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リアクション
(3)バビロン城−5
「あれ……こっちからグラキエスの匂いがする」
「ロア?」
パートナーであるレヴィシュタール・グランマイア(れびしゅたーる・ぐらんまいあ)が声をかけても、ロアは全くに顔を向けなかった、それどころか匂いの元を辿ろうと鼻をヒクつかせては―――
「間違いない! グラキエスだ! グラキエスが来てる!!」
「おい、ロア!」
レヴィシュタールの制止も聞かずに駆けだしてしまった。ロアが匂いを感じたというのであれば、その通りなのだろう。何かと因縁のある二人だが、最近はグラキエスの事を「美味しそうだ」と表現する事もしばしばで…………
「まずい!」
美味い不味いの意味ではなく、危険だ、という意味で。食欲に呑まれたロアは歯止めが利かない、きっと今ならグラキエスにだって喰ってかかる。
「待て! ロア!!」
言った時には姿見えず、既に突き当たりの岐路を曲がり行ってしまったようだ。
「ええい、足の速い! またんかロア!」
「グラキエス〜!!」
「んおっ……」
「どうしました?」
二人とは確かに離れているにも関わらず、グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は確かに悪寒を覚えた。
「寒気……ですか?」
「あぁ、いやでも気のせいだろ」
「グラキエス〜!!」
「ん? あれは……」
全力疾走、一直線。食欲に飢えたロアが駆け来てそして、
「見つけたぁ!!
「なっ?! ロア?!!」
グラキエスの頭めがけてロアは飛んだ。淡水魚がパックリ餌に喰いつくように口を広げて。
「いただきます!!」
「させるか!!」
「へぶっ!!!」
アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)の『幻槍モノケロス』がロアの頬にメリ込んだ。主を護らんとする槍撃が捕食者を撃退したのだ。
ヒットしたのは幻槍の柄尻とはいえ、その衝撃にロアの体は大きく吹き飛び、そして激しく壁に激突―――せずに消えていた!!
「なっ……」
「ロア?!!」
消えたロアが飛び込んだのは『人ひとりがようやく入れるほどの黒く暗い通路』、奥の小部屋には魔族を封じることのできる壷『封魔壺』が安置されている小部屋だった。
「いてて……誰だ、俺の食事を邪魔するのは」
「大口を開けて頭に飛びついてくれば、誰だって迎撃するだろ!!」
「「鱧」も「鱚」も頭からカブりつくから旨いんだろうが!」
「そこか……そこをツッコムのか……」
「グラキエス様」
一人冷静にエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)が壷を手にした。
「封魔壺です。やはり封印符が赤く輝いているものと、そうでないものがあるようですね」
「封印されているものと、そうじゃないものって事か?」
「えぇ、おそらくは」
エルデネストが手にするは『ミシャンドラ』が封じられた壷。『紫銀の魔鎧』であるゼパルが封印を解くのを躊躇い、止めろと忠告した壷である。
「中身、分かるか?」
「いえ、そこまでは……」
悪魔であるエルデネストは過去に仲間を封じられた実体験を持つ。しかし彼の知識と経験をもってしても壷の中身が悪魔『ミシャンドラ』である事も、また『ミシャンドラ』と同種の悪魔が封じられている事もまた知り得なかったようだ。
「しかし、これだけの量の壷を確保したのです。戦果としては十分でしょう」
「あぁ……まぁ、そうだな」
ロアの乱入のせい……いや、発見できたのはロアのおかげか。グラキエスとしては実に複雑な心境だったが、確かにこれでマルドゥーク本隊を囮に別行動をとっていた事の言い訳にもなる。
「途中で割れてしまっては意味がありません。2つずつ持ち帰ることにしましょう」
壷の大きさはバレーボール程。重さも、さほど無い。1人2つずつを小脇に抱えるなら、城内の剣棘にもどうにか対応できるだろう。
5人で10個。封印されている壷が5つに、そうでない壷が5つ。その中には悪魔『ミシャンドラ』が封印された壷も含まれている。
大きな戦果を手に、グラキエスたちはマルドゥーク本隊との合流を目指して再び迷宮内を歩み行くのだった。
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