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リアクション
13
授業は休み。
外は晴れ。
お小遣いだって、いっぱい溜まっている。
「じゃ、行こっか」
支度を終えたネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)は振り返って声をかけた。
「はいー」
「いつでもいいよっ」
元気よく、パストライミ・パンチェッタ(ぱすとらいみ・ぱんちぇった)と樹乃守 桃音(きのもり・ももん)が答える。
「でぃあきゅんは?」
ひとり、返事のなかったディアーヌ・ラベリアーナ(でぃあーぬ・らべりあーな)に目をやると、何やらメモを書いていた。ネージュの呼びかけに顔を上げたディアーヌは、「もう少し」と言ってまたすぐに紙に視線を戻す。
一分ほどして、ディアーヌはペンを走らせた紙をポケットに忍ばせて立ち上がった。
「大丈夫」
「うん」
頷いて、手を取った。
四人揃って仲良く向かうは人形工房。
目的は遊びに行くことではなくて、お人形の作製依頼。
「こんにちはー」
声をかけると、丁度一区切りついたところだったらしいリンスがネージュたちを見た。こんにちは、と抑揚の薄い声が返ってくる。
お人形、とそわそわした様子の三人の背中を押して用件を伝えられるように促してやると、パストライミが一歩前に出た。
「お人形がほしいんですよー」
「どんな?」
要望に、リンスはしゃがんで目線を合わせて質問を返す。
「ボクも。ボクもお人形がほしい!」
が、待ちきれなかったらしい桃音が飛びつくようにして言った。
「順番ですよー」
「でもでも」
「人形師さんは逃げませんー。だから、みーんな作ってもらえますよー」
「うー。わかった、待つよ!」
パストライミと桃音がやり取りする最中、ディアーヌは気後れしてしまい、そわそわしていた。様子から察したらしいリンスが、「きみも?」と問いかける。
「はい」
「じゃあ、みんな一緒に注文だね。あっちで希望、聞くよ」
大きなテーブルを前にして、三人がそれぞれ希望を伝える。
「わたくし、自分そっくりのお人形がほしいんですー」
との希望は、パストライミのものだ。
「出来るだけ、じぶんそっくりで可愛くて、ぎゅっと抱っこできるぐらいの大きさがいいのです」
彼女は、じぶんに出来ないことをその子にさせたいのだと言った。『もうひとりの自分』として。
「わたくしが気になった服とか、着せたいんですー。そうすればわたくしも着た気分になれそうですよねー」
落ち着いた様子で淡々と、特にはしゃいだりもしないで彼女は伝える。
わかりやすかったのか、リンスから質問が来ることもなくすんなりと次へ進む。
人形の部品を選び、大体の大きさと最初に着せてあげる服のデザインが決まったところで終了。
「次はボクっ!」
口を挟まずいい子にしていた桃音が、待ちわびたように大きな声で言う。
「ボクの希望は、未来のボクの姿なんだ。すらっとしていて、さらさらの長い髪が綺麗で、垂れた耳と大きなもふもふ尻尾が可愛い、そんな姿」
桃音は、夢想する少女のように遠くを見ていた。未来の姿を思い浮かべているのだろう。
「未来のボクって、どんな格好になってるんだろう?」
どんな服が似合うのかな。
アクセサリーをつけたりしてる?
靴は?
桃音の想像は、次から次へと希望となって口から紡がれた。身振り手振りを交えた様子は、一生懸命で可愛くて、ついついネージュは笑ってしまう。
「おねえちゃん?」
「ホント、可愛いね」
「だ、だって! せっかくだから、お願いをみーんな伝えなくちゃいけなくて……!」
「それが、可愛いの」
「うー……。と、とにかくそんな感じなんだ。よろしくお願いします!」
最後にぺこりと頭を下げて、注文終了。
三番手はディアーヌだった。
「えと……」
消え入りそうな小さな声に、ちゃんとひとりで言えるかな、とネージュは心配したが、それは無用だったようだ。
「ボクも、自分そっくりのお人形がほしいんです……」
希望を書いた紙を見ながら、ぽつりぽつりゆっくりと、だけどしっかり自分の希望を自分の言葉で伝えていく。
「大切な人に、プレゼントしたくて。離れていても、いつも一緒だよって……そんな想いを込めたいんだ」
だから、ありのままの姿をそのまま、お人形にしてほしい。
こだわりを伝えるうちにちょっぴり興奮してきてしまったようで、ディアーヌの頬は赤く染まっていた。だけど言葉は力強くなっていく。それがおかしくて、当事者たち以外はみんな笑っていた。
「だからだから、えっと……」
「でぃあきゅん、一回休んで」
口が回らなくなってきたディアーヌに、ネージュは水筒に入れて持参したハーブティを渡す。
「あ、ありがとう、ねじゅお姉ちゃん」
両手でグラスを取って、こくこくと一息に飲む。
「ミントがすーっとする」
「頭、しゃっきりしたみたいだね」
飲み干して顔を上げたディアーヌの表情は、さっきよりずっときりっとしていて。
これならきっと、ディアーヌの魅力をぎゅっと凝縮したお人形が出来上がるだろうな、と思って嬉しくなった。
三人がそれぞれ希望を伝え終え、一段落したのでネージュはお茶とお菓子を振舞った。
リンスやクロエにだけじゃなく、工房に来たお客様にも分け隔てなく。
「リンスさん、おかわりいる?」
グラスの中身が空になっていることに気付いて声をかけると、
「フロウは?」
反対に、疑問符で返された。
「何が?」
「オーダーあったんじゃないの」
あっ、と思わず声が出る。みんなの後でいいや、と考えていたら忘れていた。
「はい」
反応を肯定と見て、リンスがネージュに発注用紙を渡す。希望を書けばいいらしい。
「ありがと。よくわかったね」
「なんとなくね」
なんとなくでわかるものなのか、すごいなあと感想を抱きながら、用紙にペンを走らせる。
書き終えた紙を渡すと、今更ながらどきどきした。
どれくらい先になるかわからないけれど、あの紙に書いた希望が形になるんだ。
「楽しみだなぁ」
「うん」
「待ってるね」
微笑みかけると、表情の変わらなかった彼が少しだけ笑ったように見えて、なんだか楽しくなった。
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