天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

明日を見るために

リアクション公開中!

明日を見るために

リアクション


7章 遺跡にて

 ジャンク屋たちの脅威は去った。
 しかしまた一方で、なにやらよからぬことを企む者たちがいた。
 国頭 武尊(くにがみ・たける)はパラ実生経由でジャンク屋の襲撃のことを知り、彼らの襲撃に参加していた一人である。
 武尊はタカシたちを襲うグループに入って行動していた。主にバイクで駆け回り周りを攪乱していたが、攻撃の方は適当な感じにしていた。というのも、彼にとってはこの襲撃は本来の目的ではなかったのだ。
 ジャンク屋親分が撤退を決めると、仲間たちは次々とキャンプへ向かって走り出していく。
「……よし、今がチャンスだ!」
 武尊はニヤリと笑ったが仲間たちは彼の変化に気づかない。彼は弱ったジャンク屋たちを後目に、バイクをとばしていち早くキャンプにたどり着く。
「うん、どうした?」
 見張りをしていたジャンク屋の一人が声をかけようとしたとき、武尊は光条兵器を取り出して強烈な光を放った。
「ぐあっ」
 まぶしさで見張りが怯んだところを拳銃型の光条兵器で殴って気絶させてしまう。
「ちょっとおとなしくしてろよ?どれどれ……」
 見張りを縛った武尊はテントの中に入り、何かないかと物色する。
「ちっ……金目のものはなさそうだな、ガラクタばかりか。しかたない。これも全部売れば少しは金になるだろう」
 とりあえずテントの中のものを一通りカバンに詰めて、仲間たちが帰ってくる前に逃げることにした。
「まあ後で奴らに街であうようなことになったら、ただではすまないかもしれないが、そん時はそんときだ。こまけえこたぁいいんだよ!」
 武尊がそんなことをつぶやきながらバイクをとばしていると、遠くで弱ったジャンク屋たちが何者かに身ぐるみはがされているのが見えた。
「なんだ……オレ以外にも似たようなことをする連中はいるんだなあ。ひどいもんだ。だがこれでもし連中に恨まれてもあいつらのせいにできるな」
 そう言って笑いながら武尊は何処かへ姿を消した。

 荒野の中で弱ったジャンク屋たちを相手に、略奪をしていたのはナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)クラウン ファストナハト(くらうん ふぁすとなはと)であった。一応ナガンはジャンク屋ではなく、ソフィア、タカシたちの護衛としてやってきていたのだが、実際には敵の身ぐるみを剥ぐことが主な目的だった。(名目上は、弱った敵にとどめを刺しに来ている)
「うう……ひどすぎる」
 ナガンのパンチで地面に転がったジャンク屋が涙目で言った。
「ひどい? まったく、ひどいのはどっちだ? こうなったのも全部自分たちのせいだろう? たかぁい授業料だったな!」
 ナガンはジャンク屋を踏みつけながら笑った。
「こんなもんか……ファストナハト、これとこれもっておけ」
「はーい」
 ナガンそっくりのファストナハトは、戦利品の回収係をしていた。
「じゃあナガンは先に戻るから、ここに転がってる連中からめぼしい物をとっとけ」
「でもこいつら、ろくな物を持ってないじゃん? まあいいけど?」
 ファストナハトは使えるものなら何でも剥いでいくという性分であった。剥いだ物は背中の大風呂敷にしまってある。
 ナガンはバイクでタカシたちの元へと戻っていく。略奪はあくまで小遣い程度のおまけである。機晶石交換の技術を持つライナス、彼の周りからお宝の気配を感じていた。
「うまそうな話に乗らない手はないよな!」

 今回の襲撃の失敗と、その他色々なアクシデントで、ジャンク屋たちは相当深刻なダメージを受けたようだった。彼らがその後どうなったのかは不明である。

 タカシたちはスケルトンの出た遺跡から少し離れたところで、けが人の治療などをしていた。エレートなどが中心となって、ヒールや包帯でてきぱきと手当を進めていた。
「まあ、まだモンスターはでるかもしれないが、ジャンク屋たちの方はすぐには戻ってこないだろう」
 潤也がタカシたちに言った。
「ええ、もうこれに懲りて、略奪しないようになればいいんですけどね……」
 そうしているうちに、別行動していたノーマンたちもこちらへたどり着いた。
「テレサさん、無事でよかったです、ほんとうに……」
 ソフィアがテレサの無事を確認して微笑んだ。
 しかしその笑みは苦しさですぐに消えてしまった。
「ソフィア……!」
 倒れそうになっていたソフィアをあわててタカシが支えた。先ほどジャンク屋の親分に乱暴に捕まれたのが、よくなかったのだろうか。
「だんだん調子が悪くなってる……早く遺跡へ向かわないと」
 タカシが心配そうにつぶやいた。
「大丈夫だ、今日中にはたどり着く」
 黎はそう言うと、すぐに出発の準備をするように皆に呼びかけた。
「ソフィア……あと少しでライナスのところにつくから、それまで何とか持ちこたえてくれ」
 タカシはソフィアにそう言ったが、彼女の耳には届かなかったのだろうか。苦しそうにタカシの顔を見て微笑むのみであった……

 ソフィアの容態は、次第に悪くなっているのが誰の目にも明らかであった。
 急いでライナスの元へたどり着かなければならない。
 誰が言い出したわけでもないが、皆の心は自然と一つになったのだろう。
 静かに一行は歩き始めた。

 日が暮れ始めるころ、一行はついに目的の遺跡を見つけることができた。遺跡は岩でできた大きな建物で、半分地下に埋まっていた。
「まった、またモンスターが出てくるかもしれません……」
 ソフィアを運ぶのを手伝っていた高潮 津波はそう言っておそるおそる遺跡の入り口に近づいた。先ほどと同じくスケルトンが入り口の近くをうろついていたが、三体ほどだった。
 その程度の数のモンスターなら、彼らの敵ではない。
 ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいぶす)らの手によって、モンスターはあっと言う間に撃破され、タカシたちは遺跡の中に踏み込んだ。

 遺跡の中は狭い階段が地下に向かってのびていた。
 セイバーなどを前衛にして、ゆっくりと遺跡の中を進んでいく。タカシは列の中心くらいの場所で、ソフィアを背負いながら歩いていた。
 ソフィアに意識があるのかは、見たところ分からなかった。
 階段を下りると、広い通路がまた伸びており、途中で小さな部屋にいくつかつながっていた。
「ライナスはどこのいるのでしょうね」
 津波たちをはじめとして、手分けして遺跡の中を見て回ることにした。なかにはロズウェル・ジェフティ(ろずうぇる・じぇふてぃ)のように、宝物でもないかと探し回っている物もいたのだが。
 一番奥まで来た津波とウィルネスト、ヨヤ・エレイソン(よや・えれいそん)は、懐中電灯で照らすと、奥に大きな部屋があるのが見えた。
「うーん、ここは何の部屋だろう?」
 ウィルネストが懐中電灯を持ってのぞき込むと、部屋の中に大きな黒い影が広がっていた。
「……この遺跡を荒らすのは……何者だ……!」
 影が口をきいた。ウィルネストは驚いて懐中電灯を落としてしまった。
「ば、化け物……!」
 あわてヨヤたちの元へ戻り、ワンドを構える。
 そうするうちに、部屋の奥から、光る二つの目が近づいてきた……
「……まあたしかに君たちからすれば化け物かもしれないが、初対面の者に言う言葉ではないな」
 現れたのは一人の吸血鬼の男性だった。
「え、あれ、さっきの影は?」
 ウィルネストは確かに大きな影の化け物をみたと思っていた。
 吸血鬼は転がっていた懐中電灯をさして言った。
「あの明かりで私の影が映っただけだ」
「もしかして、あなたがライナスさんですか」
 津波がおそるおそるたずねた。他に遺跡に吸血鬼が住んでいるとは考え難い。
「その通りだが、君たちはいったい何者なんだ? 急に大勢で遺跡に押し掛けて。私は静かに研究したいから、ここで一人で研究しているのに、これではあんまりだ」
 ライナスは不機嫌そうに言った。よく見ると、奥の部屋には沢山の書物や巻物、工具や実験器具などが散乱している。おそらく彼も根っからの研究者なのだと思われる。。
 吸血鬼は不老不死だと言われており、何百年何千年と生きるとされている。その長い時間を使って、他の人がしないような研究に打ち込んでいる者もいるのだろう。
「すまない、ライナス。しかしどうしても会ってもらいたい人が居るんだ。時間がない、どうかたのむ」
 ヨヤがライナスに言った。
「私に会いたい人だと?」
 ライナスは興味を惹かれたらしく、顔を上げた。
「とにかく来てください」
 津波たちはライナスをつれてタカシたちの元へ戻った。