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死いずる国(前編)

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死いずる国(前編)

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3日目
AM7:00 接ぎ死体


 緊張と不信渦巻く中、夜が明けた。
 寝ずの番をしていた者、眠れなかった者、疲労のために睡眠を選んだ者。
 いずれにしても、重苦しい朝だった。

 それは、七瀬 歩が休憩場所からふらりと立ち上がった時だった。
「えっ……」
 何かが、いた。
 昨日まで、数時間前まで一緒に歩き、話をしていた仲間。
 彼らは、もう人ではなかった。
 その姿形さえ、人から逸脱していた。
 顔が4つ、手が8本、足は……
「お……お化け……」
 接ぎ死。
 死人と死人がバラバラになって、そして繋がった不自然な化け物。
 それが今、歩の目前にいた。
「いや、やぁあああっ!」
 一番近くにいたのは、グラルダ・アマティーだった。
 彼女は表情を変えずにちらりと接ぎ死体を見て、歩を見て、それから手元の紙を広げる。
 何か文章の書いてあるらしい紙に、目を通す。
「このケースは、ない……」
「え、ええっ」
 グラルダの感情のない声に、その内容に、助けを請おうとした歩の手が一瞬止まる。
「下がってて……くださいっ!」
「いきます」
 声と同時に、接ぎ死体の腕の一つが弾けた。
 次の瞬間、飛んだのは樹月 刀真だった。
 漆髪 月夜の狙撃に怯んだ接ぎ死体に、強烈な一撃を与える。
「あ……ア」
 頭の一つが潰れた。
 接ぎ死体は苦しげな様子を見せるが、その動きはますます激しくなった。
「頭部一つくらいでは、動きを止められませんね……!」
「きゃ……っ!」
 暴れた足(腕?)の一本が、歩の頭部を掠める。
 更に、もう一本。
 がしっ!
 それを受け止めたのは日比谷 皐月。
 隣りには皐月を守るように立つ雨宮 七日。
「あ……ありがと……」
「いいから、早く安全な場所へ!」
「は、はいっ」
 紙を手に考え込んでいるグラルダの手を掴むと、トンネルの奥へと逃げる。
 入れ替わる様に駆け付けた水無月 徹が、たくさんの腕を掻い潜り接ぎ死体の懐に飛び込む。
「こういう輩には、固まっていてもらいましょうか!」
 さざれ石の短刀を、その体に突き立てる。
「グ……」
 接ぎ死体は一瞬動きを止め、その手先がパリ……と硬化したかのように見えた。
 が。
「グァアアア……!」
「くっ、生物でない者には効きませんか」
 勢いを増して暴れる接ぎ死体に、慌てて徹は距離を取る。
「やはり、これが確実でしょう……っ!」
 接ぎ死体の意識が徹に向かった隙をついて、刀真は接ぎ死体の死角に回り込む。
 先程、頭をひとつ潰したことによってできた死角。
 ひゅ。
 ひゅ。
 ひゅ。
 刀真の持つ白と黒、二つの剣が奏でる三度の斬撃の音。
 どさり。
 どさ、どさ。
 接ぎ死体の、残った三つの頭が落ちた。