは僅かにも駆ける速度を落とさなかった。
「んなもん、止まる理由にもなんねぇんだよ!!」
彼の鎧が悲鳴をあげる。抉られながらも血を噴き出しながらも強引に壁に割って入く。そうして遂に文字通り風刃の壁に風穴を開けてしまった。
「突破しちゃった……」
「あぁ、だがあれだと長くは保たねぇだろうな」
6人からなる『オルトリンデ少女遊撃隊(武官)』を前面に配しようとするフェイミィに対し、未沙は、
「確かフリューネさんって風を読めるんだったよね?」と後方を振り返っていた。
「いや、このまま行こう」
旋風の如くにルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)が駆け抜けていった。
「下手に刺激するのも、まして強引に突破するなんて品が無さすぎだ」
ジバルラの駆ける先には新たな集団が壁を形成しつつあったのだが、遠心力を失ってゆく独楽のようにそれらは体を揺らしながらに次々と谷底へと墜ちていった。
「何をした」
「少し眠ってもらっただけだ。相手を制するのに必ずしも力は必要とはしないのだよ」
『ヒプノシス』、それは相手を眠らせることが出来る魔法。ルーツはこれを『風渦の精』の壁に連続して放つ事で道を切り開いたのである。
一本道の中程を越えた所でもう一枚の壁が現れたが、これも同じに容易に突破した。
「見えた! 竜だ!!」
三船 敬一(みふね・けいいち)が駆けながらに見上げて言った。一本道を渡りきり、高台まで一気に駆け登った―――
「うはっ!」
突然に、そうそれは竜の姿を捉えるよりも先に迫り来た。
目の前が真っ赤に染まる程の巨大な火球、敬一はそれにどうにか『自動小銃【ハルバード】(真澄のマシンガン)』を向けて『クロスファイア』を放ちぶつけた。
十字の砲火は巨大な火球に飲み込まれながらも刹那に火球を圧し留め、激しい爆発を起こさせた。とっさの銃撃に上体を反らしていた敬一の体は爆風で簡単に吹き飛ばされてしまった。
「ふぉおっ」
「三船殿っ!!」
高台に駆け込んでいたコンスタンティヌスは転がる敬一を目で追ったが、レギーナ・エアハルト(れぎーな・えあはると)は「行きますよ」とその横を駆け抜けた。
――『俺たちで竜の注意を引きつける』敬一はそう言っていました。ならばすぐに戦線に戻ってくるはずです。
長身を腰から折り屈めて重心を下げる。加速しながらにレギーナは『隠形の術』を唱えた。姿を消したままに竜の左腹部側へと駆けて行く。
長い首で頭を持ち上げながらに竜が上体を起こしてゆく。正面から駆け来るコンスタンティヌスに火球を吐いた。
コンスタンティヌスは併翔させていた『レッサーワイバーン』の足にしがみつくと、一気に空へと駆け上がらせた。
再びに火球が迫り来たが、今度は降下させてこれを避けさせると、彼は勢いのままに竜めがけて跳びだした。
龍鱗の強度は知っている、落下の勢いを加えて『ショットランサー』を突き立てても弾かれるかもしれない、それでも―――
耳鳴りがするような金属音。予感の通りに弾かれた、しかし弾いたのは竜の鱗ではなく脚部を護る鎧、槍先が龍鱗に達する前に師王 アスカ(しおう・あすか)の蹴撃が『ショットランサー』の腹を打ち払った。
「なっ」
「お前っ、何して―――んがっ!」
竜を見上げ構えていた敬一の顔に『フルムーンシールド』がブチ当たった。これもアスカが放った物であり、着地と共に彼女は竜の前に立ち両手を広げた。
「この子に攻撃しないで!」
アスカはその手に腕により力を込めた。ここまで来ておいて何をいまさらと言われるかも知れない。それでも傷を負ったドラゴンを攻撃するなんて私は見過ごすわけにはいかないの。
「私もその意見には賛成どすなぁ」
綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)もアスカと同じに向き並んだ。
「相手は傷を負ぅてはるいうのに、いきなり攻撃するやなんて」
風花が慈愛に満ちた瞳を―――
「まずは治療をして、話はそれから―――」
竜に向けた時だった。
「時間が無ぇって言ってんだろうが」
竜の肩上からジバルラが『龍使いの鞭』を振っていた。
鞭が竜の首に巻き付いてすぐに、雄叫びと共に竜は激しく首を振った。
体を揺らし地を蹴り砕き頭を地面に叩きつける。
「止めろ! 止めるんだ!」
御剣 紫音(みつるぎ・しおん)が叫びをあげた。これがジバルラが言っていた拒絶反応なのだろうか。巨大で強硬な体をブルブルと震わせ、得体の知れない何かから逃れるように振り払うように、首に巻かれた鞭から逃れようとしているように大きく体を揺らし足掻いていた。
「ジバルラ!!」
「うるせぇなぁ」
紫音の足元にジバルラが降ってきた。竜が首を振るのに合わせて鞭を解いて跳びだしたようだ。
手には鞭が握られている。という事は―――
グガァオォォァォォァオオ!!!
首に鞭は巻かれていない、それなのに竜は今も悶え苦しんでいた。
「どういう事だ!」
「ニビルの気に当てられてんだ。鞭を解いてもしばらくは続くぜ」
彼の持つ『龍使いの鞭』には彼のかつての相棒ニビルの力が宿っているという。彼は新たな相棒の首にもその鞭を巻いて戦いたいというのだが、これまで出会った竜たちはみなニビルの力に反発し『拒絶反応』を見せたのだという。目の前の竜が今まさにその状態だという。
「どいておくれ」
アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)が皆よりも一歩前に出て『清浄化』を唱えた。雄叫びをあげて頭を振る竜に向けて懸命に唱えたが、状態異常をなおす魔法をもってしても竜は一向に鎮まらなかった。
「それなら俺の『博識』と『獣医の心得』を駆使して―――」
「んな事してっと殺されるぞ」
紫音にそう言い残してジバルラは一人駆け出した。
ニビルの力という『得体の知れない力』に触れたこと、そして目の前には『得体の知れない者たちが存在する』ことが重なって。竜は完全に殺意の瞳で一行を睨み捉えていた。
「待ってくれ、俺たちは治療を」
「危ないって!」
未沙が紫音の手を引いた。そうして駆け出さなければ2人とも放たれた火球に潰されていたことだろう。竜は怒り狂ったように奇声をあげて次々に火球を放っている、これでは治療どころか近づくことすらできない。
「ジバルラさん! 拒絶反応って、みんなあんなになっちゃうものなの?!」
「肺にデケェ蛾を入れられたと思え。あぁなってもオカシくねぇだろ」
パタタタタタタタタタ。
「うぅ〜きもちわるい〜」と未沙が呻声をあげた。自分の中に別の力が入ってくる感触、それが暴れ出す感触。竜が猛り狂うのも分かる気がした。
とにもかくにも鞭に宿った力に反発した以上『左腕と左翼を失った竜』はジバルラの相棒にはなりえないという事になる。
「だいたい、昔の相棒が巻いてた鞭を首に巻いて欲しいドラゴンなんていると思ってんの〜」
一本道を引き返しながらにアスカが言った。フェイミィやリリたちが多くを倒しているとはいえ、今も『風渦の精』は多勢で襲いかかってくる。
「せめて新しい物を用意してあげるのが友好の証でしょ〜、まったく! その気遣いの無さんに腹が立つわぁ!」
強まるアスカの声にルーツは焦りを覚えた。これは…… 本気で怒っている。
「何なの〜? アンタは今の彼女に元カノが着けてたアクセをプレゼントするっての?! キャア〜もう信じられない!! 乙女心を何だと思ってるわけ?!!」
「うるせぇな! ごちゃごちゃ言ってねぇで走りやがれ!!」
おや、激昂もツッコミもしないとは。これはアスカの怒りが発散するまで放っておくが得策かもしれない。
と、ルーツが静観の姿勢を決め込み、未沙は「あ〜ぁ、竜の義腕とか義翼とかを作れるチャンスだと思ったのにな〜」などと愚痴をこぼしていた。
『クロスファイア』に『氷術』に『煉獄斬』、『ブラインドナイブス』に『ヒプノシス』などが飛びかっている。
『風渦の精』を蹴散らしながらに、みなの脳裏には『拒絶反応』を見せた竜の様がよぎっていた。
これから向かう2体ともが同じような反応を示す事だってあり得ると考えただけで、先が思いやられた。竜の逆鱗になんて触れるべきじゃない。
竜の雄叫びが聞こえなくなるまで、一本道を越えた一行は一気に空を飛びて山を降りていった。
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