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第四師団 コンロン出兵篇(第1回)

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第四師団 コンロン出兵篇(第1回)

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 暗い内海を行く船団……クィクモからミカヅキジマに向かう。
 コンロンを包みこむ闇のためなのか、静かである。そんな中、各艦で行われている訓練の声や音だけが響いている。無論、各艦、警戒にも余念がない。

「ぬぉわははははははは!」
 新星では青 野武(せい・やぶ)ら一行が、輸送任務の艦に初回の往復から最終の往復に至るまでの全回同乗し、警戒を行う。
「うむ、香取、おぬしの書いたレポート、なかなか役に立ったぞぃ。ぬぉわははははー」
 そらから、
「むふふ……この階級章……」
 昴 コウジ(すばる・こうじ)は、陸路を率いた際に、少尉称号を授けられた。
「このちっぽけな装飾一つで、兵卒が僕のことを「殿」付で呼ぶ。ああ、まさに今、統制された力の一端に浴しているのだ!」
 と言いつつも、ついうっとりとする昴。周囲の兵たちがいぶかしく昴を見ている。
「……いかんいかん。預かった職責に相応しい振る舞いをせねば! キリッ!」
 昴は、各兵員の指揮向上と訓練に努めるのであった。
 とりわけ、昴は仮想敵として龍騎士が考えられるためとし、対空戦闘訓練を徹底させた。少数の隊を機敏に動き回らせること、より効果的な対空射撃を行うこと。など。
「なに、狭い艦内をバタバタ走り回るなだと?
 こまけぇこたぁ……いや、これは宿敵の言ではないか! すまん!」
 獅子における訓練の担当は勿論、ルカルカたちだ。昴が新星らしい兵との統制された連帯感を高めている一方、ルカルカはルカルカらしく、兵たちと親しく付き合い、親交を深めることで連帯を高めていたと言える。ルカルカもこの出兵で少尉となったが、彼女は一切偉ぶることなく、しかし自らの兵のことは可愛く思い損傷を抑えるべく訓練を行った。
「早く真一郎さんと会いたいな♪」
 恋人の鷹村真一郎少尉が、これから向かうミカヅキジマにすでにいる。
 今度はそっと抱きしめようとグッと拳を握り決意。以前も、戦地で再会した際、ルカルカの戦闘能力の高さの故、抱きしめた際に何が起こったか……思い出し、しかし恋人への思いに少し赤面する。
 鋼鉄の獅子の参謀であるダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)と、それにカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)は並んで航行するクィクモの船ともよく連携を取っていた。
 共に行くこととなることが決まったクィクモの兵らに真っ先に接触し、彼ら軍閥の特徴や、風土から特産物まで雑談を交わし親交を交わした。
「どんな種族のどんな民族のいるどんな土地か、考えるだけでワクワクしねぇ?」
 カルキノスはダリルに言う。
「国、じゃないのか?」
「国なんざポコポコできては消えるが、土地は在るし民族は残んぜ。
 お前のシャンバラだって、国家神が消えたらアノザマだったじゃねーか」
 そう言ってカルキノスはわはは、と笑うが、妙な間が空いた。
「……」
「あ、悪い悪い」カルキノスは悪びれない様子でごまかす。
「とにかく、各軍閥を知ることは重要だ。引き続き頼む」
 とだけ返すダリルの頭をわしわしとするカルキ。「怒るなよ、な?」
 クィクモの船には、教導団員も乗船しており、前の章で触れたとおり、曖浜少尉と比島少尉である。曖浜少尉が警戒にあたり、比島少尉が訓練を担当する。戦乱と言ってもここ百年単位では小競り合いがときどき起こっていた程度で、クィクモの兵はそう錬度が高いわけではない。
 比島少尉のドラゴニュートサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)は訓練の合い間に海を見て、「今回のコンロンへの出兵、エリュシオンの影もちらちらするが、本国であるシャンバラが安定しない状況で出兵し、コンロン軍閥やおそらく帝国とも事を構えるのはどうかという思いもあるんだ。とはいえ、コンロンが完全に親帝国の軍閥だけになるのも色々と不都合が生じる。手をこまねいて見ているだけにはいかねえんだよな……ってジレンマさ」と考えにふけっている。
 旗艦においても、ローザマリアがとくに上空への警戒を指示していた。
 また、旗艦における訓練は他とは異なり、海軍特有のものであることが窺われた。訓練を実施しているのは、霧島 玖朔である。彼は、艦の小型艇ヘリファルテを運転し、パートナーらとまずは操縦に慣れた上で、海上スレスレからヘリファルテに搭載した爆弾を魚雷のように投下することを試みた。反跳爆撃、の訓練である。爆弾と言っても、爆弾に見立てたドラム缶を使用した模擬爆弾である。霧島の運動能力をもってして可能であったことと言えるかもしれない。
「むー? これが、本当に乾坤一擲の作戦につながるのかのー?」
 ローザマリアの指示に従い、同じく訓練に立ち会うグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)
「ぅゅ。あとは実践ができれば言うことなし」
 エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)は軽くそう言うが……
「そんなに簡単に、上手くいくものであろうかな。安全に、ミカヅキジマに着くのがいちばんだと思うが……」
 やはり、そうも言っていられない、というわけか。
「むう。来たか?」
「ぅゅ」
 内海の遠くにかすんで見える、妖しい灯かり。少しずつ、近付いてきているようである。
 旗艦に付随してきている湖賊艦の一隻を率いているのは、夏野 夢見(なつの・ゆめみ)であった。
 点々ほどの大きさから、段々大きくなってくる灯かりを見つめながら。灯かりは近付いてきても尚、ぼんやりした灯かりだ。
「ちょっと疲れちゃった」
 内海に、釣り糸をたらしている。
「えっ」
 灯かりだけじゃない。船影?
「休んでられないね……」
 内海を漂う幽霊船だ。こちらの小型艦程度の大きさだが七、八隻いるようだ。
 訓練を行っていた各艦、そのまま実戦に入る。
 敵が現れるや、青 野武は、黒 金烏(こく・きんう)シラノ・ド・ベルジュラック(しらの・どべるじゅらっく)青 ノニ・十八号(せい・のにじゅうはちごう)らとトナカイに乗ると一斉に緊急発艦。総員で囮になろうというのだ。
「敵か! おお、青殿!」
 昴コウジは兵らを指揮し、甲板に銃を構えた兵が並ぶ。
 昴はニヤリと笑んだ。青たちのトナカイに翻弄され、敵艦(幽霊船)は早速横ががらあきだ。
 格好の実戦訓練……集中砲撃の的にしてやる。
 昴はびしっと手を挙げた。
「構え!
 狙え!
 撃て!
 挙動は少なく、しかし確実に行うのだ!」
 ふふ、ふ。面白いように命中するわ。びしばしと敵艦に穴が開く。これは脆い!
「な、この砲撃を受けて近付いてくるだと! 効いていないというのかぁ?!」
 幽霊船は怯むことなく、こちらに船首を向けてきた。
「ルカが出るわ!」
 獅子の艦が素早くそちらに寄せる。
 ルカルカは、抜刀する。――前線出すぎと言われるかもね……――隊を指揮するダリルが、兵に号令をかけながらルカルカに「気をつけろ」と声をかけてくれているが。ルカルカは思う。だけど戦場の信頼は、火力と戦功と、共に行動し兵に犠牲を強いない姿勢で得るもの。率先し戦い、この人となら死に難い事実それをルカルカは示してきた。結局、そうして隊は強くなるものだと。
 矢が、降り注ぐ。ルカルカの率いる獅子の牙の、強力な武器だ。弓矢隊を率いるのはルカルカのパートナーとなっている英霊の武将夏侯 淵(かこう・えん)、彼が鍛えているだけのことはある。
 ルカルカを旗頭に兵が続く。
「足場を確保したわ。続けっ」
 船にはうようよと亡霊たちが乗っている。
 空から、カルキノスが牽制する。
 クィクモの艦もそれに助けられ、獅子の艦に並び奮戦する。
「襲ってきたなら、返り討ちにしましょう」こちらは比島少尉が兵を指揮する。
「皆、相手は亡霊ですから、光条兵器や光術を用いて応戦するのです! バニッシュが使える者も、前へ!」
 光を用いる術のないクィクモの将校には、比島は光精の指輪を投げて渡した。「それを使い、戦ってください!」
「則天去私も、有効のようだねぇ!」
 曖浜少尉も、光を帯びた武闘術を用い、亡霊をなぎ倒していく。この亡霊らに意思は感じられず、ただ無言で襲いくるだけのようだ。
「りゅーき……」
 マティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)も恐る恐る、光学迷彩で姿を隠し、曖浜をサポートして戦う。
 霧島らも早速、さきの訓練を実戦にかかった。
「行くぞ」
 パートナーの九十九、ハヅキもしっかりとヘリファルテに乗りこんでいる。
「試したいことが」
「何だ。いいぞ」
 ハヅキは霧島の許可を得ると、操縦しながらの六連ミサイルポッドの発射が可能か、テストに移る。「発射。……少しだけ、外れたか」
 しかし、十分に実用性を感じさせる結果で、ハヅキは敵艦一隻を沈めた。
「幽霊船か。確かに脆いのは脆いな。軍船相手にこうはいかないだろうが。
 しかしそこでこそ、これだ!」
 霧島は海上スレスレを飛び敵艦に突進していく。
 同じく、エリシュカも並んで飛ぶ。
 速度を調整。
 敵船の手前で、ドラムを投下。
 すると、ドラムが水切りの石の要領で、水面を跳ね、敵船の横っ腹に激突。これが海軍の「反跳爆撃」の成果だ。
 旗艦のローザマリアもこの結果に満足そうに微笑んだ。
「これなら、いけそうね。じゃあ、仕上げをお願いね」
 ヘリファルテは、幽霊船をフライパイする際に、有りっ丈のミサイルを叩き込んだ。二隻の船が沈んだ。
 獅子、クィクモの艦も、敵を掃討した。
「たぁーっこれで最後かぁぁ!!」
 夏野は、光条兵器で亡霊を三体まとめて斬りつけた。
「はぁ、はぁ。ああっ、後ろにも三体!
 斬られたいやつから前に出なさいっ。ええぃ面倒なのでまとめて行くよ!!」
 振り返って、なぎ払う。
「夢見さん! ほぼ、片付きましたぜ!」
 湖賊らも、夏野に従い奮闘した。
「ようし、Ok! ものども、ずらかるよ!(?)」
 船の上にもう亡霊の姿はない。
 ルカルカ、は部下に船内を調べさせたが、使えそうな物資などはとくに積まれていなかった。幽霊船らしく宝箱でもあればよかったのだが、どれもただのボロ船のようであった。
 と、おおむね上手くいったように思えたのだが……
 各艦が被害状況ほぼなしと伝える中……
 
「くっ。しまった。我としたことが、はぐれたか?!」
 龍雷連隊を預かり、筏で先行していた甲賀 三郎(こうが・さぶろう)であった。交戦後、にわかに波打つ内海を漂いいつの間にか、辺りに船影はなし。ただ、ぼんやりとした灯かりが、近付くでもなく、遠のくでもなく、周囲にうろついている。
「どうしたことか。これは……イチロー? ジロー?」
 甲賀の使い魔であるゴーストのイチローとジロー。その灯かりに手を振り、何か交信し合っているようだ。
「ポチ、おいポチ?!」
 筏のこぎ手、ゾンビのポチ。ずんずんと、灯かりの方に近付くように筏を漕いでいく。
 げしっげしっ、ロザリオ・パーシー(ろざりお・ぱーしー)が子分扱いしているポチを蹴りつける。「おい、答えろにゃ。オレたちをどこへ連れていくにゃぁ! 幽霊は怖いにゃ!」
 ポチは、げへへ、と笑いながら、ただ、妖しい灯かりの方へ……灯かりの方へ……
 イチローとジローは、灯かりと無言の交信をし続ける。
「三郎ぅ」
「ロザリオ。ううむ……」
「ああっ、三郎。これは何にゃ」
 ロザリオが、何かを内海から引き上げた。……行方不明になっていたフィリッパ・グロスター(ふぃりっぱ・ぐろすたー)であった。
「……にゃぁ」「……死んでいるのか」
「いあ、息はあるにゃ」
「どういうことだ。我らは、三途の川にでも向かっているのか」
 両岸の幅が、狭まってくる。内海から、河口らしきところに流されてきたようだ。
「隊長さん。すまない。どうやら我は、隊長さんから預かった連隊の兵をまるごと、来ちゃいけないところに連れてきてしまったらしい」
 連隊兵「……」。
「三郎〜怖いにゃ」
 ロザリオが擦り寄ってくる。連隊兵が、擦り寄ってくる。げへへ、げへへ、筏をこぎつつげるゾンビ・ポチ。謎の交信を続けるゴースト・イチローとジロー。
 妖しい光の数が増えてくる。
 ウフフ……筏の真ん中に寄り添う、甲賀と連隊兵らの後ろに、ぼやけた黒い影が薄っすらと浮かび、気味の悪い笑みを浮かべた。
 メフィス・デーヴィー(めふぃす・でーびー)。コンロンの悪魔と人は呼ぶ。
「三郎、というのか。うふふ。可愛がってやろうじゃないか……」
「うっ。我の中に、何者かが入り込んでくる……や、やめろ」
「三郎や。私は、貴公の心を悪に傾ける存在。貴公にはもともとその素質がある筈。うふふ。
 さあ、共に地獄へと参ろうではございませぬか。うふふふふふ……」
「うう、や、やめるのだ。我は龍雷の、三郎なり……! 隊、長、さん……!!」
 うあああ。「にゃぁぁ」。ロザリオを、連隊員たちを、妖しい光が取り囲んでいく。「きゃー三郎。いやだよぉぉ」