空京

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創世の絆第二部 最終回

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創世の絆第二部 最終回
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呪われた手紙を届けましょ(2)

 「ご利用は計画的に」とは言いますがそれはそれは真理であり成功の秘訣でもあるのだろうが……
「なぜ三賢者は「呪いをかける」という方法をとったのでしょう」
 本郷 翔(ほんごう・かける)が疑問を投げかける。執事服でスマートに駆けては「呪いの手紙」を運んでいるのだが、
「本当に妨害するなら、手紙を取り上げた時点で破棄することだってできたはずです……それを……うぅ……ん……しなかったということは……」
 最後まで言い切れずに彼は首を何度も振った。すでに快楽は彼を蝕み始めている。幾度となくそれらに打ち勝って走り続けているのだが、やはりこうしてどうにも快楽は襲い来る。その度に―――
「うむっ……」
 パートナーのソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)が唇を奪って黙らせる。走って乱れた息もソールの吐息を何度か吸うことでたちまちに整ってしまうから不思議だ。
 次に訪れる興奮がの心音を高める前に、彼はそっと唇を離す。
「落ち着いたか?」
「えぇ。ですが……」
「ダメだ。今はダメだ。ほら、続きを言えよ」
「……そう、ですね」
 は再びに三賢者の思惑について論じ始める。彼が出した答えは「手紙を届けるには多くの人の思いが必要、だからこそ快楽という障害を設けて交代せざるを得ない状況を作り出したのでは?」というものだったが、正直それを論じる事はただ気を紛らわすため。そのための手段にすぎなかった。
 もちろん次のランナーにも考えは伝える。しかしそれはあくまでもオマケ。気を紛らせ、長く走ることができればそれだけソールの温もりを感じることが出来るのだから。
 少しばかり動機は不純でも、より多くの人の利益に直結するように配置する。
 もっともこの場合はソールが得る益の方がかなり大きいようにも思えるが……まぁそれは「ご愛敬」という事で。



 事情を何も知らない純情娘にも「手紙の呪い」は無駄に平等なようで。
「にゃぅっ……、なに、これぇ……」
 硯 爽麻(すずり・そうま)は思わず立ち止まってヘタリ込んでしまった。
「……急いでるのに……急いでるって言ってたのにぃ……」
 たまたまそこに居合わせただけ。倒れて動けなくなっていたランナーに駆け寄って介抱したのが始まりだった。突然に「手紙」を渡され「どうかこれをニルヴァーナまで運んではくれまいか」と頼まれてしまったのだ。
 引っ込み思案な爽麻でも、息も絶え絶えな者から託されたとあっては、これを放棄することはとても出来なかった。
 爽麻は意を決して駆け出したのだが―――すぐに快楽に襲われてしまったようで、
「あぅ……ん……これ……これっ……ダメぇっ!!」
 ビクンっと大きく体が跳ねて、天を仰いで背を反った時、彼女の頭に狐耳がピョコンと生えた。
 次いでビンッと生え立ったのは狐の尻尾。血の気まんまんな尻尾が衣服を破いて爽麻のお尻から生え現れた。快楽に撫でられて感度が上がったのだろう、強制的に『超感覚』が発動したようだ。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
 息を乱して汗だくな姿で。そんな爽麻を遠巻きに見ている鑑 鏨(かがみ・たがね)は―――
「ばっ……バカやろ……ウプッ……だはぁっ!! もうダメだぁっ!!!」
 身悶えする爽麻の艶姿に限界臨界もはや暴発間近だった。『百鬼夜行』である女郎蜘蛛に「爽麻から手紙を奪って誰かに渡すよう」命じると―――
「これで手紙の件は解決だ。さぁ、ゆっくりと体を休めよう」
 自分は爽麻を抱き抱えて人目につかない物陰にダッシュした―――
「………………あれ? 治ったみたい」
「は?」
 狐の耳も尻尾も消えている。なんと頬の赤らみも徐々に引いてゆくではないか。なんたることか……間違いない! 爽麻の感度が急速に下がっているのだっ!
「あ、でも触られてると……安心するかも」
「だろう! そうだろう? よーし、もっともっと触ってやるぞ、撫で回してこねくり回してやるぞ―――」
「冗談ですよ、嘘ですよ」
「はぅあっ!!」
 転がされた。弄ばれた。はガックリと膝から崩れ落ちた。
 爽麻を安心させようと真面目な一面を見せようとしたばっかりに……。
 そりゃあ「手紙」を手離しちゃあ……ダメですよね。



 趣旨は聞いていた。「その手紙」を手にした者がどうなってしまうのかも大方知っている。しかし―――
「うわぁああああああん!!!」
 まさか大絶叫と共にダッシュする事になるなんて猿渡 剛利(さわたり・たけとし)は思ってもみなかった。
「うう……うぅう……うううううう〜!!!」
 胸に沸き上がる充実感。指の先まで駆けめぐる「こそばゆい」感覚。いつまでも浸っていたいと思えるような温もりが肢体の肉を満たしてゆく。
 と、それを打ち消す苦悶の粘汁
「うぅうううう……ぅぅぅうう〜!!」
 溢れて垂れる程に唾液は出ているというのに、その粘汁はいつまでも剛利の口の中に留まり続けるのだ。
「苦い〜マズい〜辛い〜臭い〜」
 悶絶しながらも懸命に走るその様を三船 甲斐(みふね・かい)が楽しそうに見つめている。
「くっくっくっ、おーけーおーけー」
 マラソンと言えば給水所、快楽に打ち勝つといえば当然苦痛。ということで、給水ポイントに先回りしては「甲斐特製ドリンク」を忍ばせているのだった。
「よーしよし、また来たぞ」
 口内の不味さから逃れるように必死に全力で駆ける剛利が次の給水ポイントへさしかかる。
 今度こそスポーツドリンクが、いや水でもいい! とにかく口内環境を整えて治してくれるような液体が入っていると期待してその容器を手に取った―――
 のだが…………ね。
「ごばぁっ!!」
 中身はやはりに「特製ドリンク」、それでも剛利はそれをひとおもいに一気に呷って飲み干した。
「うぅ〜〜〜〜、うぅうううううう〜〜〜〜!!!!!」
 ただ駆けていれば快楽に負ける。快楽を抑え込むには「特製ドリンク」を飲むしかない。真面目に必死に走っているというのに、どこもかしこも不幸ばかりだった。
「い、いっそ、魂が抜けた方がマシだーー!!」
 のたうち回っても、すぐに立ち上がって走り出す。見上げた根性で剛利で涙の大疾走を成し遂げたのだった。



 彼女を襲った快楽は歩みを進めるにつれてその色を変えていった。
「ん……く……はぁ……っ」
 思わず声が漏れてしまう。肌が上気して頬は染まり、汗が流れ落ちる。
「これは……ん……はぁん」
 瓜生 コウ(うりゅう・こう)には覚えがある。これは熱い温泉にゆっくり浸かり、そのまま体を伸ばす快感だ。
 これはダメだ、耐えられない。
 そんな風に諦めて、それでも少しばかり歩みを進めた所で今度は―――
「ひゃん……ふぅあっ!」
 口の中が大爆発。一気によだれがあふれて雫れそうになる。これは……この感覚は……そう! 極上のスイーツの味が口の中に広がる快感だ、間違いない!
 実際に口にしたわけでもないのにこんな……。
 ふっ……ついに終わりだ。オレの旅はここで終い、終着点だ―――
「いや待て………………諦めたから更なる快感に襲われたのではないだろうか」
 そうだ、きっとそうに違いない。先程は確かに諦めた、その途端に快感はその姿を変えて再び襲いかかってきた。それは己が弱さが招いた結果なのだ。としたなら―――
「ならば耐えてみせよう、いや耐えてみせる! オレは快感になど負けはしない!」
 強い決意で歩みを進める。するとどうだろうか、弱音など吐いてはいないのに今度は正月にコタツでみかんを食べながら寝てしまう快感に襲われたではないか。
 くぅ、なんて恐ろしい、だけど……だけど……。
「おおおぉぉおおぉっ!!」
 必死に正面から快楽と戦った。生身でイコンに挑むときのような、紐なしでバンジーに挑むかのような、そんな何者にも怯むまいとする強い心で快楽に! コタツみかんの誘惑に抗っていたのだが―――
「おおおぉぉぉぉぉ………………ダメぇ、こんなの、こんなの耐えられないっ!!」
 身をクネらせて、そのままダウン。自分でも驚くような色っぽい声をあげてコウはその場に倒れ込んでしまった。
「あとは任せてっ!!」
 パートナーのマリザ・システルース(まりざ・しすてるーす)が「手紙」を継いで駆けだした。
 シャンバラ古王国の騎士として醜態をさらすわけにはいかないと、そう意気込んでスタートを切ったのだが―――
「そんな……まさか……コレって……伝説に語られる、女騎士を堕落させるあの……」
 大層なことを言っているが、彼女を襲うは回転寿司で安いネタを貪る快感のようで、
「らめぇ、取られなかった生海老を蒸し海老として再利用しちゃいやぁ……アボカド軍艦おいひぃのぉ、ハンバーグ巻きやめてぇぇぇぇ!」
 完全に呑まれていた。リタイアは近い、間違いない。
 安いネタを貪る快感には……確かに抗うのは難しい。