空京

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創世の絆第二部 最終回

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創世の絆第二部 最終回
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ドージェをぶん殴りに行く 後



 一番最初に前に出たのは、ローグ・キャスト(ろーぐ・きゃすと)
だった。
 ゴッドスピードで駆けぬける。彼からドージェまでの間に、何も障害物は存在しないはずなのに、突然何かにぶち当たる。
「みんな、立ち止まるな!」
 二つの巨大な力がぶつかり合う際に発生した、力の余波が壁となってローグの前に立ちはだかった。
「うおおおおおおお!」
 ローグを押し返そうとする力を、ヴィサルガ・イヴァの力を解放し、無理やり押し切る。
「止まるか!」
 だが、壁は一枚ではない。たった今こじ開けたものより、更に分厚く強固な壁が、ドージェとの道を阻む。だが、立ち止まる事はできない。
「無駄無駄無駄無駄無駄……」
 アユナ・レッケス(あゆな・れっけす)の呪詛の言葉に呼応するように、キラキラと光の粒子が飛び散る。ホワイトアウトの猛吹雪である。
 魔法の雪は、ドージェの力にぶつかり掻き消えていく。本来の魔法の効果を思えば、ごくごく局所的な効果となっていた。それでも、少しずつ力の壁を食い破っていく。
 当然その恩恵は、魔鎧を纏う竜造が一番に受けるが、力の流れも僅かに歪み、少しずつ道を開いていく。
「ドージェェェェッ!」
「女を泣かせんじゃねえぞコラァ!」
 竜司も力の奔流へと飛び込んでいく。ドージェへの叫びには音階が込められ、幸せの歌となって彼と周囲の仲間の力を底上げする。最も、歌詞を聴く限り誰も幸せになれそうにはない。
 この突撃で、最初に足を止めたのはミューレリアだった。
 彼女は、力に押し負けたわけでも、力尽きたのでもない。この距離が大事だった。
「ここからドージェまでの距離が、丁度ピッチャーマウンドから、ホームベースの距離だ」
 立ち止まった瞬間、身体にものすごい負荷がかかる。ローグが立ち止まるなと叫んだ理由が理解できる。ここでは、流れに逆らっていた方が、まだマシなのだ。
「ったくよぉ、強敵との戦いぐらいで私らを無視するなんて酷いじゃねーか」
 ボールを握る手を確かめる。球種はもちろんストレートだ。
「強敵よりも! パートナーや友達のほうが大事だろうが!」
 ミューレリアは大きく振りかぶり、
「目を覚ましやがれ、バカドージェェェェェ!!」
 魂を込めた白球を、全力投球した。

「ドージェさん、その首を頂きたくっ♪」
 力の壁を突破していく契約者達の頭上を、優梨子が一息に飛び越える。上空の方が壁が薄いわけではなく、その分の助走をしていただけだ。
 彼女のパートナーが用意した、射出機の勢いと彼女自身の機晶姫の脚のブーストさらに加速し、速度で力の壁をぶち破っているのだ。
 速さはそのまま力になる。だが、彼女自身を砲弾として撃ち出しているため、彼女にも同じ衝撃が返ってきており、見る見るうちにあちこちに生傷ができ、血が迸る。
 それでも彼女は楽しそうに嬉しそうに、ドージェだけを見つめていた。
「気に食わねぇ! てめーなんか黙って素直に殴られてりゃいいんだよぉ!」
 ゲブーが吼える。
「そんでもって、マレーナのおっぱっぶっ!」
 最後まで言い終わる前に、地面で爆ぜた石ころがゲブーの額を打ち抜いた。弾丸のような勢いの石に、ゲブーの上体が大きく反る。
「ふざけろぉぉぉ!」
 が、耐えた。吹き飛ばされてしかるべき姿勢から、ゲブーは持ち直した。
「どうして香菜が今ここにいると思う? ……答えは簡単よ……パートナーの言う事すら聞かないような喧嘩バカなお兄ちゃんを止めるのは、可愛いツンデレ委員長妹だって相場は決まってるからよ♪」
 月詠 司(つくよみ・つかさ)はサイコキネシスで投げ込まれながら、走馬灯のようにシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)の言葉を思い出していた。
 だが実際には、香菜はキロスによって制止され、この突撃には参加していない。しかもこの状況だと、生半可な声は周囲を暴れる力の渦に飲み込まれて届かない。
「あ……」
 だから、サイコキネシスを使っているシオンの呟きは、当然誰にも届かない。
「ごめん、そこワタシのサイコキネシス届かないみたい」
 力の濁流にサイコキネシスが飲み込まれ、うまく操る事ができない。司は何の援護も後ろ盾もないまま、力の奔流に投げ出される事になった。
「妹にセクハラしまくったこと、お兄ちゃんに謝って、懲らしめられてきなさい」
 この時、シオンの声は全く届いていたなかったが、奇跡が起こった。
「……いや、香菜くんへのセクハラは殆ど……シオンくんの差し、金……」
 例え声は届かなくとも、想いは届くことができたのだ。だが、奇跡の代償に司はそこで力尽きた。

「何がそんなに不満か」
 力の壁を少しずつ踏み越えていきながら、織田 信長(おだ・のぶなが)は傍らの不機嫌そうな南 鮪(みなみ・まぐろ)を見る。
「山葉の野郎ぉ、人の事完全シカトしやがってぇ」
「まだその事を根に持っておったのか」
 この状況で、よく他の事を考えられるなと信長は感心した。
 作戦に参加する前に、鮪は山葉 涼司の病室を見舞いにいったのだ。そこで昏倒する涼司の頭にパンツを被せるなど、やりたい放題やって、追い出された。
 その時、涼司は昏倒し意識が無かったのだが、鮪はそれをシカトと受け取った。当然の如く、信長はフォローもしないし事実も伝えてはいない。
「当然だ。無視は最低の行為だ、そうだろ!」
 感心が一周回って呆れてしまう。
「全く、馬鹿は恐ろしいものだな。あんなものを前にして、そのような事を言うか」
「あ? ドージェなんかより、花音の方が恐ろしくヤバイ強い超未来的なオンナだぜ」
 近づけば近づくほどに、壁は分厚く凶暴になっていく。
 肌を切り裂き焼いていくこれが、あくまで二つの力から漏れ出したものであり、ぶつかり合う拳と拳、足と足、額と額とは比べ物にならないのだ。
 そこに自ら近づくなんて自殺行為に等しい。
 それでも、そうまでしても、ドージェに伝えたい想いがあるのだ。
「ドージェ、お前は俺たちと一緒に力を合わせてみんなを守ろうって約束してくれたじゃねーか」
 和希は、何もかも飲み込む力の濁流に負けじと声を張り上げる。
「シャンバラ大荒野やニルヴァーナの復興は始まったばかりで、まだまだ俺たちの手助けを必要としてる連中がいるんだ」
 彼女だけではなく、誰もがあと一歩までドージェへと近づいていた。ここまで駆け抜けてきた彼らの足は、鋼のような最後の一歩を残して止まってしまった。
 彼ら全員の力を足しても、漏れでた力に勝てないのだろうか。強い力に、半歩後ろに戻される。

「ドージェ様――いつまで……いつまで人のことを無視するつもりですか!」

 押し戻されそうになった彼らの足を、マレーナの叫びが押しとどめさせる。
 マレーナは彼らより僅かに後ろにいて、その顔を見る事はできない、できないがどんな顔をしてるかぐらい、見なくてもわかる。

「やるだけ、やってみるもんだな」
「人の事無視しやがって、死んどけやっ!!!」
「俺だ! 俺がいつかてめぇをぶっ殺せるぐらいの奴になってやる! だから、それまで我慢しとけやぁ!」
「イケメンに不可能はねえ!」
「受け取れよドージェ。私の、皆の思いを!」
「みしるし! 頂戴!」
「ヒャッハァ〜!」
「この拳は、彼女の代理だ。受け取れ」
「目を覚ましやがれ!」

 拳が、届く。
 そこに居たドージェは、見た目から動きから何から何まで同じで、見分ける事は不可能だったが、皆の拳は一方のドージェに集中していた。
 そしてそれが、彼らのよく知るドージェ・カイラスであった。
 二つのドージェは、互いに拳をぶつけあったままの姿でピタリと静止し、今まで彼らを拒み、雷鳴の元となっていた力の流れも嘘であったかのように無くなった。
「……確かに、届いたぞ」
 二人のドージェはゆっくりと拳を離す。だが、言葉を口にしているのは本物だけだ。
 かがみ合わせの二つのドージェは、互いに全く同じ動作で、その場に腰を降ろした。
 そして、互いに目を閉じる。
 しんと空気は静まり返り、契約者達は突然の静けさに戸惑いを感じる。
「そうか、ドージェと全く一緒だから……」
 香菜が気づく。ドージェと全く一緒の偽者は、ドージェが拳を引けば、同じ行動を取るのだ。
 完全なドージェを目指したが故の弊害であるが、この結果はドージェ一人では決してたどり着けなかったものでもある。戦いを止めるという選択肢は、そこには微塵も存在していなかったのだから。


 幾日にも及ぶ、ドージェの闘いは終わり、
 そして、リファニー・ウィンポリア(りふぁにー・うぃんぽりあ)が姿を表したのだった。