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リアクション
身長28cmの小さな体、その上半身をアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)の襟元からヒョコリと出して、
「いやーでもネ、やっぱり熱くない砂漠って何か変な感じだネっ!」
とアリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)は投げかけた。
「あ〜うん……そうだねぇ」
アキラは眠そうに応えた、というよりヘバっていた。
歩けど歩めどもに砂、砂、砂。『左腕と左翼を失った竜』が居た山を逃げ降りたと思ったら今度は砂の山ばかり。一本道の手前で少しは休めたと思ったのに、この足に砂が纏わりつく感覚は確実に体力も気力をも奪っていった。だからもう、歩かない。
「スナジゴク?」
ペットである『スナジゴク』に竜を探させる、と説明するとアリスは「なるほどネー、もっとずっと楽するって算段だネっ」なんて言ってきた。算段なんて言葉…… どこで、というか今時誰が使ってるんだか。
それにしても『砂を掴むようだ』とは良く言ったものだ。居眠りをすれば口に砂が溜まり塞がってしまう、窒息から免れるように至る所から砂が空高く噴き出されている。間欠泉によって噴かれた砂は地に降り積もり、視界のどこにでも見て取れる10m級の砂山を幾つもに形成したことを思わせる。そんな砂山を越えて砂山の中から砂に隠れた一匹の竜を探し出さなければならないのである。
「んで? 本当にこの辺りなのか?」
如月 正悟(きさらぎ・しょうご)がジバルラに問いた。一向に見えてこない竜の痕跡探しに何かしらの新たな要素を加えようとしたのだが。
「だいぶ前に来た時はこの辺りに居たんだがな。今は知らん」
「………………はぁ。」
そんな気はしていたが。この男なら『捜索の足に使ってやろう』という理由で俺たちを連れてきたという事だって十分に考えられる。まぁ、俺だってカナンの『冒険者』の一人として来たわけだし自分の興味の為に動いているわけだから、気にせずに利用できる部分は利用すれば良いとは思ってはいるが。
――ま、それはともかく、この辺だって言うんなら。
正悟は一人、みなに背を向けた。振り向いてみても、これまで歩んできた道のりは見晴らしの良い砂景色だったが、だからこそ、ここで行う必要がある。
――本当は山道の細い部分とかに陣取りたいんだがな。
『焔のフラワシ』を先兵に、『レッサーワイバーン』には上空から見晴らせる。ネルガルの部隊やネルガル側についた学生、または純粋に邪魔をしに来る学生が来ないとも限らない。
殿を固めることでジバルラの相棒探しを最後まで見届けようとする正悟に対し、赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)のアプローチは少しに異なっていた。ジバルラの傍を歩き、そして目を血走らせて竜を探していた。
――必ず先に見つける…… 竜と戦わせるなんて、させません。
幾ら時間が無かろうと関係ない、そんなものは戦って良い理由にはなり得ない。竜を護るためにはまず竜を発見すること、そしてなんとしても彼を止めることです。その為に彼と戦うことになろうとも……。
「うっ!」
突然に前方に倒れた、蹴つまづいてしまった。大地は砂ばかりだから痛みはそれほど感じなかったが、転んだ拍子に口の中へ飛び込んできた土埃りが喉に絡みついてきて霜月は大きく咳き込んでしまった。
――いえいえ、そうではなく。何かに足を取られたような……。
霜月が振り向いて見ると、土色をした小さな円錐が砂肌から顔を出していた。砂を踏みつける音にさえも気を配りながらに霜月がそっとそれに歩み寄る中で、円錐のそれは尖った頂点をゆっくりと左右に割り開き始めたのだった。
――???
急な転調。餌を催促する鯉のように今度は素早く閉じては開くを繰り返した。あまりにも不審な円錐に霜月が手を伸ばして握りしめると―――それらは勢い良く空へと飛びだした。
「うわーー! やーさー!!」
ビビ・タムル(びび・たむる)が好奇に瞳を輝かせた。
「あっちもー! わー! いっぱいだー!!」
複数の間欠泉が吹き出したようにも見えたが、空に飛びだしたのは砂の塊ではなく生き物だった。
「ねぇっ! あれっ、あれって竜?」
「う〜ん、いや……あれ? そうかな……?」
水上 光(みなかみ・ひかる)は何度か首を傾げては言葉を濁した。円錐型に尖った口にコアラのような丸い体、確かに翼らしきものは見えるのだが。どうにも竜には思えない。
突然の出来事に意外にも一番に驚いたのはアキラが飼う『アリジゴク』たちだった。その内の一匹が現れた個体に跳びかかって噛みついた。
途端にその個体が細くも高い叫声で鳴き始め、それを真似するように同じに現れた個体たちも同じに鳴き始めたのだった。辺り一面に奇声が鳴り響く中、遠くの山が盛り上がり始めた。
現れたのは土色の龍鱗をしたドラゴンだった。
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