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リアクション
(3)橋頭堡−2
「そりゃあ、まぁ俺もな、メリットはあるとは思うんだがな」
橋頭堡戦線、パイモン陣営。
標的となる橋頭堡を遠くに見つめながらに、木本 和輝(きもと・ともき)はパイモンに告げた。
「上手くいけばイナンナの身柄が手に入る。橋頭堡を破壊すれば、既にザナドゥに入ってる地上の奴らを閉じこめる事ができる」
「えぇ、そうですね」
応えたパイモンは実に涼しげな顔をしていた。そんな魔王に、
「奴らがイナンナを差し出すと思うか?」
と問いた。
「どうでしょう。上手く追い込めば、或いは」
どこまで本気で言っているのか、判断しづらい笑みを浮かべてパイモンは続けた。
「正直、向こうの動きがある程度想定できるものなら何でも良かったのです。もちろん、このまま戦わずにイナンナを得られるなら文句なしですが」
「どういう事だ?」
「ここまで来れば、このまま静観しているだけで目的は達せられるのですが…………どうやら、そうも言ってられないようですね」
パイモンの視線を追って、和輝も気付いた。
地上からザナドゥに入りたのだろう。橋頭堡の上空に数機の『小型飛空艇』が現れ、そしてカナン軍の陣中へと入りてゆくのが見えた。そして陣内には、以前に刃を交えた龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)らの姿も見てとれたという。
「先に動かれるのは好きではありませんし、頃合いも悪くありません。攻め入りましょう」
「おっ、開戦か?」
「えぇ。橋頭堡を落とします」
時間は十分に与えた。そして今が頃合いだ、と。
「来た! 来たぞ!!」
パイモン軍の侵攻に、ハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)が気付いた。
「全軍迎撃! 絶対に侵入を許すな!!」
ハインリヒのパートナーである天津 亜衣(あまつ・あい)は西側の兵を率いる。
「狙撃班! 来るわよ!!」
塹壕に配置した狙撃兵が、亜衣の合図で一斉に弓を放った。
駆け来る悪魔兵に矢の雨を降らせたが、長くは続けずに撤退させた。勢いに圧されて逃げ帰ったと見せれば、塹壕内設置した爆発物も活きてくる、そこを狙撃班が狙い銃撃する事も可能。兵数が足りない分は戦略で補う。
「必ず越えてくるわよ! チームで戦う事を忘れないで!」
白兵戦は決して「1対1」にならないこと。数で負けている上に囲まれでもしたら勝ち目がない。常に2、3人で組織したチームで戦うこと、こちらが相手の一人を囲む事が出来れば尚良し。
「行くわよ!」
自身も『オートガード』を発動し、味方を守る壁役となるべく前衛に立って槍を振るった。
「到着早々ってのも、悪くないぜ」
気分は売れっ子お笑い芸人か。いや、そんな笑いが起こる可能性など、おそらくは皆無。
橋頭堡の北側。西カナンの遊軍に参加、そして到着したばかりのトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)は、このような状況でありながらも実に頼もしく怒号をあげた。
「僕たちは切り込み隊、本隊の露払いだ! 行くよ!!」
「了ぉ解!」
「いざ!」
「おぉお!!」
トマスのパートナーであるテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)、ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)だけでなく、松平 岩造(まつだいら・がんぞう)もこれに呼応して叫んだ。
「空は任せろ!」
今こそ我ら【龍雷連隊】の力を発揮する時。岩造は『ジェットドラゴン』に同乗させていたカナン兵を地上に降ろすと、一気にザナドゥの空を上昇した。
頭上は死角。ただでさえ敵は白兵が多いというのに、そこに上空からグリフォンが襲いかかれば、一般兵などひとたまりもない。
「くらえ!!」
機体に装備された火炎放射器。掃射された炎が空飛ぶ幻獣たちを焼き焦がしてゆく。
しかし、それだけではとても止まらない。
「そんな事は分かっている」
炙りはそこそこに、岩造は腕に纏わせた『龍吹氷牙(フリーズブレイド)』を振るった。
氷結属性を持つ斬撃が、火照った荒肉を鋭く斬り裂いてゆく。
派手に動く者あれば、どうしても敵はそれを避けようとする、それが烏合の幻獣でも同じ事。そんなグリフォンたちを、
「ふっ!!」
ファルコン・ナイト(ふぁるこん・ないと)が追撃する。
2mもの身長を誇る機晶姫の体を『イカロスウィング(強化光翼)』はたやすく持ち上げる。ファルコンは最短距離に直線で宙を駆け、混戦地から離れるグリフォンの頭上に回り込むと、
「ふぅん!!」
『イカロスシールド(フルムーンシールド)』をグリフォンの頭頂部に投げつけた。
頭部を潰し、そして弾んだ盾をファルコンは再び手に取ると、また別のグリフォンに狙いを定める。
背面を取ると、そのまま背中に跨り、そして『ウルクの剣』を首に刺し立てた。
トドメを刺す必要はない。岩造と合わせて、空を飛ぶ敵を捕捉し、ダメージを与えた状態で地に落とせば良い。なぜならそこには、
「ふぅんんんんんん!!!」
姿は老人、されど現役。武者鎧 『鉄の龍神』(むしゃよろい・くろがねのりゅうじん)が最前線で戦っている。
右手に『ブレード・オブ・リコ』、左手には『パイルバンカー内蔵シールド』を携えて、主に地上の悪魔兵を迎撃している。そこに落下してくるグリフォンあれば、
「ぬん!!」
シールドで受け止め、そして密着した状態から杭を打ちんで仕留めゆく。連携をとって戦うカナン兵たちが地上の敵だけに集中できるように。自分の間合いだけでなく上空にまで気を張れるのは『鉄の龍神』の豊富な経験があってこその技であろう。
適材適所とは言うが、『鉄の龍神』が地上に居ればこそ、岩造もグリフォンも血気奔放に力を振るうことが出来ていた。
「どうぞ、テノーリオ」
「おうよ、待ってましたっ!!」
ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)の『パワーブレス』、それを受けたテノーリオが弾丸のように飛び出した。
槍には槍を。悪魔兵の『ハルバード』に『幻槍モノケロス』で突き挑む。ユニットを組むもう一人、トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)の『龍金棒(如意棒)』の薙撃の間を埋めるように突きを繰り出してゆく。
「邪魔はさせないわ」
ミカエラの役割は乱撃の中にはない。トマスの背後に迫る悪魔兵に『バニッシュ』や『羅英照の鞭』による鞭撃を喰らわせること。
「二人とも、急いで」
「おうよ!」
「いま……すぐにっ!」
一人の敵を確実に、かつ速攻で仕留める、それでいて決して命は奪わない。昏睡、気絶、戦闘不能。言葉の羅列は容易でも、瞬殺を瞬殴にするのは意外に難しい。それでも、
「命を奪うのは、魂を奪うのと同じくらい美しくない行為だ。相手が悪魔であっても、僕たちは命を奪うような事はしない!」
己が信念を貫くために、敢えて険しき道を行くのであった。
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