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第四師団 コンロン出兵篇(第1回)

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第四師団 コンロン出兵篇(第1回)

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 廃都群の外れ。ドージェ寺院跡。
「ここは君らの来る場所じゃないんだよ。神聖なドージェの寺院なんだ。帰るんだね」
 ヒャッハッハッハッハァ。
 騎凛を取り戻しに来た教導団の久多、琳らを取り囲むヒャッハーども。
 久多は、アーミーショットガンを国頭に向ける。
「ちょっと久多さんっ。それは駄目だよぅ」
 琳は、二人の間に入るが……
「ちっ。また新手か?」
 国頭は、久多の後ろに目をやる。
 久多も、そのひたひたいう獣たちの足音に、はっとなってショットガンを手にしたまま振り向くと、
「騎狼部隊か」
 五十騎程か。まっ直ぐこちらに駆けてくる。琳も、顔が明るくなる。
 騎狼部隊が来てくれた。第四師団の精鋭である。
「ちィ!」
 国頭の合図に、ヒャッハーたちも武器を構え、見守る。
 率いているのはイレブンか? デゼルか?
「双方待たれよ」
 先頭にあるのは、源 鉄心。和服姿で騎狼を乗りこなしている。久多たちの横に付けるや、ひょいと飛び下りた。
「鉄心か」
「それに、トマス君も?」
 久多、琳が駆け寄る。
 鉄心の両隣に、トマス、ティーが同じく騎狼から下り立つ。ティーが、
「逃げられません、投降して下さい」国頭に向けて言い放つ。
「何、女。見ろ、こっちは千近い兵がいる」
 鉄心は素早く辺りを見回す。数が多い……騎狼部隊の精鋭といえこれだけを相手に戦闘を起こすのは、まずい。鉄心は、「聞き入れなければ、実力行使を……」言いかけたティーを下がらせた。
 国頭はサングラスを通して、こちらを鋭くにらみつけている。夢野総長は、どっしりと座りこちらを見据えている。佐野豊美、又吉、シーリル・ハーマン、いずれも手練れたパラ実の仲間が成り行きを見ている。にやにやと、苛苛と、くちゃくちゃと、取り囲むヒャッハーたち。今にも飛びかかってきそうな者もいる。
 一瞬にも数分にも思える時間。
 魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)がふっと前に歩み出た。
 そして国頭に、頭を下げると非礼を謝罪しますと、丁重な様子で謝った。
「何だぁ?」
 ざわざわ。ヒャッハーどもがざわつく。豊美らもどういうことかといぶかしむ様子。総長は表情を変えない。
 そんな中、今度はテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)が一歩歩み出た。
 又吉が、眉間にこれ以上ないほどしわ寄せる。
「あぁん? 熊ぁ。またおめぇかぁぁぁぁ!」
 猫。俺の義を示さなきゃなんねえな。テノーリオは又吉を見て、しかし皆に言うように、
「見ず知らずの、けれども「助けてくれ」と頼ってきたダチですら、俺たちは助けに行く。俺たちの指揮官である騎凛教官を、助けないわけにはいかないだろう」
 あぁぁん? 又吉はテノーリオをにらむ。
 猫。おまえとはまた拳を交えるかもしれないが、今は交渉のときだから我慢我慢……。又吉も、木刀をぶんぶんしつつも、抑えているようだ。
「まァ、当然、騎凛を取り返しにきたと。で、何なんだ!?
 久多よりはわかる連中のようだが」
「く、……」久多は、アーミーショットガンを上げそうになる手を必死で下げた。上げた。琳がそれを止めた。
 トマスが、ちょっと震えつつも、魯粛、テノーリオより一歩前に、歩み出た。
「何だ、小僧」
「ぱ」
「ぱ?」
「ん……」
「んん?!」
 時は遡る。
 トマスが救助班に加わり、クィクモを発つ前夜。
 彼は、教導団員たちを前にして、思いきって言った。
 ――みんな! 取り換えのきくぱんつと、取り換えのきかない我々の騎凛師団長との二択問題だ! 協力を、頼む。
 ええ、でも……皆、恥ずかしがりはしたが、迷いはなかった。騎凛師団長にはかえられない。
 龍雷連隊のフェイトも、ナインも、獅子のルカルカも、月島も、それからローザマリア提督も、水原ゆかり外交官も、比島少尉も、クレア中尉も、皆……ぱんつを脱いだ。皆。恥ずかしがりはしたが、迷いはなかった。松平岩造も、ぱんつを脱いだ。松平だけではない、男たちも皆、ぱんつを脱いだ。恥ずかしがりはしたが……迷いはなかった。
 褌。トランクス。Tバック。前開きトランクス。スキャンティ(トマスによると松平隊長のもの)。色々あったが。
 「みんな! 取り換えのきくぱんつと、取り換えのきかない我々の騎凛師団長との二択問題だ! 協力を、頼む」
 トマスの得た情報、国頭さんはパンツがお好き! という(男物・女物の区別をしていない)荒い情報だったので、彼へのお土産はこうして「玉石混交」な状態となった次第である。
 感動、であろうか。
 国頭は、ふるふると、震えている。
 ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)が、その玉石混交なお土産を、彼の前に差し出した。
 ともあれ、これで、国頭に協力を求めず荒野を抜けようとしたことに対し謝罪をし、お詫びに(玉石混交であるが)お土産を差し出す、ということを教導団側は行ったことになる。
 皆、無言で事の成り行きを見つめている。
 国頭は尚、ふるふると震えていた。ぱんつへの誘惑を断ち切れないのだろうか。少し違う気もするが。そのまま時間が経過する。
 ……
「心配ですね」
 寺院の影から、隠れて様子を窺うミレイユ、シェイド、ルイーゼら。「居ても立っても、いられない感じ。あれ、国頭さん、怒ってるよ……」「ええ、まあ。……いえ、もう少し複雑な心境を、現しているのだと思いますけどね」「はぁ。これがトマスくんの作戦かァ。いい、交渉が決裂したら、シェイドくんが引きつけている間に……」「ええ、少しでも時間を稼げればいいのですが」「ワタシは、周りのヒャッハーに、ヒプノシス」「で、あたしが〜騎凛先生に近づき縄を……あっ」
 国頭がぐい、っと大またで前に出たかと思うと、トマスをつまみあげた。一瞬のことであった。
「トマス君!」
 鉄心が、出ようとするが、トマスが制した。
 国頭はつまみあげたトマスに凄まじい形相で迫り、「小僧。いい心がけだ。君は見込みがある」と述べた。トマスを地面にどさりと落とし、「いいか。但し、今度はぱんつをきちんと分けてこい。例えば、松平岩造のスキャンティを誰が要る。オレは要らんぞ。つまり、そういうことだ」と付け加えた。
 トマスは、少し身震いするも、すぐにひざで立ち上がって、「はい!」と答えた。
「トマス君……」
 鉄心は、国頭とトマスが何を交わしたのか今ひとつ掴めなかったが、彼に駆け寄り助けた。ミカエラ、テノーリオも同じく彼を助け起こした。
 少し、両者間の緊張の空気が緩まっている。
 物陰のミレイユたちも、ほっと息をつく。久多はショットガンを下ろしているし、総長はやはりじっと事を見据えている。琳、豊美らは無言で見守る。
 トマスは言った。
「どうすればあなたの信頼を得ることができますか?」
 また、時間だけが流れそうになったが、何かが一同の沈黙を破った。空に舞うイメージ。何だ。
 一人のヒャッハーが駆けてくる。
「総長!」
「おうどうした。きりのいいとこのようなわるいような……」
「は、はぁ?」
「で、どうした」
「それが、廃都群の向こうの方に、軍閥らしき兵が集まりだしたので見張っていたんですが、それを突如、りゅーきしが飛んできて襲いかかりまして……」
 龍騎士。一斉にざわつきだす。
「向こうの方……どこだ、それは。軍閥らしき兵……どこのシマの連中だ」
「ええと、あっちの方でさ。こっからけっこう遠いです。百メートル走を……十回走ったくらいですかね?」
「……」久は少しいらついた表情を見せるが、そのまま聞く。
「ちっ。こんなときに。おい国頭。
 どうする?」
「ああ……」国頭も、サングラスであっちの方、を見る。
「おい、ちょっと何人か行ってもっとちゃんと確かめて来い。せいぜい一キロ程度なら、けっこう遠いこともないだろ。龍騎士には十分注意しろ。警戒態勢をとれ。
 こっちもまだけりがついてないんだ……」
 久の指示に、ヒャッハーたちがぞろぞろと動き出す。
 勿論、教導団の方も、龍騎士と聞いて浮き足だっている。とくに、騎狼らは何かを感じとっているのか、少々せわしない様子になってくる。
「あ、ああっ、上!」
 ミレイユが叫んだ。
 翼のある生きものが舞い下りた。
 ヒャァァァりゅーきしだぁぁぁ。ヒャッハーが大騒ぎで、逃げ出す。
「お、おい。待て!」
「国頭!!」
 下り立ったのは、ワイバーンに乗った朝霧 垂であった。
「あぁ〜〜ん? 第四師団のメイド隊長か。そりゃあ、そうだよなあ」
 国頭は、足元から、縛られた騎凛セイカを取り出した。「君が来ることは予測はできた。が、どうするんだ、おらぁ!」
「わーん」砂団子になった騎凛がわめく。
「セイカ!」久多が、ショットガンを上げる。
「久多は、もういい黙ってやがれ!」
「く、く〜国頭」
 国頭は騎凛を引っさげて朝霧に向かい合う。
 ワイバーンから続けて飛び下りたパートナーたちが叫ぶ。
 ライゼ、「国頭さん! 騎凛先生に何かを伝えたくてさらったのならそれを実行してもかまわないよ! でも何も考えなくて、行き当たりばったりを考えているのなら……どうか僕たちに協力してください!!」
「オレが騎凛に何かを伝え……そうではないと思うが。オレは、オレに無断で荒野を渡ろうとしたことをだなぁ……」
「その非礼は、お詫び申し上げました」魯粛が言う。トマスが、ぱんつを強調する。
「ううむ」
 国頭。どうするんだ。久は無言に問いかける。この地にパラ実分校を打ち立てる。騎凛教官はとりあえず放しちまっていいのか。
 朝霧 栞は、「騎凛先生を自由にしてくれないかな? あ、いや別に教導団の本隊に戻せってわけじゃなくてな。(まあ第四師団は指揮官なしの状態で乗り越えてきたってこともあるけど……。)」
「ああ? 本隊に戻すんじゃなくてだと。どういうことだ、朝霧」
 会話の最中、ヒャッハーの一部たちが戻ってきて、総長に告げる。軍閥は、ミロクシャの旗印を掲げていること。数は……よくわからないがそこそこ多いこと。龍騎士は二体。それに、どうやら旧都の廃墟の方から夜盗の軍が向かってきているらしい。数は……よくわからないがけっこうやばいらしい。これを近くで聞いていた琳は、らちが明かない感じに、「私もバイクで見にいく」と言った。
「国頭、相談がある」朝霧は、真剣に、国頭に向けて続ける。「傭兵としてこのままセイカと旅を続けてくれないか? コンロンの情勢を知る絶好の機会だしな」
「オレが傭兵? 第四師団の?」国頭は思ってもないことを聞いたといった様子だ。
「国頭が、セイカと旅を続けるだと〜〜」久多は言いつつ必死でショットガンを抑える。
「なにより国頭、おまえらが仲間にいればこんな心強いことはないぜ。それだけで一安心できるしな!」
 朝霧はそう言って、国頭に、深く頭を下げた。
 ドージェ寺院跡は、廃都群の西の端だ。東の方の空が、赤く燃えている。
「むう。軍閥だか夜盗だか知れんが、やつら火を放ったか?」総長が立ち上がる。
 またヒャッハーが戻ってくる。
「夜盗が火を放ちましたぜ。龍騎士が夜盗に指示を出して、四散した軍閥を狩ってますぁ。ひゃはは、やつら、ざまぁねえですね。
 しかしどうしやす、他人のシマに入ってきて火をつけるやつらもやつらですし……」
「……ここは、神聖なドージェの寺院だ。廃墟であろうがな。国頭」
 国頭は尚、朝霧と向かい合っている。
「シャンバラを出てコンロンという土地へ来たんだ。俺たちは教導団とパラ実じゃない……同じシャンバラの民として、協力し合うっていうのはどうだ。頼む、国頭!!」
 国頭は何かを言う。
 朝霧は笑いながら、「こまけぇことはいいんだろ!」