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2章 出発準備

 シャンバラ教導団から空京に来ていた皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)青 野武(せい・やぶ)黒 金烏(こく・きんう)たちは、喫茶店で休憩していた。
「義姉者(あねじゃ)」
 店の扉を開けてうんちょう タン(うんちょう・たん)が入ってきた。
「もう、どこへ行ってたんですの?」
 伽羅は顔を上げた際に、ずれた眼鏡を直しながら言った。
「すまない……じつは、ここへ来る前にちょっと気になるものを見かけたのでござる」
「あら、詳しく聞かせていただけませんか?」
 伽羅の眼鏡が一瞬光った。普段はマイペースな彼女だが、その分一つのことに興味を持つと突っ走る傾向がある。
「じつはさっき……」
 うんちょうの話によると、タカシという少年が機晶姫ソフィアを助けるために人を募っているということだった。
 そう、先ほど筐子たちの呼びかけを見ていたのは彼だったのだ。
「なるほど……青はどう思います?」
 伽羅は先ほどからなにやら機械をいじっている青に急に話を振った。
「その、ライナス氏の技術は非常に興味深いな」
 しっかりと話を聞いていた。
「エンジニアとして、彼の機晶石交換の様子を見学してみたいものだ」
 青は見ての通りの工兵科所属のエンジニアであるが、頭にいわゆる「マッド」のつくエンジニアである。古代の超科学などの類にはとくに目がない。
「自分もタカシさん達に協力したいのであります。人の命の危機を黙って見過ごすわけにはいきません」
 黒はプリーストとしての使命を感じているようだ。
「そう言うと思いましたわ。なら話は早いですね」
 伽羅もこの件はちょうどいい機会だと考えていた。他校生の情報が手に入る上に、荒野の地勢調査も兼ねられるからだ。
「さっそくタカシ少年の所へ行きましょう。案内してくださいね」

 タカシやそのほかの協力者たちは先ほどと同じ場所で協力者たちを集めていた。
「はじめまして、あなたがタカシさんですね」
 伽羅がタカシに声をかける。
「はい、あなた方は……?」
 伽羅は申し遅れました、といって自己紹介する。
「ぜひあなた方二人の力になりたいと思いまして、どうでしょう、教導団の所在しているヒラニプラへお越しいただけませんか? 色々準備を手伝えると思いますの」
 タカシはどうしたものかと、筐子たちに相談する。
「そうね、ヒラニプラなら荒野のすぐ近くだし、準備するにはいいんじゃないかな」
 特に反対意見も出なかったので、協力者の募集は一旦中止して、皆でヒラニプラへ移動することになった。

 山岳都市ヒラニプラに移動して必要物資などの準備をしつつ、筐子たちは協力者の募集を続けていた。これで最初ほどではないが、数人協力者を増やすことができた。

 協力者の一人ルイス・オルゴン(るいす・おるごん)は、最初荒野の地図などを買っていたが、何か思いついたらしく、一人である所へ出かけようとしていた。
 パートナーであるフィール・クレメント(ふぃーる・くれめんと)はすぐに気がついてルイスに追いついた。
「まて、どこ行くんだ!」
「あ、すいませんっ」
 まだ何も言ってないが勢いで謝ってしまった。
 ルイスはパラ実の生徒であったが、不良にあこがれていたとか、悪事を働きたいとか、そういうことは全くない人物だった。むしろ本人は平穏に生きたいと考えていたが、パートナーの存在でその夢はなかなか実現しないのだ。
「こっちには墓地しかないぞ」
「墓地に用があったんです。死んだ機晶姫のコアが手に入らないかと思って……」
 ルイスは、ライナスの元に機晶石がなかったときの保険を考えていたようだ。
 フィールはルイスを殴った。とはいえさすがに本気ではない。
「ばかっ。死人にする事じゃないし、なにより墓番に金を取られたらどうするんだ!」
「そんな〜」
 フィールは金のことに関しては殊にうるさい。ルイスの財布も彼が紐を握っていた。
「まあ、墓参りに行くのは別にいいと思うけど。終わったらすぐに戻るぞ」
「ありがとう」
「礼なんか言うんじゃないよ」
 そういうと、彼はルイスを引っ張って墓場の方へと歩いていった。

「あとは何が必要でしょう」
「包帯は多めに持っていった方がよさそうね」
 ヒラプニラでは多くのものが出発の準備に追われていた。四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)エラノール・シュレイク(えらのーる・しゅれいく)たちも出かける前に必要な品を買い揃えていた。
「保存食も最近は色々あるのですね」
 エラノールは店でインスタントラーメンを物珍しそうに見ている。彼女は魔女だがつい最近まで封印されていたのだという。唯乃は彼女を妹のように思っていた。
「読書も良いけど……困っている人がいたら助けないとね。機晶姫は機械だけど、私は他の人と変わらないと思う」
「そうですね」
 エラノールは唯乃の言葉にうなずいた。
 買い物もだいたい済んだので、二人は宿へ帰ることにした。

 また別のヒラプニラの一角。
「ジャンク屋たちがいつ襲撃してくるかが問題ですわね」
 伽羅が同じ教導団のクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)と話し合っていた。
「そうかな、私はそこまで問題にしなくともいいのではないかと思う」
「と、いいますと?」
 クレアは集まっている人々を見渡した。
「結構な人数が集まっているし、戦いの得意なものも多い。ジャンク屋たちがよっぽど大人数でおそってこない限りは安全だろう。とはいえ、用心を重ねるに越したことはない」
 クレアは周りの集団を眺めながら考えた。機晶姫をパートナーにしている者も何人もいる。彼らにとって、タカシとソフィアのことは他人事ではないのだろう。もちろんその他の種族をパートナーにしている者も、パートナーと会えなくなるかもしれない、というときに黙っていられるわけがなかった。
「そうだな……囮作戦が使えるかもしれないな」
「良いアイデアですけど、囮役が危険ですわ」
「囮で完全に敵の目を逸らそうということではない。ジャンク屋どもはパーツという獲物目当てで行動しているわけだから、噂を聞いた奴らの一部が抜け駆けすれば、その分敵の戦力が弱くなるだろう」
「なるほど……」
 クレアたちは囮役になってくれる機晶姫を探しながら、現在の集団は囮で、タカシとソフィア達は少人数で別ルートで行動するという偽の噂を流してもらうように何人かに頼んだ。
「そういえば、あなたのパートナーはどうしましたの?」
 伽羅がふいにたずねた。ずっと二人で行動していたのに今更という感じではあるが。ちなみに彼女のパートナーであるうんちょうは、先ほどからずっと伽羅の脇で彼女を護っているが、ゆる族が珍しいのか周りの人たちの中には物珍しそうに見るものもいた。じつはこの集団の中ではゆる族は彼一人だったのだ。
「ああ、彼なら今タカシ君の所にいるよ。なんでもバイクの乗り方を教えたいとかで……」

 そのころ、ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)はヒラニプラの郊外でタカシのバイクの練習を見ていた。
「味方は大勢いますが、安心してはいけません。いつだれが味方か敵かわからなくなるかもしれないのです。そうなったら、ソフィア様を守れるのはあなただけでしょう?」
「はい!」
 バイクを操縦するのは初めてだったが、タカシはまじめに講義を受けていた。もし何かあったとき、ソフィアをつれて一人で遺跡に向かわなければいけないかもしれない。もちろんモンスターのでる荒野では、できればあってはならないことだが、念には念をというわけである。
「どう、調子は?」
 買い物をほぼ終えた唯乃たちがハンス達の様子を見に来ていた。
「タカシ様は飲み込むのが早いです。明日に間に合うかはちょっと不安ですが……」
 いよいよ明日の朝、出発することになっていた。
「そう。熱心に練習するのはいいけど、明日からハードワークだから、あまり無理をさせないでね」
 唯はタカシの様子を見て笑みを浮かべながらいった。
「もちろんです」
 ハンスは落ち着いた表情で答えた。その後も、タカシに色々とアドバイスをしていたようだ。

 その夜。
 青と黒、クレアたちは、地図を開いて遺跡までのルートを確認したり、色々と作業をしていた。
「よし、工具の備品はこれくらいあればいいだろう」
 青はバッグに荷物を詰めていた。バイクなどの乗り物の整備をするにしても、ちょっと多すぎる工具である。
「移動中にロボットでも作るつもりかい?」
 クレアがあきれたように言った。
「違う。遺跡でライナス氏が機晶石の交換作業をするとき、もし助け必要なら助手として手伝うためだ!」
「さすが、技術に関しては熱心でありますね」
 黒は青の態度に素直に感心していた。
「そうだ。失われた技術を目にできる、などと聞いて血が騒がないはずがあろうか!」
「ふーん、そういうものかな……」
 クレアは納得したようなよくわからないような顔のまま、部屋を出た。
 やがて夜は更け、日の出が近づいてきた。