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【ザナドゥ魔戦記】バビロンの腐霧

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【ザナドゥ魔戦記】バビロンの腐霧

リアクション

 ミネルバが向けた視線の先で、
「ぐふっ……」
オリヴィー!!」
 パイモンの剣がオリヴィアの腹部に突き刺さっていた。
「はぁあああ!!!」
 誰よりも速くに仕掛けたのは馬 超(ば・ちょう)だった。
 『ランスバレスト』の突進力ならばパイモンの体を貫くだけでなく、オリヴィアの腹部に刺さった剣も引き抜ける。全力で地を蹴り突いた一撃は、素早い身のこなしで避けられてしまったが、それでもオリヴィアを解放する事には成功した。
オリヴィー
「平気……よ。傷は浅いわ」
 刺突の直前に発動した『炎の聖霊』が彼女の身代わりとなったおかげで、貫通を免れたようだ。
 傷口からは、押さえる手を押し退けるように大量の血が溢れているが、エレクトラの『ヒール』をもってすれば、どうにか止血をすることも可能だろう。
「ここは任せたよ、
「あ……うん。気をつけて」
 真剣な、それでいて澄んだ瞳には圧され、見惚れた。大剣を手に駆け出したミネルバの背中はいつも以上に頼もしかった。
 そんなミネルバに並び駆けたのは樹月 刀真(きづき・とうま)
ミネルバ! 左側を頼む!」
「わかったよ!!」
 彼も以前にパイモンと刃を交えた一人である。
 『ランスバレスト』で先制しただったが、その後はパイモンの剣撃に圧されていた。
 パイモンの武器は「邪蛇の双剣」、一人で挑んではどうしても分が悪い。二人の打ち合いの中に、刀真が『ゴッドスピード』で飛び込み、直後にミネルバが続いた。
 刀真の武器は『黒曜石の覇剣』と『光条兵器』の二刀流。単純計算、武器の数ならパイモンの双剣と並ぶ、しかし刀真は敢えて双剣のうちの一本を狙い、打ち合っていた。
 全ては確実に双剣を封じるため、そしてそれがパイモンの『迅雷斬』を封じることに繋がる。
 双剣を擦り合わせる事で凶力に威力を増すパイモンの『迅雷斬』。前回の戦いではこれに負けたと言っても過言ではない。
 ミネルバと二人で左右から仕掛け、双剣を擦り合わせる間を与えない。これが刀真の策だった。
「お前の敗因は、一人で戦ったことだ!」
 刀真にはミネルバが居る、援護にはも、そして、
「新星えぇいっ!! 轟天貫通撃いぃぃぃっ!!!」
 コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)の突進。『フレイムブースター(ジェットドラゴン)』に身を任せた高速度のまま、『アンガード・バンカー(第二世代パイルバンカー)』による『疾風突き』、「新星! 轟天貫通撃!」で突進していった。
 二人の乱撃の隙間を縫った絶妙のタイミングだった。逃げ場はない、誰もがそう思えたが、パイモンはこれを柳のような身のこなしで避けてみせた。
「なっ!」
 一瞬の間。狂乱した状態の中、パイモンは実に冷静な判断をした。それは「ハーティオンを斬る」ではなく「跳び退きつつ、双剣を組む」であった。
「ちっ!!」
 巨体を誇るハーティオンでも、直撃を受ければひとたまりもない。
パイモンは既に地を蹴ってハーティオンに迫っている。どうにかして軌道を逸らさなければハーティオンが死ぬ―――そんな刀真の危機感が伝わったのか、
「なっ……」
 刀真に纏われていた紫苑が魔鎧状態を解除し、そしてパイモンの眼前に飛び出した。
「とーま、今―――」
 視界の一部を遮られたまま、パイモンは強引に『迅雷斬』を放った。
 轟音に次いで破砕音が弾ける。
 その刹那の瞬前、刀真は自分も『迅雷斬』の軌道から逃れるように跳びながらに、自らの剣をパイモンの剣の腹に添えると、一気に外側に力を加えて『迅雷斬』の軌道を外へと逸らした。
 直撃を受けたのは刀真の『黒曜石の覇剣』。覇剣は粉々に砕け、そしてハーティオンの左肩から左腹部までを深く抉り斬っていた。
 先に動いたのは魔王だった。
 放たれる突き。『迅雷斬』の衝撃でいまだ体が浮いていた刀真は、どうにか地に足を着けると、そこを軸に体を捻った。
 左肩を貫かれた直後、右の『光条兵器』も柄を打たれて弾かれた。
 無防備。
 当然のように斬りかかるパイモン、そこを二本の光りが寄襲した。
 一本は奇襲。ミネルバの『梟雄剣ヴァルザドーン』が放ったレーザーキャノン。そしてもう一本は寄り来た剣、ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)が自分の『ヴァジュラ』を投げたものだった。
刀真さん!!」
 刀真の二刀を無効化したという事実と油断、そこに襲いかかるレーザービームの存在がパイモンの視界から刀真の存在を消していた。
「おぉおおおおおおお!!!」
 飛来した『ヴァジュラ』を宙で掴み、そして魔王の肩部へ振り下ろした。
 千載一遇の好機。
 ミネルバがこれに続く。右腹部を貫くレーザービーム、槍撃が左脇腹を、そして追撃の昇斬がパイモンの胸部から肩口までを斬り裂いた。
「トドメっ!!」
 ミネルバが大技『アナイアレーション』を放とうと駆け寄った―――時だった。
「なっ!!」
 背後から『馬頭鬼:瑪珠(ケンタウロス)』、『シルバーウルフ』、『ブラックバタフライ』、『紅尾覇虎(パラミタ虎)』が飛び込んできた。
 突然の襲来に刀真たちも思わず退いた、その隙に『馬頭鬼:瑪珠(ケンタウロス)』の背へと木本 和輝(きもと・ともき)パイモンの腕を取り、引き上げた。
「おぅおぅ、こりゃ酷ぇ。立夏、治療してやれ」
「はいはーい、おまかせあれ」
 『大地の祝福』がパイモンの傷を塞ぎ始めた直後、
「私は………………また取り乱してしまいましたか」
「取り乱したっつか、ありゃ完全に暴走だ」
 魔族と人間が同じ、そう言われた事、そう思われた事への怒りがそうさせた、パイモンにとっては我を忘れさせる程の怒りを覚えたのだ。
「このまま待ってりゃ傷口は直に塞がるだろうが。どうする? 時間を稼ぐか?」
「いえ…………」
 そう言うとパイモンは両目を閉じて僅かに俯いた。
「なるほど……『エレシュキガル』を手に入れましたか。加えて、北と西の軍隊と契約者たち。少し分が悪いかもしれませんね」
 目を閉じ浮かぶ映像は北カナン【カナン諜報室】に送られた映像と同じもの。飛行中の『エレシュキガル』の姿に、北カナン軍と西カナン軍の進路が描かれたマップと、進軍中の様子などなど。
 コーラルネットワークへのハッキングの成功により、イナンナが得る情報を同じタイミングで得る事を可能にしていた。
「退きますよ。今日はこれで十分です」
 5体のグリフォンを呼ぶと、うちの一体の背に乗り、そして飛び立った。橋頭堡を包囲していた悪魔兵やグリフォンもこれに合わせて撤退してゆく。
 当然に追撃を試みる契約者は居たが、互いに壁となるように飛び行かれてしまい、思うような仕掛けができない。ここで数体を沈めたものの本丸には届かず。結果、一時は深手を負わせながらも取り逃がすということに。
 戦果は橋頭堡を守り抜いたこと。しかし失った兵も多い。