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リアクション
「うわぁ〜これまた凄いねぇ〜」
いち早く城内へ飛び込んだ芦原 郁乃(あはら・いくの)はピタリと足を止めた。一行の進路を阻んでいた剣棘付きの蔓は城内通路にも蔓延っていた。
「なるほどなるほどぉ、あくまで城に入れるつもりは無いって訳だね? 悪魔の城なだけにねっ」
「上手くありません。それに、そもそもの使い方さえ正しくありません」
パートナーの蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)が冷静にツッコんだ。声色が柔らかかった事がせめてもの救い所ではあるが、郁乃はそんな事を気にすることも無しに、
「さぁて、久しぶりに見せちゃおうかなっ「壁抜けの術」」
「壁抜け……………………!…………なるほど、壁抜けですか」
天井までの高さ、およそ5m。幅は10mといった所だろうか。それを塞ぐように蔓が絡み合い、決して平面では無いにしろ、さながら鉄条網が張られているかのようにも見えた。僅かな傷が命取りになるという状況においては何とも立派で凶悪な罠である。
「ふっふっふ〜、忍者をナメてもらっちゃ〜困るのだよ〜困るのだよ〜、ねっ、マビノギオン」
「えぇそうですね、あたしは忍者ではありませんが」
小出しのボケはスルーした。本人はボケているつもりもないだろうし、現に郁乃は『アンジュのゴスロリ衣装』の裾を強く縛りあげていた―――と思ったら力強く地を蹴って駆け出していた。
左腕の裾は駆けながらに縛りあげ、そして鉄条網の中へ飛び込んでいった。
「忍者には忍者の戦い方ってのがあるんだよ〜」
空中で体を素早く捻り、片手で着地してはすぐに跳ね上がる。『栄光の刀』を突き当てて体勢を変えては剣棘と剣棘の隙間を見事にすり抜けては進んでいった。
なるほど確かに忍者らしい進み方だし、立体的であれ重なって見える剣棘の間をすり抜ける様は「壁抜け」に見えなくもない。
「あの人はまた、あぶなっかしい事を……」
主の背を追うマビノギオンは視線を郁乃に向けながらも、彼女は彼女でズンズンと早足で直線的に進んでいった。
とっさに郁乃のフォローをするにもその方が適していたし、何より敢えて剣棘に自ら向かって行くことで意図しなくても『炎の聖霊』が発動、剣棘を叩き折り、また蔓を焼いてもくれる。後続の契約者たちのことも視野に入れた実に献身的な手法をとっていた。
「……そこまでだ」
「うわっ」
剣棘の厚壁を抜けた直後、軽やかに着地した郁乃を銃弾が襲った。接地の瞬間を狙われては、身軽な郁乃でも反応は遅れる、それでも着弾を免れたのはアニス・パラス(あにす・ぱらす)が抱きついて退いてくれたからであった。
「止めてよ和輝!! もう止めて!!」
「……邪魔をするな」
「和輝っ!!」
体勢を戻した郁乃は『千里走りの術』で、アニスは『マジカルシューズ』での加速で大きく退いて銃撃を避けた。狙撃を続けているのは彼女のパートナーである佐野 和輝(さの・かずき)だった。
「ザナドゥは正義、敵は侵略者……。侵略者は全て、滅ぼすべき……。」
「違うよ和輝!! ぐっ、お願い元の和輝に戻って……」
右腹部に走る痛みにアニスは顔を歪めた。先の戦いで負った傷、その傷口には塞がっているものの今も痛みは残っている。体中が痛い、それでも和輝を失わない為にも、和輝は……和輝はミュラーに操られてるだけなんだから。
「操っているとは人聞きが悪い。まぁ、思うのは勝手だがね」
和輝が二丁の『曙光銃エルドリッジ』を親のような瞳で……いや実験対象を眺める瞳で見つめる悪魔が一人、今は和輝のパートナーでもあるリモン・ミュラー(りもん・みゅらー)だ。
「私はザナドゥに忠誠を誓っているだけで、パイモン達には忠誠を誓ったわけじゃない。楽しく実験が出来ればそれで良いのだよ、今はそうだねぇ、臨床実戦とでも言っておこうかな」
飛びかかれる位置にいれば迷わずアニスは飛びかかってきただろう。この言葉に反応した訳ではないが、まるでそうであるかのようなタイミングで「ああ〜!! 見つけたですぅ!!」と叫ぶ声がした。
「ルーシェリア……お姉ちゃん?」
『ブラックガウン』を羽織った格闘家少女、ルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)が和輝の視界に入りては構えて見せた。
「止めるです! 和輝さん!
スノーさん!!」
和輝だけでなく、彼に纏っているスノー・クライム(すのー・くらいむ)にも呼びかけた。洗脳状態にある和輝の身を本当の意味で護っているのは彼女だった、今この時だって―――
「ふっ! はぁあっ!!」
ルーシェリアが放つ拳撃を防げているのは彼女の『歴戦の防御術』が助動しているからに違いない。
「スノーさん! あなたなら和輝さんを止められるはずです!」
和輝に纏っているならば解除の後に拘束することも容易なはずだ。無論、和輝との意志の疎通が必要にはなるが。
「私は和輝を守るわ、それが使命だもの」
「ぐっ……ぅうう……」
「和輝?!!」
突然に和輝が頭を押さえて膝を着いた。直前に目が合ったのを感じたルーシェリアはこの機を逃さなかった。
「和輝さん! これ以上アニスさん達を悲しませるつもりですか! じゃなければ終わるまで黙ってるです!!」
「アニス………………!!…… アニス?!!……アニス……うう゛……う、ぁ……」
記憶が戻っているのか、洗脳と戦っているのか。何にせよ迎撃体勢も取れるはずもない和輝に、ルーシェリアは『ヴォルテックファイア』を叩き込んだ。
(お願い、和輝を助けて)
アニスの願いが届くのが先か、ルーシェリアが飛び込んだのが先か。激しい炎渦の中にルーシェリアは自らの右手を突き込んだ。
「和輝さんは返して頂き……いや、頂いていくです!」
脳内錯乱と炎渦のダメージで狂乱する和輝の首を掴むと、抱き寄せるようにして炎渦の中から引きずり出した。
ルーシェリアの背側から見れば『ルーシェリアの胸内に抱き寄せられて正気に戻った』とも見えるにだろうが、彼女の正面、すなわち顔の見える位置から見たならば『抱き寄せた際に、しっかり彼女の左膝が和輝の腹に入った』のが見えたはずである。もちろん炎渦によるダメージも含めて和輝を気絶させるに至らしめたのである。
こうして和輝の暴走は止んだのだが―――
(はっ!! 『頂いていく』って私……こうして抱き寄せたって事は、和輝さんは私のものっ?!! ぇぇえええっ!! べっ、別に独り占めしたいとかそういうのではない……のです……ぅ……)
(お、落ち着くのよ私。ぅん、成り行きで胸の中にいるだけよ、そうよ確かに『頂いていく』とは言ってたけど本当に奪われた訳じゃないわ……ラ、ライバルよ、ライバルが一人増えただけのことなのよ)
和輝本人の知らない所でルーシェリアとスノーの心は大いに勝手に揺り乱されていたのであった。
何にせよ通路を塞ぐ『敵』は排除した。一行が再び剣棘を除けながらに進もうとした時、
「待って。このまま進むと『敵』と鉢合わせになるよ」
アニスの口からパイモン軍のゼパルと『紫銀の魔鎧』軍団がこの城に来ている事、そして彼女たちの狙いも『地下迷宮に眠る封魔壺』である事が伝えられた。
「紫銀の魔鎧の……軍団……?」
水上 光(みなかみ・ひかる)が目を細めて僅かに伏せた。
傷口から腐らせてゆく城の霧。モンスター程度は想定していたが、相手が紫銀の魔鎧ともなれば、ただ剣棘を避け除くのとは訳が違う。
「紫銀の魔鎧」
光は呼びかけた、ペオルの集落から退却する際に持ち帰った魔鎧を、自分の顔の前にまで持ち上げて見つめた。
正直これを着るのは怖い。だけど、悔しいけれどこれを着ずに戦って、いや着たとしても無傷のまま勝ち続けるなんて出来るはずがない。それでも少しでも力を得られるなら、みんなを守れるほどに強くなれるなら。
「君と契約しよう。だからボクにその力を貸してくれ」
「我を欲するか……ならば己が欲を受け入れよ。我はアバリシア・アロガンシア(あばりしあ・あろがんしあ)。強欲を司る魔鎧である」
「うぅ……ぅうううっ……ぁあああああ!!!!」
装着した途端に全身が紅紫の光りに包まれた。己が欲を叶えるべく光はアバリシア・アロガンシア(あばりしあ・あろがんしあ)と契約した。装着した者の野望や願望を増幅し、それを叶えるべく猛進させる力を持つ魔鎧。
包んでいた光りが弾けた直後、情の消えた瞳をした光は勢いよく、城の奥へと駆けだしていた。
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