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死いずる国(前編)

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死いずる国(前編)

リアクション


3日目 別サイド
AM7:00 横須賀崩し


 その一行は、異様な雰囲気を醸し出していた。
 風貌、外見に特に変わった様子はない。
 ただ、瞳だけが異様にぎらついていた。
 それは、餓え。
 彼らは死人だった。
 死者特有の欲求、人の生気の吸引。
 まる一日、人によってはそれ以上生気を吸っていない面々は、異常な程の餓えに苦しんでいた。
 しかし、彼らにはやらなければいけない事があったのだ。

「着いた……」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)の小さな溜息。
「そうだね、美羽。これで、美羽は助かるんだ」
「美羽さんだけではありません。コハクさんも、私も。死者全員が、これで……」
 美羽の声に、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)の顔に笑顔が浮かぶ。
 彼らの前には、大きくそびえ立つ要塞、横須賀基地。
 生者の一行が死者との戦闘で足止めされている間、彼らはここに先行していたのだ。

「準備はいいかしら?」
 宇都宮 祥子が油断なく周囲を見渡す。
 辺りを警戒しているような存在は、不思議な事にいないようだ。
「ククククク、誠に遺憾なことに、まだである!」
 元気よく駄目な返事をしたのは秘密結社オリュンポスの幹部、ドクター・ハデス(どくたー・はです)
 彼以外のメンバー、天樹 十六凪、ミネルヴァ・プロセルピナ、ダーク・スカルたちは、それぞれ人集めのために各地で行動していた。
 三浦半島、横浜、房総半島でそれぞれ死人を決起させようと動く予定だったが、彼らが横須賀に来るまでにはまだまだ時間がかかる。
 それを待っていては、それまでに生者の一行がこちらに来てしまう可能性がある。
「これ以上、待つことはできないわ。やりましょう」
「む……仕方ないか」
「いよいよですわね」
「ええ」
 同人誌 静かな秘め事とイオテス・サイフォードが興奮を隠せない声を漏らす。
「それじゃあ」
 祥子が横須賀基地を見据えた。
「今から、『横須賀崩し』を始めます!」

 祥子の宣言と同時に、美羽、コハク、ベアトリーチェが横須賀基地に氷の嵐を呼び寄せる。
 たっぷりと死の風を纏ったブリザードが基地を覆い尽くした所で、祥子たちは行動を開始する。
 『機晶爆弾』で破壊したゲートから、呼び寄せた毒虫の群れと共に突入した。
(まずは、生気を吸って情報を……情報……いえ、生気を、生きた人間を!)
 彼女たちは、焦っていた。
 飢餓が、彼女たちを駆り立てる。
 まず、ひとり。
 歩哨に当たっていた米兵を、驚きに目を見開きながらこちらに銃を向けている相手を、獲物をすり抜け唇を奪う。
「ん……っ」
 生気が祥子の体を満たしていく。
 次の瞬間、祥子の体は真っ二つになっていた。
「フハハハハ! この基地は我ら死人が占拠する……ぐっ」
 ハデスの首が、飛んだ。
 次いで、手が、足が、胴体が。
「美羽、美羽うううううっ!」
 バラバラになった美羽の体を、コハクは必死になってかき集めていた。

 横須賀基地。
 今まで、餓えた死人の中にあって横須賀基地は無事保たれてきていた。
 それには、当然、理由があった。
「コームラント・ジェノサイド……」
 祥子が生気を吸いとった基地の兵士が、生気のない声で説明していく。
「殺人鬼の脳を転用し、無人機でありながら十全の力を発揮するイコン……」
 侵入者を察知し、スイッチの入ったその兵器は、死人と正者の区別も、敵と味方の判別もつかない。
 手を、足を、耳を、鼻を、ジェノサイドに切り刻まれながら、兵士は説明を続ける。
「このイコンは、死人を、人間を殲滅することに特化した武装になっている。この基地に侵入した物を、完全に殲滅す」
 首を切り落とされ、兵士の説明は終わった。

「死人の襲撃!?」
「制圧したのか? いや、まだ分からん!」
「な……なんだアレは!」
 祥子たちの襲撃、侵入は、基地内にパニックを呼び起こした。
 そこに、外部を見張っていた兵士の緊迫した声。
 正者たちが集まってくることを察知したのか、それともハデスの仲間の召集の成果か。
 ぞろぞろと、基地に死人が集まっていた。
「は、早く、早くジェノサイドを!」
「馬鹿な、あれを全て放ってしまっては、こちらの安全も脅かされる!」
「今死ぬよりマシだ!」
「そうだ。災厄は、日本国内までに収めなくては」
「しかし……あっ!」
「議論している時間はない!」
 横須賀基地内に格納されていた全てのコームラント・ジェノサイドが放たれた。
 死人も生者も、全て無差別に殲滅する殺人兵器。
 当然、基地内部もその影響を受け、生き残った人間は基地の中枢に立てこもっている。

「美羽、美羽っ、くそう、また……いや」
 破片になった美羽の体を抱き締めながら、コハクは呟く。
 その瞳には、異様な光が浮かんでいた。
 ナイフを手にすると、自分の腕を切り落とした。
 腹を、胸を、自身の体を切り裂いていく。
「一緒だよ。ずっと。ずっと、共に守ってあげる」
 切り落とした腕の有った場所に、美羽の腕を当てる。
 傷口に、それぞれ美羽の破片を。
 それは十面死と同じ。
 『接ぎ死』しているのだ。
 美羽とコハクはひとつになって、ひとつの死体として歩き出した。

「なんとかして、十面死を人工的に作成する術をだな……」
 横須賀基地占拠の後の戦力として接ぎ死について考えていたハデスの意識は、突然途切れた。
 コームラント・ジェノサイドによって彼の首が落ちたことに、彼は気づいていなかった。
「……さん、ハデスさん!」
 やけに近くに、声が聞こえる。
 それが契約者にしてオリュンポススポンサーのミネルヴァ・プロセルピナであることにハデスが気付くのに、そう時間はかからなかった。
「横浜で、死人集めには失敗しましたが、十人程度を決起させることに成功いたしましたわ」
「そうか。それで……ここは、何処かな」
 やけに視界が高く感じる。
「どこと言われましても……たくさんいますので」
「たくさん?」
「はい、私がご案内した、たくさんの死人の中です」
 そしてハデスは見た。
 ハデスの右側、はるか遠くに彼の左手があるのを。
 左手だと思っていたものは、ミネルヴァの足だった。
 胴体はどこにあるのか分からない。
 彼は、ミネルヴァと共に、たくさんの死体と接ぎ死し合って大きな死体となっていた。
「フハハハハ、これだ、これだったのだ! 十面死の作成。それは自らを接ぎ死することだったのだ! 行け、横須賀基地を制圧せよ!」
「ギャシャアアア!」
「ヤカマシャアアア!」
「シズカニー!」
「む」
「皆さん、命令するなとお怒りのようですよ?」
 ハデスの笑い声に呼応するかのように、あるいは反発するかのように。
 彼と同体になった死人たちが、口々に騒ぐ。
 ハデスを飲みこんだ新たな十面死は、ゆっくりと歩き出す。
 それはハデスの思惑とは別の方向に。

   ◇◇◇

 コームラント・ジェノサイド。
 死人。
 接ぎ死した死人たち。
 そして、ヤマ。
 生者たちの試練は、まだまだ続く。
 悪意に満ちたこの死の世界で――

担当マスターより

▼担当マスター

こみか

▼マスターコメント

 初めての方ははじめまして、もしくはこんにちは。
 「死いずる国(前編)」を執筆させていただきました、こみか、と申します。
 死と絶望の香り溢れる前編、楽しんでいただけましたでしょうか?
 前編ということもあって、まだまだ様子見されている方が多く、思ったより血みどろ戦闘な展開は少なかったかもしれません。
 各々の思惑や希望、絶望が入り混じり、執筆していてとても大変で、しかしとても楽しかったです。
 リアクションの各ページに渡って登場している方が多数いますので、ゆっくりチェックしてみてください。

 リアクションで描写した以外にも、個別メッセージで情報をお出ししている方もいます。
 今回死亡した方、死亡したかはっきりと描写されていない方にも個別にて死亡のご連絡をさせていただいております。

 それから、アクションを拝見していて思った事を。
 複数の行動をされた場合(例、潜伏している死人をあぶり出し、かつ要人警護)、どうしても一つ一つの行動が疎かになってしまうため、それをメインで行動している人には及ばない可能性が高くなります。
 一つに絞った方が成功しやすくなります。
 死人のあぶり出しに関しては、今回怪しい人がいくつか出てきたので、次回は名指しで警戒するのもアリかと思います。

 今回、予想外の横須賀基地襲撃があったおかげで、次回に出る予定だったコームラント・ジェノサイドが今回から大暴れするという展開になりました。
 他にも、生者が乗り越えなければいけない問題は山のようにあります。
 同じ様に、死者が乗り越えなければいけない問題もあります。
 それぞれの思惑を胸に、是非次回もご参加いただけましたらと思います。
 皆さまの生と死のギリギリのせめぎ合い、とても興奮するものでした。

 それでは、またどこかでお会いする機会がありましたら、よろしくお願いいたします。