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リアクション
(4)龍の逝く穴−2
「はわわっ、ここもですか」
龍の逝く穴、洞窟内。イコン『エレシュキガル』の右肩の接合部を覗き込んだヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)は驚きと、
「ずいぶんと汚れてますね。これはメイドとして腕がなりますっ!」
妙な高揚感に包まれていた。
エレシュキガルの大掃除。『ランドリー』と『ハウスキーパー』と経験をもって、千年の汚れに立ち向かうのだ。
「はい、兄さん、ドライバーです」
こちらは脚部。兄であるドクター・ハデス(どくたー・はです)を高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)がフォローしていた。
ハデスの手元を見つめて推測する。そして言われる前に、
「はい、テスターです」
と手渡してみせた。『精神感応』で思考を読んでいるとはいえ、それを先回りするには推理力も必要だ。咲耶は兄の一挙手一投足を見逃さぬよう、瞳を輝かせていた。
「ふふ、なんだか、こうしていると、兄さんと私の共同作業ですね」
つい、ニヤけてしまう顔をキリッと戻してハデスを見つめる。ハデスが真剣でカッコいい顔をしている時は全力で添う、そう心に決めているのだから。
「ティアマト……さん」
遠慮がちに訊ねたのは水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)、彼女は「イナンナが『エレシュキガル』の使用を控えていた理由について」訊いていた。
「ネルガルやアバドンが起こした戦いの時も、今回だって。そりゃあ、イナンナさんが自分で戦いに行けないっていう状況なのも分かるんだけど」
「まわりくどい」
「代償があるのかな、って。『エレシュキガル』を使う度に何か……例えばカナン全土に影響を及ぼすようなそんな、大きな代償が」
「代償など無い。……が、あれには『クル・ヌ・ギ・ア』という力が備わっている」
「『クル・ヌ・ギ・ア』?」」
「帰還する事のない土地、という意味だ。乗り手の破壊衝動を増幅させ、闇に誘う。精神が闇に落ちれば敵味方の区別無く全てを破壊するまで止まらない、正に大地を薙ぎる戦神となる」
「そんな……」
大きな力を持つ者は心に秘める闇も大きい。自分では闇には落ちまいと思っていても……イナンナが『エレシュキガル』を手元に置かなかった理由は正に「拭いきれない不安」だそうだ。
「まぁ、そういう意味じゃニンフは適任かも知れんな。意図した事では無いにしろ、一度闇に落ちている。その経験があれば踏み止まれるだろう」
「……なるほど」
闇に落ちそうになれば身を投げ出してでも脱出なり機体の破壊なりを試みるだろう、という事らしいのだが。しかし果たして本当にここで安心して良いのだろうか。
「俺からも一つ、良いかな」
言ったのは紫月 唯斗(しづき・ゆいと)、それでも彼は自分に目線が向く前に、パートナーのプラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)を前に出した。
「力を……いや、知恵を貸して欲しいんだ、プラチナ(プラチナム)を助けて欲しい」
以前にザナドゥ『ウヌグ』の集落で特別な魔鎧の武器を腕部に組み込まれて以来、躰全体を襲う違和感が取れないという。
「腕部には刃が付いていましたが、それも今は折れてしまっています。躰の傷は癒えても刃は修復されませんでした、これは、私の一部と認識されていないという事だとは思うのですが」
「…………あのね、あたしを「なんでも屋」か何かと勘違いされても困るのよ」
「頼む! プラチナを助けたいんだ!」
「そう言われてもね。躰に不純物が混じっている事は容易に見て取れるけど、それをどうこう出来る術は持ち合わせてないよ」
「そう……か」
不純物。確かにそうだ、勝手に躰に植え付けられたもの。こうなるとやはり回収した『魔鎧専用武器』を完成させる事で解決策を探るしかないのかもしれない。
「フハハハハハー!! 完成だー!!!」
喜びに満ちた声。ハデスの高笑いが後方より聞こえてきた。『エレシュキガル』の修理と整備が完了したようである。
思っていたよりずいぶんと早い。そう指摘すると「天才である私になにを言う。不可能を可能にする、それが天才だ!!」という枕をつけた上で、
「修理が必要だった箇所はごく僅かだったからな、整備だけならばこの程度だ」
と正直に話してもくれた。
「何のためにあたしが預かっていると思っているんだい? 壊れている所なんてあるわけないだろう」
ティアマトの言葉も満更ではなかった。千年という月日を考えれば、あの程度の整備で済んだことが奇跡にすら思えてくる。
「さぁ、ニンフ君、お願い」
「は、はい」
初めこそリカインに添われていたニンフだったが、
「ふぅ」
『エレシュキガル』に乗り込み、瞳を閉じて、小さく短く息を吐くと、
「さぁ、急いで戻りましょう! キシュへ、イナンナ様の元へ!」
力強く宣言し、伝説のイコンを起動させた。
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