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第四師団 コンロン出兵篇(第1回)

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第四師団 コンロン出兵篇(第1回)

リアクション

 
 
 場面は、一気に飛んで別の街の酒場――ヒクーロである。
 酒場と言っても、街の裏街の裏にあるような酒場であるが……怪しい柄の悪い連中が屯ている。
「教導団が侵略している、アイツらはコンロン全土を支配するつもりだぜ?!
 ヒィーハ!」
 緑と赤、ツートンカラーのピエロ姿が、酒をあおりつつ男どもにまくしたてている。
「いいか、すでにおまえらのキライなクィクモは教導にシッポふったぜ!
 雲海の雲賊連中はなァ、教導に襲撃されてオトコハオカサレ、オンナハコロサレタ! ヒィー、ハァ!! ん?」
「な、男も犯されるのか。教導団にはその手のやつがいるってのかよ……ぞくっ」「捕われたくねぇ」
 
 表通り。
「ここがヒクーロでありますか」
「ばーったばった♪ ばったのマークのバッタ寿司〜♪」
 こちらは、ヒクーロの街に潜入した孔中尉と真白雪白。
「見た感じは、クィクモの街とそう変わりもなく、そう荒れている様子もなく、でありますね」
「じゃあ、ワタシは、早速さらわれていきますね! よし。ギュスターブ。早くワタシをさらって!」
「え。あ、ああ……」真白のドラゴニュート、アルハザード ギュスターブ(あるはざーど・ぎゅすたーぶ)は困った顔をする。別にさらうシーンからやらなくても……。
 「推測通り、盗賊行為で生計を立てているやつらのいる街なら、人身売買を請け負う闇商人もいるはず。ギュスターブには法外な値段をふっかけて売るのを渋ってもらわないとね」真黒 由二黒(まくろ・ゆにくろ)も真白と一緒に、さらわれる。「さあ、早くさらって!」
「よ、よし。じゃあ、さらうぞ。いくぞ」
「Ok! きゃぁ〜誰か〜」「きゃぁー」
 真白と真黒はギュスターブにさらわれてヒクーロの裏町へ消えて行った……
「ちょ、っ……真白ちゃん、大丈夫でありますかね? やっぱり、一緒に行くべきだったかも……」
 もちろん、すでに軍服は脱いで各々の格好に扮して街に入り込んでいる。
「ううっ。この格好、着慣れないのであります……」
 孔は、何となくな商人ふうを装ってはいるが、
「孔には商人の真似などできそうもないので、そこはほわんに任せるパンダ!」
 ハッピに鉢巻という、祭りの出店ふう商品の格好と、より意思が明確に現れており気合が入っている、ほわん ぽわん。
「アイヤー、チューゴク三千年の歴史である射的を持ち込むために来たのパンダよ! きっとこの国ではナウいヤングにバカ受けするのでパンダぁぁ!」
 
 再び、酒場。
「ナガンだけじゃない、他の地域でも対教導で独立しようって動きがあるぜ?」
 ナガン、とピエロは名乗った。ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)
 ナガンはそう言って、同じパラ実の国頭武尊、夢野久のことを頭に浮かべる。
「ふむ」「そうだなぁ」
「しかし、それならヒクーロの親父の力は借りれた方がいいなぁ」
「親父?」
「ああ。ここの軍閥の長のことだが」
「フフーン。おまえら、軍閥とはつながってんだな?」
 ヒクーロの軍閥を対教導の味方にできれば、大きいぜぇ。ナガンはほくそえんだ。
「いや。親父は、義賊には力になってくれんだ。すべての雲賊をやつに協力的かというとそうではねえ」
「どういう基準があんだ? フーム。義賊ねぇ」
 そこへ……
 武器商人らしい者が入ってくる。
「見ねぇ顔だな。武器商……しかもドラゴニュートか。おい!」
 がたいのいいドラゴニュートは、にっと笑いこちらを向く。
 ドラゴニュートは、絡んできた男どもに、こういう品が入ったのだがどうか、と数点武器を取り出す。
「こ、これは。ほうー……随分性能の良い武器じゃねぇか」「いいぜぇ。おうドラゴニュート商人。どこで手に入れたんだ。けっこうやばいことをしたんじゃねえのかい」「はははは!」
 それに対しドラゴニュートは、教導団、と答える。
「な、何。教導団から?」「おうおう、ともあれよぉ。これはちょうどいいんじゃねえかあ」「はっはぁ。おうおう、ドラゴニュート。貴様、教導団の情報を何か知っているか。色々と説明してもらおうか」
 ドラゴニュートはしかし、そこをこれだけではないとばかり背中のリュックを下ろし、広げた。
 中には、小学生ほどの少女二人が詰められていた。
「ばーったばった♪ ばったのマークのバッタ寿司〜♪」「ぱんつははかない主義なの」
 一同、「…………」
 人身売買とは。しかも小学生とは。しかも、ぱんつははかない主義なのとは。
「おい」「へへへ……」「待て。手は出すな。そいつを使って、事を上手く運べやしまいか。おいピエロ、何か手はないか」
「ヒーハ……」
 更に……
 ドンッ。と勢いよく酒場の扉が開く。
「女……?」
 それに、黒猫一匹。
「おいおい嬢ちゃん。ここは嬢ちゃんのような可愛娘ちゃんのくるところじゃないぜ? ミルクなら、表通りにあるぜ」
 しかし彼女は入ってくるなり、
「おまえらが雲賊か。
 まったく、雑魚が群れを作ってやがるぜ」
「はぁ?」「何だと」「ごるぁぁ」
「私の名前はミューレリア。みずねこ王国の王女さ」
「な、何だ」
「ヘボイ雲賊どもが空の滝の魔物に怯えて雲賊なんかやってるって言うから、一肌脱いでやろうと思ってここへ来たのさ」
「何だとぉ」「ああ、脱いでもらおうじゃねえか!」「脱げ! 脱げやぁぁ」
 男たちは、今にも飛びかかりそうである。
「ヒーハ……んだこの展開はァ?」
 その後ろで、ピエロ。
「どうする真白。今のうちに、逃げるか」ドラゴニュート商人が品物の女の子に聞く。「ううん♪ もう少し様子を見るよ」
「魔物に怯えているチキン賊どもに活を入れてやろうってな……っと」
 ミューレリアと名乗った女子がそう言ったところで、男の一人が襲いかかった。
「ん? 流石に怒ったか」ミューレリアはそれをさっと交わし、続ける。
「へっ、それならかかってこいよ。腕に自信のあるやつからな。返り討ちにしてやるぜ」
 三人の大男が取り囲み、酒場にいた三十人ほどが、席を立って観戦に来る。
 ピエロがぼそっと言った。「おい、あいつはヤバイ。教導を相手に一人で大暴れした女の賊だ。早くさっきの子どもを買い取って、アジトに帰った方がいいぜ」
「な、まじか」
「やばい……ギュスターブ」「う、うむ」
 ドラゴニュート商人は子どもをリュックにしまいこんだ。
「おい、どこへ行く?」「あっ。ピエロ、商人がどっか行くぞ」「ヒィーハァ!」
 どっ。店の中央では激しい音が飛び交い、ミューレリアと男どもの喧嘩が始まっていた。最初の一人が投げられテーブルの料理や酒をぶちまけて、大騒ぎになる。別のグループとピエロが武器商人を追って走り回る。「ヒィーハァ!」
 魔鎧リリウム・ホワイト(りりうむ・ほわいと)をまとったミューレリアはその効果、銃舞で踊るようにステップを踏んで男どもの拳を交わす。
「おう、もう怒ったぜ!」
 男が拳銃を取り出し、ぶっ放した。
「いいぜ、そうくるなら!」
 ミューレリアは二丁拳銃を抜く。
 店は大混乱になった。が、やがて男どもが叩きのめされ床にへたりこんだ。
「な、何て女だ……」
「これが私の実力ってワケだ。わかったら本題に入ろう。
 今、このコンロンでは大きな争いが起きようとしている」
 溢れ出る魔物。ヒクーロにちょくちょく姿を見せるようになった飛龍。勢力を広げる夜盗、亡霊……
 ヒクーロの者たちもその予感に感づいてはいる。
「それを乗り越えるには、より大きな力が必要だ。だから私は雲賊の協力を得たい。空に慣れてるアンタたちのな。
 ただで協力してくれとは言わない。空の魔物を倒して、ヒクーロの街を救ってみせよう。あんたら、ヒクーロとつながってんだろ? なら、悪い話じゃないはずだ」
 その場にいた者たちは、ざわついた。
 勿論、雲賊もいる。賊と関わりあっている者もいる。そういう裏の酒場だ。
 ずる賢い者もいる。この女の力を利用できればと考えたかもしれない。
 そして、ヒクーロと雲賊の結びつきとは実際のところどうなのだろうか。
 
 ナガンは、酒場を出た数人の賊どもと、アジトへ向かっていた。
 結びつきはある。しかし、軍閥の力を得るにはどうすればいい。とりあえず、自分たちだけでやってみるか?
 
 雲海の賊どもが、幾つかの思惑のもとに、動き始めた。