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リアクション
エトワール・ファウスベルリンク(えとわーる・ふぁうすべりんく) は動けない。
如月 和馬(きさらぎ・かずま)がネルガルに仕官するため、そのための人質となり、そして石化させられた。エトワールは石像となった。
刻が止まる、それが石化。だから何も感じない、何も見えない、何も思えない。
刻が止まる、それが石化。でももし今の状況が見えていたなら知っていたならば―――
『和馬の願いは、また考えは受け入れられたのだろうか。
彼が決めた道ならば私は地獄まで付き合おう、その覚悟はできている。
純粋であるが故の無鉄砲、信じる道以外への無関心。
無関心は放棄へ繋がる。どうか自棄にはならないで』
刻が止まる、それが石化。だから何も感じない、何も見えない、何も思えない。
だから今のはどれも全てがただの単なる妄想。
願おうにも叶わない。石像は刻が止まっているのだから。
大きな町ともなれば教会があったり、小規模であれ神殿があったりして、その中に納められていたりするのだが。
東部の峠下の集落に奉られているイナンナの女神像は、集落の中央広場にその台座が設けられていた。
「これはまた……」
夜月 壊世(やづき・かいぜ)は女神像を見上げながらに「良い表情だな」とそれを表現した。
笑んでいるわけではない、と言ってしかめているわけでもない。見る者、見る時、見る心によって異なって見える、そんな静かで穏やかな表情をしていた。
高さは70cm強といった所だろうか。それでも台座に乗っている為か、見上げた首が痛い…… じゃない、そうじゃなくて―――
「うふふ、確かにこれでは目立ちすぎますわね」
心を読まれたっ?!! 壊世が驚き振り向くと、同人誌 静かな秘め事(どうじんし・しずかなひめごと)が『デジカメ』を構えていた。
「撮影しやすくて助かりますが」
「えっ、いや、ちょっと待て―――」
パシャリ! と一枚。不意打ちの一枚を抜かれてしまった。
「はい。ステキな瞬間をありがとうございます」
とっさの出来事だっただけに、そう礼を言った彼女の柔らかい笑顔が余計に残ったが、ともあれすぐに彼女はカメラのレンズを女神像へと向けた。なるほど本命はそちら、動線上に居たから故にレンズを向けて下さったというわけですか。
――ん、まぁ別に何でも良いけどな。
本人にとっては無意識で、しかし確実に若干ではあれ壊世は、ふてくされた。そうして気が緩んだ瞬間だった。
「危ないっ!!」
「はっ? うわっ!!」
ドンと押されて体が傾いた、そこを何かが通過した。太陽の光りを反射して輝く剣、静かな秘め事が押してくれなければ間違いなく斬られていただろう。『ディテクトエビル』を発動していた彼女だからこそ気付けたようだ。
一閃を避けられた如月 和馬(きさらぎ・かずま)だったが、追撃を行うではなく一足で女神像に跳びかかった。
振り下ろされる『龍骨の剣』、それを防いだのはアルティナ・ヴァンス(あるてぃな・う゛ぁんす)だった。
打激音が弾ける。抗うはアルティナの『グレートソード』だった。
「あん? 何だテメェ」
「あなたこそ、いったい何なのです?!」
「さぁな! 誰だろぅなぁっ!!」
弾いて跳び退いた。それをアルティナが『バーストダッシュ』で追ったが、「へっ!」と吐いた彼の背後からオルトロスが飛び出してきてこれを阻んだ。
とっさに放った『爆炎波』がオルトロスを焼き斬ったが、その脇から更に2体が飛び出してきた。
「つっ―――」
「させませんわ」
イオテス・サイフォード(いおてす・さいふぉーど)が矢を射った。
集落建造物の配置を考して、広場に近い石造りの家屋のその屋根が最も適していた。敵の狙いが女神像である事は把握している、なれば広場を見渡せるこの位置で『セフィロトボウ』を構えるが最善と結論づけた。
予めのシュミレーションと準備が持ち前の冷静さを際だたせたのだろう、飛び出した2体を見事に狙い撃ちて沈めていった。
「あなた。なぜネルガルに手を貸すのです」
宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が『レプリカ・ビックディッパー』で和馬に抗する。
「テメェ等こそなぜここに居やがる。イナンナのお守りは飽きたってか? ああ?!!」
噛み合わない言撃とカチ合う剣撃。打音が響く度に両手で耳を押さえる幼子の背に比島 真紀(ひしま・まき)はそっと手を添えてた。
「大丈夫、大丈夫でありますよ」
きっと大きく丸くて愛らしい瞳をしているはずに見えるのに、それはどうにも細まったままで。肩からぎゅっと抱きしめて真紀は家屋が並ぶ一角へと駆け込んだ。
「こっちだ」
3軒先の家屋の陰から、パートナーのサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)が手をあげていた。
彼の後ろには集落の人々と思われる者たちが数名見えた。その中に、こちらに気付いて駆け寄ってくる男女がいる。泣き喜んでいる所を見ると、きっとこの子の親なのだろう。
「真紀」
サイモンは彼女の怪我の是非を問うと共に、集落の人々の避難状況を告げた。真紀が連れ来た子で最後、あとは皆所在を確認し合うことが出来たという。
「この先の家屋に集めた。急ごう」
「えぇ」
襲撃がおこるよりも前、集落に到着してすぐに2人は人々を集め避難するよう呼びかけていた。真紀が無事に保護した子は『どうしても女神像にお花を供えたい』と言って抜け出し、そうして襲撃に巻き込まれたようだ。
サイモンが親子を連れ、真紀がその殿を務めた。それでもオルトロスが追ってくる様子はなかった、それどころか先程まで聞こえていた奇声や衝撃音は確実に少なくなっている。
「ったく、使えねぇ」
広場を見渡して和馬が吐き捨てた。連れてきた2人の神官兵たちは『ハルバード』を装備してはいるものの、見るからにアルティナや静かな秘め事におされている。神官戦士だとか名乗っていたが、戦士と呼ぶにはあまりにも脆弱だった。
「っと!!」
背後につかせていたオルトロスが悲鳴を上げた。振り向くと『高周波ブレード』と『碧血のカーマイン』による連続攻撃が迫っていた。
夜月 鴉(やづき・からす)は間髪入れずに『アルティマ・トゥーレ』を放った。壊世を纏っているだけに攻撃の幅が大きく広がっている。『超感覚』で感覚を鋭くすることも出来るが、できるならこのまま押し切ってしまいたい。
「クソがっ」
女神像の周囲は守り囲われている、神官戦士どもはアテにならねぇ、オルトロスもイオテスの狙撃を受けて次々と倒れてゆく。
「ちっ!! 退くぞテメェ等ァ!!」
和馬は『小型飛空艇オイレ』に、神官戦士たちがワイバーンに乗り込んだときだった。上空から衝撃波が襲ってきた。
この攻撃は今までにはない、新手ならば余計にグズグズしている暇などない。
和馬は強引に離陸させて飛び出した。衝撃波を撃ったと思われる男と『レッサーワイバーン』を空に見たが、それも旋回して無理に避けた。
「逃がしませんよ」
彼が衝撃波と感じたのは『龍の咆哮』。精神的に追われていると威嚇の効果は上がるのですね、とウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)は分析しながらに彼らを追った。
各地の神殿を巡っていた所で偶然にもこの戦線にたどり着いた。しばらくは上空から静観していたが、生徒たちが女神像を守る様などを見れば状況は容易に把握することができた。ともなれば素直にこれらを逃がす道理などない。
どうやら北へ進路をとっている。ウィングは遙か上空へと駆け上り、彼らを見下ろしながらに飛び追いた。
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