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リアクション
AM7:15 不信
「この中に、排除しなければいけない物がいますな」
アルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)の発言に、どきりとしたように動きを止める一行。
シルフィア・レーン(しるふぃあ・れーん)は、アルクラントの隣でその一挙手一投足を食い入るように見つめている。
「人間が、生き延びる。その最大の目的達成の為に、討たなければならない物がいる」
誰もが、考えていたこと。
この中に潜んでいる死人の排除。
しかし、どうやって?
「私は、見ていた。体温でも治癒状況でもなく、ただ人の行動を、発言を、矛盾を。その結果、怪しいと思う人物を数人絞り込んだ」
アルクラントの言葉に息を飲む面々。
全員の視線が集まる中、アルクラントは口を開く。
「それは……」
「『アルクラント・ジェニアス』じゃないのか?」
アルクラントの言葉を止めたのは、玖純 飛都だった。
「どういう意味かな?」
「言葉の通りだ。オレの目には、お前は今ここで死人を特定すると見せかけて混乱を招いているように見える」
アルクラント厳しい視線をも受け止め、あくまで冷ややかな言葉を返す。
「そんな……っ」
反論しようとするシルフィアをアルクラントは押しとどめる。
「その根拠は? どの行動が発言が矛盾が、私を死人と判断する材料となったかな?」
「今、この状況こそが全てだ。ジェニアスだけではない。オデット・オディール。彼女もまた危険分子だと、オレは見ている」
「え……ええっ」
「ちょっとぉ、聞き捨てならないわねえ」
突如名指しされて混乱するオデット。
フランソワ・ショパンはそんな彼女を守る様に肩を抱く。
「この子のどこが怪しいっていうの?」
「そんな……私、わたし……」
「そうだ。私が見た限りでは、彼女に怪しい所はない」
アルクラントも擁護する。
「彼女は、ごく普通の人間と同じ様に怯え、考え、そして前に歩もうとした。彼女に怪しい所はない。むしろ……」
「仲間同士で庇いあいか?」
「違う」
「どうして、そんな……」
「おいおい、内輪揉めかぁ? ちょっと頭を冷やした方がいいぜ?」
「むしろ……彼だ」
「はぁ!?」
のんびりと、他人事の様に茶々を入れていたアキュート・クリッパー。
アルクラントの指は、真っ直ぐ彼を指していた。
「ルートを決める際、彼は常に安全な、そして迂回するルートを選択していた。自分の食事となる生者の確保が目的だったのだろう」
「はっ、馬鹿言っちゃいけねえ。仲間を思い遣っての助言がそんな具合に歪んで受け止められるとはな」
アルクラントの指摘を鼻で笑ってみせる。
「そして、瀬山 裕輝」
「おうふ!?」
突然、名前を呼ばれて咥えていたストローから大量の水を拭き出す。
「くくく、バレてもーたらしゃーないわ。オレこそが死人……ってそんな訳あるかーい!」
どんな時にもノリツッコミを忘れないネタ魂。
ばしっとアルクラントにツッコミを入れようとして、本気で避けられる。
「全くノリ悪いわー……ん?」
アルクラントと裕輝の間に、『それ』はふらりと割って入った。
『それ』の名は、ラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)。
何も言わず、何も望まず。
ただ、アルクラントと裕輝を刺した。
「ぐっ……!」
「おわっ……!」
「あ……アル君っ!」
「窶ヲ→ヲ縺薙s縺ェ隧ウ邏ー縺ェ隗隱ャ●呈嶌縺※」
その口からは、意味不明の言葉が漏れ続ける。
二人の腹から流れる血のように。
「だ、大丈夫ですか! 今治療を……」
崩れ落ちる二人に慌てて駆け寄る冬蔦 日奈々。
致命傷ではなさそうだ。
「待ちなっ!」
混乱の最中、フラフラとその場から離れようとするラムズを、鋭く止める声。
「こんな事しでかして、ただで済むと思ったかい?」
既に臨戦態勢の緋王 輝夜だった。
「◎繧薙↑縺ッ縺壹窶ヲ窶ヲ」
輝夜に向かって、時空の果てから矢が飛ばされる。
輝夜の体を貫通する! と誰もが思った瞬間、彼女の体が歪む。
それは実体ではなかった。
ミラージュによって生み出された彼女の幻影。
「こっちさ!」
輝夜の得物が、ラムズを斬りつける。
「縲ゅ∪っ!!」
堪らずラムズはその場から走り去った。
場は、混乱していた。
「ここは、危険です! こっちへ!」
「あ、ああ……」
紫月 唯斗が、ハイナの手を取って人の少ない場所へと導く。
「ハイナは、俺が守りますから」
「か、感謝するでありんす」
騒動の煽りを受け、混乱したのか荒い息のハイナ。
その肩を、落ち着かせるようにゆっくりと抱く。
「休みな。今だけは……」
「むぅ……」
唯斗の唇が、ハイナの顔に近づく。
刹那、唯斗の唇が歪む。
その時が来たと思われた瞬間。
「さ、せるかぁああああ!」
銃声。
駆け付けたのは、国頭 武尊と東 朱鷺、第六式・シュネーシュツルムだった。
「この状況下でハイナ校長を連れ出すのは、危険行為だと判断しました」
腕を組んだまま、名乗りを上げる朱鷺。
「葦原明倫館の東朱鷺。この場は、引いてもらいましょうか。朱鷺を怒らせたくはないでしょう……って」
唯斗は、聞いていなかった。
聞くはずの耳は、目は、既に武尊の攻撃によって砕け散っていた。
「ちょっと……」
「こいつは、クロだ。根拠は、俺の勘」
武尊は言い切った。
「しかし」
反論しようとするハイナに、武尊は続ける。
「奴はハイナの生気を吸いとろうとしていた。それに、こいつの体温は、最初計測した時より大分低下してきている」
そうでなくても、怪しい素振りの奴は殺されて当然だとの武尊の言葉に、共感した者は少なくなかった。
当初より、かなり。
危険が近づいていたのは、ハイナの周囲だけではなかった。
「は、は、は……っ!」
「きゃあっ!」
混乱に乗じて理子に、彼女の持つ宝珠に襲い掛かったのはルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)だった。
と、次の瞬間理子の周囲にたくさんの影が立ち上がる。
瀬島 壮太のものだ。
2体の影は、ルースに攻撃を仕掛ける。
「理子さんも、宝珠も、俺が守る!」
「貴様の殺気、先刻承知だ!」
「あわ、あわ、と、とにかくやるっきゃー!」
酒杜陽一、フリーレ・ヴァイスリート、酒杜 美由子も理子を守って構える。
4人の攻撃に、さすがのルースも手が出ない。
ならば宝珠だけでも……と、狙いを定めようとした時。
「これを! 横須賀に持って行ってーっ!」
ルカルカ・ルーの声。
続いて投げられる小さな鞄。
受け取ったのは、ルカルカの声に身構えたカルキノス・シュトロエンデ……ではなかった。
「もらった!」
「……!」
神宮寺 翔と櫂と名乗る新聞記者の兄弟だった。
櫂の手には、ルカルカの投げた鞄。
そのまま走り去る二人。
しばらくして、二人が向かった先から、ぼん、という鈍い音が聞こえた。
「あ……」
それが何の音か気づいたルカルカの瞳に憂いの色が広がる。
さっきの人たちは、本当に死人だったんだろうか……
「気に病むな。どちらにしても、敵だ」
慰めるでもなく、ダリルが告げた。
それと同時に、壮太のワイヤーによって動きを封じられたルースは、クローラ・テレスコピウムによって首を跳ねられた。
「ははっ! 死んでも生きていられる……最高だぜええっ……!」
跳ねられたルースの首は、嬉しそうに歪んでいた。
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