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なし

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そんな、一日。

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そんな、一日。

リアクション



16


 六月に入り、そろそろ質のいい天然物が出る時期が近付いてきた。また、夏休みシーズンも近付いていることだし、これからに向けてカエルパイのキャンペーン準備を始めるべきだとブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)は考える。
「ケロッPちゃんの妹キャラを設定しようと思うの」
 呟きに、橘 舞(たちばな・まい)が顔を上げた。
「ケロッPちゃんの、妹……?」
「そう。妹。起用だけど頼りない兄のケロッPと、しっかり者の妹」
 思いつきを言葉にした瞬間、イメージが膨れあがる。
 ケロ国の王族であるふたりは、子供の夢を守るために人間の女の子のところにやってくる。こういう、少しのファンタジー要素は結構、子供向けだと思う。
「どうかしら? 何か他にも面白い考えがあったら言って。取り入れるから」
「えっと、その前に。ケロッPちゃん、男の子だったんですか? 初耳です。私、ずっと女の子だと思ってました」
「初耳なのは仕方ないわね。今思いついたんだもの」
「あ、そうなんだ。なるほど、それならわかります」
 わかるの? と首を傾げる。毎度のことながら、舞の判断基準はよくわからない。
「だって、敬称が『ちゃん』だし。男の子なら『くん』でしょう? あっ、じゃあこれからあケロッPくんと呼ぶべきでしょうか?」
「もうケロッPちゃんで商標登録してあるし、そのままでいいわよ」
「えっ、してあったんですか、商標登録」
「抜かりないわ。妹キャラもデザイン考えて、登録しなくちゃね」
 まだ舞が何か言いたげにしていたが、気に止めないで出かける支度を始めた。デザインを考えるなら、工房でやりたい。あそこでならリンスやクロエに意見を仰げるし、完成したらそのまま発注ができるから。
「ならわらわたちも同行するかの」
 出かける直前、金 仙姫(きむ・そに)が言った。ちゃっかりとお出かけスタイルに切り替えている。いつから聞いていたのだろう、何も言ってこないから興味がないと思っていた。
「アホブリのことじゃ、リンスらに無茶振りをして迷惑をかけるやもしれぬ。先んじて菓子折りを用意しておかねばの、舞?」
「そうですね。ではフィルさんのお店でケーキを買って行きましょう。ティータイムにもいい時間ですし」
 仙姫の言葉にあっさりと頷いてしまう舞も大概失礼だ。ため息を吐き、舞の支度を待つ。


 工房に着いてしばらく、真っ白な紙とにらめっこを続けた。
 設定はだいぶ詰められたのだが、肝心のキャラ案が上手く思い浮かべられずにいた。
 購買層のことを考えると、小さな女の子が好むデザインにしたいのだが。
「……って、クロエちゃんがいるじゃないね」
 小さな女の子、ならまさに。
「クロエちゃんに訊くんですか? いいかもしれませんね」
 買ってきたケーキの準備をしながら、舞が言った。
「リンスさんのデザインセンスも一流だと思いますけど、子供向けデザインとなると、やっぱり一般の人の感覚というのですかね。そういう視点からの意見も必要でしょうし」
「それに、素人のクロエに見習うべき点も多々あるように思えるしの」
 舞の意見に合わせて、仙姫も言葉を足す。そうよね。ブリジットは頷いて、クロエを手招きする。
「ねえ、クロエちゃん」
「なぁに?」
「この子のデザイン考えてるんだけどね。クロエちゃんの意見が聞きたいの」
「いけん」
「よかったら協力してもらえますか?」
 クロエの前にもケーキを差し出し、舞が言う。美味しい紅茶も淹れてきますよ、と言うとぱっと顔を明るくして頷いた。
 ほどなくして面々の前には紅茶が並び、ティータイムを楽しみながらのデザインが開始された。
 クロエの意見を大本に、ブリジットがわかりやすくまとめ、そのままリンスに流す。と、リンスはイメージ通りのデザインを描く。
 出来上がったデザインを見て、さらに意見を出し合って。
 繰り返すこと数回、満足のいくデザインが出来上がった。
「ありがとう、ふたりとも。これで注文するわ」
「どういたしまして。ねえ、この子名前あるの」
 受け取ったリンスのふとした一言で、まだ名前をつけていないことを思い出した。彼女はケロッPちゃんの妹。ならば。
「ケロエちゃん」
「ケロエ……じゃ、と」
 ブリジットの発言に、仙姫が席を立つ。それまで座っていた椅子が、床と擦れてがたんと音を鳴らした。
「何よ、驚いちゃって」
「紛らわしいじゃろ……それ」
「紛らわしいって……あ」
 隣に座るクロエを見て、ブリジットは仙姫の言いたいことを察した。確かに、紛らわしいかもしれない。
「それになんじゃ、その設定。家にいるときから思っていたがの、魔法少女モノの魔法生物キャラみたいじゃろ。そういうのが子供にウケるとは思えんがのぉ……」
「じゃあどんなのがいいっていうのよ。否定的な意見するなら改善案も提示してほしいわね」
「うむ、確かに。ではクロエ、何か意見はないかの」
「ええとねぇ――」
 こうして。
 設定にもクロエの意見は採用され、名前は敬意を払う意と共に『ケロエちゃん』で決まり。
 いよいよ販売されるのは、七月上旬予定とのこと。