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そんな、一日。

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24


 地球。
 海を臨める公園に、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は立っていた。両手に抱えきれないほどの花束を持ち、伏目がちに海を見る。
「ねぇダリル……。満足のいく死って……どういうものなんだろうね」
 自分でも驚くほど哀しい色に満ちた声で、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)に問いかけた。一歩後ろにいた彼は、隣に並んでルカルカの頭を撫でる。返答はなかった。求める答えは返せないと判断したのだろう。
 パラミタ大陸と地球を繋げた男――石原肥満。
 彼が逝ったのは、少し前のことだった。
 世界は未だ危機的状況に置かれ、一切の予断を許さない。軍務の合間を縫って墓参りできるのは、今しかなかった。
 石原肥満の墓のありかは以前から調べさせていた。まさか、経済界の実力者に墓がないのはありえないだろうと。
 しかし結果はNOだった。アトラス大荒野やパラ実校舎跡はおろか、地球にあるであろうと予測された石原家代々の墓すらも。
 なので代替的に、2009年にパラミタと地球を繋いだ『繭』があった場所に一番近いここ、臨海公園へと来ていた。
 『繭』の浮かび上がった場所を見据え、ルカルカは花束を捧げる。
 線香をつけ、好みそうなお供え物を花束の脇に置き、合掌、拝礼。
 手を合わせ、故人の冥福を祈ると同時に石原肥満との記憶が思い出される。
(私……ううん、私だけじゃない。私たちと貴方は共に戦い、パラミタと地球を繋げた――)
 遥か上空の大陸でルカルカたちが暮らしているのは、石原肥満の賜物だ。昭和の時代から黙々と続けた、彼の、努力の。
 ふたつの世界を救うという石原肥満の志は、大勢の人たちが継いでいると彼女は思う。こうして墓参りをしている、ルカルカ自身にも。
 最初は、ちょっと遠い話に思えた。夢物語のようなものだと。
 だけど、今は違う。
(今でもあの時、女王器の勾玉を通して注いだ力の感覚を覚えてます。
 世界が絆を結ぶ感覚と、出現してくるパラミタのヴィジョンも……)
 その、世界を繋ぐひとつの力になった経験。
 アトラスに代わって、しばらくの間パラミタ大陸を支えた経験。
 それらが教えてくれたような気がするのだ。
 ふたつの世界と自分との繋がりを。
 それを救うとはどういうことなのかを。
(ありがとうございます。
 ゆっくりとお休みください。
 そして、見守ってください)
 祈りを終え、目を開ける。太陽の光が眼球を刺した。眩しさに目を細めることなく、ルカルカは海へと敬礼を捧げる。


 石原肥満に対し、ダリルが強く記憶しているのは彼の強い瞳の光だった。
 どんなに世間に受け入れられなくとも、ただひとつの目的のために生きる。
 決意と信念を秘めた目は、強く、気高いものだった。
 とはいえ、世界は個人で背負うには重い。
 彼は、どのような思考と苦悩の果てに、その壮烈とも言える生き様を選択したのだろう。石原肥満といえど、最初からそれのみを考えていたわけではあるまいに。
 ダリルの問いに、今となっては答えられる者はいない。それが残念で、仕方がなかった。
「……さってと」
 海へと敬礼を向けていたルカルカが振り返る。普段よりもいくらか頼りない笑みを浮かべて。見ていることが苦しく思えて頭を撫でる。
「なーによ」
 くすぐったそうにルカルカが笑った。撫でるのを止め、「他意はない」さらりと答える。するとまた、ルカルカはくすくすと声をひそめて笑う。
 ダリルが歩き出すと、ルカルカが隣に並んだ。腕を絡めてくるのは、普段のスキンシップか。それとも。
「……せっかく地球に来たのだから、押上まで行って東京を一望していくか」
「えー? ダリルからお誘いなんて珍しいわね」
「そんなことも、たまにはある」
「じゃ、エスコートされちゃおうかなー」
 腕を絡めたまま手を繋ぐ。
 この時期なのに指先は冷たく、ダリルは温めるように強く握った。